第37話 天敵の行方は!?
私達はギヨームの家まで走っていた。リズは相変わらず脚が速いが、じいや、オルガ、シャルルはカフェにいる。まだシャルルは村人に見つかったら大変だ。
「リズ、どういう事? セニクがいなくなったの?」
前を走るリズにカリスタが大声を出す。
「そうみたい。もう騒然よ。カリスタも面白いから野次馬しましょ」
「そうね、リズ!」
リズとカリスタは完全に野次目的らしい。明らかに楽しんでいる。実際、ギヨームの家につくと、野次馬がわんさかいた。
一方、私とクリスは笑えない。野次馬を押し除け、ギヨームの家に近づく。
三階建ての煉瓦造りの豪華な屋敷だったが、今は夕暮れ時も相まって、全く華やかに見えない。村の広場にも近く、立地もいいのに、メイドや執事、それに白警団のモイーズの怒号も飛び交っていた。
「セニク様のお部屋にこんなメモが残されていました。脅されてる、怖いって。昼間からお姿がないんです! 早く探して!」
若いメイドが泣いていたが、モイーズはやる気のない態度だった。メモを片手に一応は、メイドの話を聞いてはいたが、こめかみをさすり、死んだような目をしている。明らかにやる気がない。
私はこの状況を冷静に見ていた。セニクが行方不明になっているのは確か。メイドの証言も確実とは言えないが、セニクが誰かに脅されてるいる可能性がある。
誰に?
この際、消去法という雑な推理でもいいか?
推理作家としては、微妙な感覚が残るもののメイドに近づき、ギヨームの居場所を聞く。
「旦那様のギヨームも行方不明なんです! 事件ですよ、火事もあったし!」
メイドはセニクもギヨームを被害者だと決めつけていたが、私はそうは思わない。
まるでやる気のないモイーズに近づき、私はギヨームが犯人の可能性を説明した。
「うっさいな。女は黙ってろよ」
「はあ?」
まさか、ここでも男尊女卑をくらうとは。野次馬のカリスタやリズは、モイーズにブーイングをあげていた。
「おっさん、無能だな。仕事しろよ」
クリスも睨みつけていたが、モイーズの反応はぬるい。皮肉にもクリスの発言を裏付けてしまっている。
「仕事しろ。お前の使命だろ」
クリスはさらに圧をかけていたが、モイーズは「面倒くせ」と呟くのみ。
薄々気づいていたが、この国の男達は男尊女卑社会にあぐらをかき、全くの無能。白警団も優秀だという評判はさほど聞かない。
「こっちは村長と放火火事の調査で忙しいんだよ! 全くシャルルはどこいった? 火事現場でみたっていう噂は聞いたがね」
モイーズはまだその地点にいるらしい。私が話したギヨーム犯人説もまるっと無視。ナチュラルに無視。
これには、腑が煮えくりかえってくるが、どうにか深呼吸。
改めてモイーズの外見を観察。でっぷりと太り、頭も禿げている。実にだらしない体型だ。きっと食生活の管理ができていない。酒も好きそう。薬の副作用もあるかもしれないが、額には大きなニキビもできている。肌の管理もできない生活をしている。外見からだらしなさが漂う。確かにこの生活態度で仕事ができるわけがない。
クリスが以前、外見と見た目は一致すると言っていたが、当たっているケースも多いだろう。
「だったら、私がセニクとギヨームを探すわ。メイドさん、最後に彼らを見たのはいつ?」
私は無能モイーズを無視し、メイドに詳しく話を聞く。いつもは部屋でセニクとギヨームが政治談義をしている事が多いらしい。また、昨日はだいぶイライラしていたらしく、メイドにも当たりが強かったらしい。
「そう。メイドさん、ありがとう。さあ、クリス、セニクの居場所に参りますわ」
私はクリスの手をとる。今気づいたが、霊の潜入調査調査をした時のダミーの指輪をまだつけている。経営者として優秀なクリスもうっかりしているらしいが、今は無視だ。それどころではない。
「おそらく図書館か、その近くにいる。セニクはエッセイ本や後がきで、イライラした時は図書館に向かうって書いてたわ。可能性としてはある」
「さすがアンナ嬢。よく観察しているもんだ」
「ええ。時間もさほど経ってはいないし、図書館周辺を探しましょう」
ということで無能モイーズを無視し、二人で図書館の方へ向かう。村長が殺された現場にも近い。
気づくと、空はオレンジ色から薄い紫へ変わっていく。もうすぐ夜が近い。早くした方がいいだろう。夜になったら、犯人はもっと酷い事をしそう。そんな悪い予感がしていた。




