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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第1部・タラント村編

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第34話 重要な証言です

オルガの工房が火事になった。村は大騒ぎ。相変わらず新村長選挙も行われていたが、それどころではなく、噂や誹謗中傷も多い。消防団の調査によると、放火の可能性が大だというのに。


なぜか被害者のオルガの火の不始末をした。そんな根の葉もない噂もあり、オルガは運ばれた病院でも鬱っぽくなり、自宅にも帰りたくないというので、しばらく別荘で預かる事に。


シャルルも火傷を負ったものの、特に命に異常はない。この様子では逃亡の恐れも低いとし、別荘で元通り働かせる事になった。


そうは言ってもシャルルは村長事件に全く口を割らず、オルガと菓子を作ったり、じいやと読書したりしていた。


家事の犯人も村長殺人事件も全くわからない。という事で私は、もう一度家事現場に足を運ぶ事にした。


「焦げ臭いわね」


独り言が溢れる。オルガはショックだったが、あんなに可愛らしい工房が焼け野原となり、瓦礫の山も見てられない。この状況で森に火が広まらなかったのは、不幸中の幸いだろう。


テープが貼られ、現場の中には入れないが、村の噂通りの事件だろうか。確かにオルガは若い。少女といっても良い年齢だが、仕事はきちんとやっていた。火の不始末は信じられない。


「アンナ嬢!」

「リズ!」


そこにリズがやってきた。一時期は情緒不安定のリズだったが、今は目も色も落ち着き、これからカリスタのカフェに行くと言うが。


「リズ、確か火事の第一通報者はあなたって消防団から聞いたわ。何か気になる事ある?」


リズはまたしても第一発見者だ。今のところリズは容疑者から外していたが、何か知っているだろうか。藁をも掴む思いだ。ついつい睨んでしまう。リズは一歩後ずさっていたが、何か思い返しているようだ。


「そうね。火事の日、何か焦げ臭くて外に出たらもう火が上がってた」

「そう」


リズの証言を一応調査ノートにメモしておく。


「あ、そういえば。男が森にいた」

「男? 誰?」


少しでも手がかりが欲しく、ついついリズに詰め寄り、彼女はまた後ずさっていた。


「知らないわよ。とにかく男だった。顔は見えなかったけど、そいつが放火魔? しかし何でオルガの工房狙った?」


リズもそれが不可解らしい。


「いくら差別されがちなオルガでも、火をつけるほど? たぶん放火魔とうちの夫を殺したのも同一犯でしょう。同じ暴力性を感じる」


リズはわざとらしく震え、去っていく。


やはり放火魔=殺人犯?


まだ何の答えも出ない。もう一度別荘に戻ると、庭でオルガとシャルルが遊んでいた。この一件でオルガはすっかりシャルルに懐いてしまったらしい。


「シャルルにいちゃん!」


そう笑顔で接しているぐらい。


「シャルルにいちゃんはいい人!」


ここまで言うか。オルガの一件で私はシャルルの印象は良くはない。まだ犯人の可能性も大だと睨んでいるが、放火魔=殺人犯だとしたら、シャルルは違う事になる。


その時、シャルルは私たちと一緒にいた。完璧なアリバイだ。


「シャルル、やっぱりちょっと来て?」


私はシャルルの肩を掴み、半ば無理矢理クリスの部屋に連行。仕事をしていたシャルルと共に、改めて取り調べをすることに。ちなみにオルガの面倒はじいやに投げた。


「シャルル。お前はオルガを助けた。あの状況で勇気ある行動だったよ。俺はお前が犯人には見えない」


一方、クリスはシャルルを少し見直している模様だった。態度は明らかに柔らかくなっている。


それは同意。あの状況でオルガを助けに行く。咄嗟な事ではできないだろう。女にモテる事も理解したが、村長を殺すような人間にも見えなくなった。


「そうね。オルガを助けてくれた事は、私にもできないわ」


素直に褒めると、シャルルは顔を真っ赤にし、自身の頭を掻いていた。


「俺、母ちゃんも奴隷みたいな身分で。娼婦だったから、オルガの店が燃えてんのみたら、勝手に身体が動いていただけだよ」


はにかんでいるシャルルは、やはり人殺しに見えない。


第一容疑者なのに。事件解決が遠くなってしまった感覚はあったが、私は急速に頭を回転させていた。


シャルルは一旦、別荘で引きこもらせておこう。白警団のモイーズはシャルルを疑っている。このままモイーズに見つかってしまうのは、事態が厄介になりそう。


「わかった、シャルル? とりあえず村では身分を隠してられる?」

「お、アンナ嬢。隠れ家っぽくて面白いな」

「冗談言わないで。疑われているのよ」


とはいえ、シャルルは火事については硬いアリバイがある。そこまで神経質にならなくても良いだろう。


そして。


「お願い。シャルル。私、やっぱりこの事件を解決したいわ。殺人や放火。犯人がやってる暴力性が不気味なのよ」


これは一番いい気分がしない。この呑気な村で起きている事もミスマッチすぎて、全く笑えない。まるで聖域に土足で踏み込まれているような不快感。


この不快感は文壇サロンの一件でも感じる事。純粋な気持ちで創作した作品を、汚いおじさん達に踏み荒らされた。暴力性のベクトルに共通点がある。そう考えると、この事件、どうしても解決したい。


私の気持ちが伝わったのだろうか。クリスも深く頷く。シャルルの目も真剣だった。


「わかったよ。俺が知っている事は話す」


あらためてシャルルはロゼルとの一件やお金の件を話す。


そして事件当日。どうしてもロゼルに貢がれたお金が怖くなって、村長に返しに向かったところ……。


リズが血相を変えて本邸から逃げて来るではないか。これは何かあったと本邸に入ると、村長の撲殺死体。


「死体なんて見るのは初めてで! 俺、これは何かトラブルがあったと思い……」


思わずフェソ街へ逃げ、風俗街で食い繋いでいたという。王都にも友達や親戚がいたが、資金面で工面できず、とりあえずフェソ街に滞在中だった。


これでシャルルの事情と足取りは確認できた。調査ノートに書き込みつつ、シャルルの証言には嘘はなさそう?


確かに証言だけなら怪しい。村長を殺して逃げてもおかしくないが、彼は放火には確実に関わっていない。


この事件、放火も同一犯の可能性大。


もう一つの動機の見立てを思い出す。銀貨伝説で森を掘り起こされそうになり、村長を殺した。おそらく行方不明者の男が森に埋められている。それを書くそうとし、森にある工房も放火もした。村長も殺して。一応筋は達る。


「おい、アンナ嬢。そんな簡単にシャルルが犯人でないって言っていいのか?」


クリスは拍子抜けしていたが、私は頷く。


「もう逃げないでこの別荘にいるって約束できる?」


一応念のためだ。シャルルと約束した。なぜかクリスはぶつくさと文句を言っていたが、これでいいだろう。


今度はもう一つの動機から犯人を洗う方が事件解決する。そんな確信も持ちながら、シャルルに他に何か気になる事はないか聞く。


「お願い。些細な事でもいいわ。何か覚えている事ない?」

「そうだな……」


シャルルは腕を組み、座り直すと、とんでもない証言をした。


「そういえばちょっと昔、ギヨームの親戚のおじさん、セニクだっけ? あいつが森にいるの見た。ギヨームも見たな。どっちも銀貨探してるっぽい? 二人とも何か探ってたぜ」


重要な証言だ。慌ててノートにこう書く。


・容疑者が絞られたかも。犯人はセニク、あるいはギヨーム。


 

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