第33話 取り調べをいたしましょう
犯人の可能性大の男が目の前にいる。金色の長髪、線が細い身体つきは中性的。顔立ちも整い、確かに村の噂通りだ。女に好かれそうなルックス。
しかし、涙目で叫び、命乞いをしている姿はいただけない。村の女達も百年の恋が覚めるかもしれない。
あの後、シャルルを別荘まで運んだ。正確に言えばクリスがガッチリとシャルルの肩を抱き、連行という表現正しいかもしれない。
クリスの部屋でシャルルに事情を聞いていたわけだが、黙秘→泣き叫ぶ→命乞いを繰り返し、時間は溶けていく。窓の外は陽が落ちてきた。
クリスだけでなく、私やじいやも含めてクリスに事情を聞こうと試みたが、進まない。
「助けてくれ! 俺は村長を殺していない!」
じいやにすがり、命乞いをしている姿は、側から見ている私とて涙目になるほど情け無い。初対面では子犬のように弱々しく見えたシャルルだが、今はもっと小さな虫に見えるから困りもの。
「いいから吐けよ。お前が犯人だろ? 何か知ってるんだろ? このまま黙ってたら白警団に突き出すぞ!」
クリスは低い声で脅し続け、さらにシャルルが萎縮。
「もう、クリス。もう少し大人しく理性的に行きましょ」
私は咳払いをし、シャルルに向き合って調査ノートをめくる。
村長の不透明なお金。ロゼルへラブレター。ロゼルの化粧品。そんな証拠を一つ一つ冷静に語っていく。
案外楽しい。これだと本当に推理小説の名探偵みたいだ。実際、シャルルも舌打ちし、私の調査結果には反論できないらしい。
「ロゼルと付き合ってた? ロゼルに大金を貢がれた?」
あんまりにも私が冷静だったから、シャルルも落ち着いてきたらしい。
「あ、ああ」
シャルルは深く頷いていた。私の調査結果が間違いないらしく、思わず心の中でガッツポーズを取りたくなったが、まだまだ自白させるまでは行ってない。
「もしかして村長とトラブルあった?」
シャルルの目が泳いだのは見過ごせない。明らかに何か隠してる。
「そうだぞ、言えよ」
クリスは相変わらず怖い声を出していたが、じいやはおっとり笑う。温かい紅茶を差し出し、シャルルに飲ませていた。
「風俗街にいたと聞きましたよ。大変だったでしょう」
じいやの優しい声に、シャルルは泣いていた。さっきまでとは別の涙だ。子供みたい。シャルルは根っからの極悪人?
じいやの優しさに触れ、泣いている姿は、とても人殺しに見えない。クリスもさすがに「言いすぎた」と謝っているぐらい。
「私達、犯人を探しているの。本業は推理作家だけど、濡れ着着せられたんだよね」
それに私が事情を説明すると、シャルルも深く頷く。特に村人に迫害された事を話すと、コクコク頷いているではないか。シャルルも村人との関係に悩んでいたのだろう。
「俺、自分で言うのも難だけど、イケメンじゃん? だから村人のモイーズとかによく悪口言われて。こんな容姿に生まれたばっかりに」
「そうか」
これにはクリスも同情。確かにクリスの容姿が良かったが、良い事ばかりでなさそう。
「ええ、あなたの気持ちはわかったわ。私は犯人を捕まえたいだけ。シャルルの人格否定したいんじゃないから。知ってる事話して?」
シャルルはようやく観念したらしい。
また頷いた後、死んだ両親が借金を作り困っていた事。女をたぶらかし、どうにかお金を返していたが、付き合っていたロゼルが急に結婚願望をちらつかせ、困っていた事を語る。
その上、ロゼルからは大金を貢がされるようになった。確かにこの金があれば借金が返済できるが怖くなり、ロゼルと村長のお金の流れも独自に調べていた。
「それで村長が国からの給付金とかポケットマネーにしているの気づいた! ロゼルにも貢いでいると知って、俺、俺は怖くなったんだよっ!」
シャルルの顔は真っ青だった。
私はシャルルの顔を見ていたが、とても演技をしているようには見えない。おでこやこめかみにも汗が浮いてる。指先が震えている。目の奥に光もない。演技でここまで再現するのは無理。先程はクリスと夫婦のフリをしたわけだが、ここまでのディテールの再現は無理だ。服装や指輪などの小道具に頼らないとできない。
「そ、それに村長と話し合おうと思って家にも行ったが……」
そんなシャルルの証言はここで止まってしまう。
「家に行ったら?」
私は続きを促すが、シャルルは口を引き結び、さらに顔が青い。まるで幽霊のようだ。
「おい、何があったんだよ。話せ」
クリスは貧乏ゆすりしながら聞いている。急に証言が止まったシャルルにイライラしている模様。
「まあまあ、クリス。ここはゆっくりお茶で
も飲みましょうよ」
じいやが明るく言い直した時だった。窓の外から物音がする?
急いで私は窓を開けたが、焦げ臭い。鼻の奥がヒリっと痛むような匂い。顔を顰めた。
「何この、匂いは?」
「火事か?」
クリスは恐ろしい事を言う。とりあえず一同、別荘の外に出た。もちろん、クリスはシャルルの肩を掴んで逃げられそうな状況にないが、焦げ臭いにはすぐ近く。
「待って、森の方よ! オルガの工房の方から匂いが!」
それに気づいた私。一同動揺。が、なぜかシャルルだけは冷静だった。一人でオルガの工房まで駆けていく。
「オルガ!」
シャルルはそう叫ぶと、火で燃えている工房に駆けていく。
工房は火の包まれ、森の木々にも炎が広がっていた。このままだと森自体が焼きつくされる!
「じいや! クリス!」
私は叫ぶが、火は全く消えない。焦げ臭さと熱風に立ってられず、じいやとクリスに支えられて、ようやく正気でいられる。
一方、シャルルは火傷を負いながらもオルガを救出いるではないか。シャルルに背負われたオルガは、意識はなさそうだが、死顔ではなかった。
あっという間に村の消防団もやってきた。消防団は手際よく、火を消していく。思ったより、炎火しなかった。あっけなく鎮火されてしまったが、なぜオルガの工房が……?
「どういう事?」
とにかくオルガが助かった。火も消えた。誰も死んではない。
工房は全焼し、森の一部も消えてしまったが、被害は最低限。
いい事だ。オルガやシャルルの命も問題なく、この点も良かったのに、納得できない。
「どういう事? これも村長殺人事件と関係あるの!?」
気づくと私は叫んでいた。
ようやくシャルルが見つかった。これで事件も解決できそうだと思ったのに。
恋愛のもつれでシャルルが犯人でした。
どうやら、こんな一文で終わるプロットでは無いらしい。
だったら犯人はだれ?




