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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第1部・タラント村編

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第31話 犯人の居場所がわかりました

翌日、昼間。私は別荘のダイニングテーブルで紅茶を啜っていた。


あのサイン会の後、体調不良になってしまったが、じいやが隣の村から薬も調達してもらい、クリスには温かいミルク粥も作ってもらい、ぐっすり休み、ようやく回復してきたところだ。


じいやも隣の村に行き疲れたのだろう。今は執事室で休んでいる。クリスは仕事で自室で手紙を書いている。セニクの親戚が経営している企業の人脈引き抜き計画を部下に送っているらしい。


「いや、別にそこまでしなくて良いんだけど……」


紅茶を飲みながら、クリスの行動の不可解さに首を傾げる。もっとも元々性格があまりよろしくないので、セニクに復讐したいのかもしれない。そう思う事にし、ゆっくりと紅茶を啜った。


今日は村長殺人事件の調査が何もできない。白警団のモイーズが一歩リードしているかも。そう思うと焦りはあるが、それは禁物だ。


作家業をしていた時も、同業者のことは考えないように編集部にアドバイスされていた。同業者に嫌がらせをし、廃業したものもいるらしい。それに文壇サロンのおじ様、とくにセニクのようにはなりたくない。セニクは同業者を潰して成り上がってきたタイプだろう。昨日もセニクの態度を思い出し、深く頷いてしまう。


そこにチャイムが鳴った。見舞客としてカリスタが来てくれたらしい。


休んでいたじいやだったが、紅茶を作り、私のいるダイニングルームにカリスタを案内してくれた。


「本当にセニクとかいうオッさん腹立つわ! 今日は広場で選挙運動中だったけど、笑顔で握手会とか開いていてね」


カリスタはご立腹。元々大柄で声も大きいカリスタだったが、さらに迫力がある。


「握手会は選挙法違反にならないの?」

「それがならないんだよ。金品や物のやり取りじゃないからね。本当あのオッさんむかつく。ギヨーム何かに負けないし!」


そう吠えたカリスタは、私に向かって微笑む。


「アンナも負けないで。事情はよく知らないけど、あの汚いオッサンに女だからっていじめられたんだろ?」


まさにその通り。男尊女卑国家の女はさすがに察しがいい。


「私はアンナの味方だわ。あんな汚いオッサンに負けないで!」

「カリスタ……」


気づくと涙目。二人で抱き合っているぐらいだった。


そして見舞客は続く。今度はオルガが来た。


「アンナー! 小説読んだよ! すごいじゃん!」


サイン本を手にしながら、オルガは無邪気に笑っていた。お土産でドーナツももらい、二人でワチャワチャと小説の話をしているだけで、泣きたい気分も消えてしまったが。


「っていうか、クリスってアンナの婚約者なの?」

「え!?」


なぜそんな誤解が?


「あのサイン会の後、クリスが倒れたアンナをお姫様抱っこしてた。え、恋人!?」


まさか。そんな記憶はない。ないが、オルガの言葉が本当だとすれば、顔が熱い。


「お似合いだよ! 結婚しちゃえばいいのに!」


オルガは最後にそんな事まで言い、困惑しかない。


次はリズが見舞にやってきた。以前、じいやと一緒に作ったという手芸品のひざ掛けや靴下、ストールもお土産に持って来る。もうすっかご機嫌になったリズ。私がそれらを褒めると、はにかんでいた。


「アンナ嬢、あんな汚いおじさんに負けないで。あなたには、じいやさんという素晴らしい味方がいるじゃないの」

「リズ……」

「正直、じいやさんが居るのは羨ましいぐらいよ。それに」


リズは隣国の出版社の親戚に手紙を送ったという。村に天才推理作家がいるって。


「それ、私のこと!?」

「そうよ。だから頑張って。殺人事件も推理小説もいけるから。特に小説は私をモデルにすればいいわ」


まだモデルにする話を忘れていないリズ。


「そうね。村で腫れ物になっている未亡人が探偵になり、カフェ店長とコンビを組み、謎を解決する……。やっぱり意外と悪くないわ」

「でしょ? 女が書く女の為のミステリよ。文壇の汚いおじさん達を見返してやればいい」


リズの調子に乗った声を聞きながら、私もだんだん元気になってきた。


そしてダニエルも見舞にやってきた。


「ごめん、アンナ嬢。俺がサイン会なんて企画したから!」


頭を下げて謝っている。


「悪いのはセニクよ。頭あげて」


私は慌ててダニエルに声をかける。こんな真面目で人の良いダニエルを間接的に傷つけているセニク。ますますセニクへの怒りが募ってしまうから困る。


「それにサイン会自体は楽しかったよ。あなたのせいじゃない」

「アンナ嬢……」

「悪いのはセニクよ。ところでロゼルの様子は?」


そう、まだ事件は解決していない。これも聞いておかないと。


「銀貨伝説で土地を本格的に発掘するそうですね。日取りも決まっているとか」

「そう」


このままだったら、行方不明のコリンの遺体を埋めた犯人がいたら(仮定)、何か動く?


ここはロゼルの計画通りに進めた方が良いだろう。


「ありがとう、ダニエル。とても助かっているわ」

「わー、嬉しいぞ。これからもロゼルの動向チェックしてきます!」


ダニエルは笑顔で別荘を去り、役所に戻っていく。


そして最後の見舞客がやってきた。ギヨームだった。なぜかクリスも同席し、ギヨームを睨んでいるのは不可解だったが。


ギヨームも頭を下げ、セニクの無礼を謝ってきた。


ギヨームの立場を想像すると、板挟みではないか。クリスは腕を組み「もっと謝罪しろ」と失礼な事を言っていたが、私は慌てて逆に謝った。


「セニクおじさん、俺たちも昔から困っている人で。無理矢理政略結婚させたり、金遣いも荒くて、暴言も当たり前で。セニクおじさん、生まれた時の星のめぐりが悪い事は知ってるけど」


オカルト話を忘れないギヨームだったが、やはりギヨームは悪くなさそうだ。この様子ではセニクに手を焼いているのだろう。


「ギヨーム、オカルト話はもういいわ。あんな汚いおじさんが親戚だったら、大変でしょう」

「ええ。本当に。俺はセニクおじさんが村長殺していても不思議でないと思う」


まさか、セニクが犯人?


「でも一応、あの汚いおじさんが犯人である証拠はないわ。ところで、ギヨーム。あなたは誰が犯人だと思う?」

「そうだな、君はどう思う?」


私とクリスに前のめりに言われ、ギヨームはタジタジだ。


「わ、わからないです。でも行方不明のシャルルが怪しいよね。シャルルはたぶんフェソ町にいると思うけど」

「え!?」


まさか爆弾発言。私は変な声が出た。


フェソ町はこの周辺では比較的栄えている土地だった。王都ほどではないが、人口が多く、工場も他数ある土地だ。


労働者と商業施設も多く、治安はさほど良くないといわれている。大きな風俗街もあるらしい。


「実はフェソ町に選挙資金を借りに行った時、風俗街で見たんだよ。あ、これは付き合いで行っただけだが、誤解されるのも嫌でさ。モイーズに言えなかった」

「本当!?」


これは大きな情報だ。さっそく明日フェソ町へ行くと決意した。


ギヨームが帰った後、クリスに相談したが、なぜかクリスは不機嫌だ。


「アンナ嬢、ギヨームにヘラヘラと笑顔を見せるな」


口を尖らせ、いつもより声も低い。その上、フェソ町の調査も一緒についていくと宣言。


ちょうどそこのじいやも紅茶ポットを持って登場。事情を知ると、こんな提案もしてきた。


「お嬢様、フェソ町は治安が悪いです。クリスとは夫婦のフリをし、潜入した方がよろしいでしょう」

「え、じいや。何を言ってるの!?」

「そのアイデアはいいな。よし、まずはフェソ町で変装もして、風俗街へ乗り込もう」

「クリスも何を言ってるの!?」


じいやもクリスも私の困惑を無視し、淡々と計画を進めていく。


どうやらこの計画はその通りに進みそう。それに犯人の可能性が高いシャルルの居場所もわかった。これはきっと喜ばしい事だ。


 

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