番外編短編・娘の悪い虫
私は作家のA。男だか女かわからないペンネームだけど、今は結婚し、一人娘もいるからね。本名で活動しないで良かったとは思うけれど、最近どうも娘の様子がおかしい。
「ねえ、アニス。最近どう?」
朝食後、娘にそれとなく聞いてみた。夫は出張中だし、今がチャンス。
「え、どうって?」
娘、露骨に目が泳いでるでいるわ。もう十五歳の娘。そろそろ隠し事もするようになる年頃かしら?
作家業のかたわら、副業で探偵事務所を運営している私。娘の様子も何か察するものがある。
「まあ、いいわ。とにかく学校行ってらっしゃい」
「う、うん。ママ、行ってきます!」
娘はドタバタと支度をして学校に行ってしまったが、すぐにメイドのマクダを呼び出す。
マクダは娘の専属メイド。私との付き合いも長く、友達みたいなものだけど、それとなく娘の様子を聞いてみた。
「ねえ、マクダ。最近、アニスの様子はどう?」
「え!?」
マクダ、明らかに動揺していた。声がうわずってる。
「い、いえ。私、仕事がありますから!」
そう言って逃げてしまった。
「ますます怪しいわね」
かといって部屋をのぞいたり、尾行したり探偵業みたいなことはできない。
「ということよ、クリス。アニスの様子どう思う?」
数日後、出張から帰ってきた夫に報告。
「まさか。悪い虫でもついてるんか!?」
娘を溺愛している夫、何か誤解し、泣じはじめてしまった。
「アニスはパパと結婚するって言ってたのに! 悪い虫、絶対ゆるさん!」
「あのー、クリス? そこまで妄想を膨らませなくていいんだけど? 今のところ悪い虫の証拠も何もないわ」
おめおめと泣いているクリスに引きながらも、本当に悪い虫がついたら困る。娘本人というよりは、夫が問題だ。やられたらネチネチと倍返しするぐらい性格がよろしくないし、「悪い虫」もクリスに関わったらトラブルに発展しそう。
ということで、さらにマクダだけでなく、学校の友人、先生、近所の人に事情を聞いてみた。こんなの朝飯前だったが。
「え? アニスってホラーや怪談を話して、同級生の男の子たちを怖がらせてるの?」
副担任の先生に事情を聞き、ようやくわかった。娘、ホラー小説にはまり、そんなこともしているらしい。学校では作家令嬢二世としてかなり怖がられているとか。
「アニスさん、相当変わった令嬢ですね」
副担任の先生にも呆れられ、私は恥ずかしながらも深く納得。やっぱり私の娘だわ。凝り性というかマイペースというかオタクというか……。
とはいえ「ホラーなんてやめろ」なんて言ったらどうなるか、私の経験上、どうなるかもすぐに予想がつく。さらに燃えてしまい、オタク街道を突き進むだろう。
「まあ、しばらく放っておくか?」
このことを夫に報告したら、上機嫌だった。今のところ、悪い虫がいないのは良かったかもしれない。
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