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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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番外編短編・ミステリマニア転生

 私は作家のA。主に本格ミステリを書いてるわ。本名はアンナ・ドニエ。最近、結婚したからなかなか名前が言いにくい。


 今日もいつものように自宅の仕事場で原稿を書いていた。新作よ。スタテル島をモデルにしたミステリ。本格ではないミステリ。素人探偵が人柄と観察眼だけを頼りに事件を回復する話。ミステリということになっているけれど、暗号文も密室トリックもなぜか肩透かしとなりお魚料理を食べるシーンがメインになってしまい、グルメ小説みたいになっている……。


 以前もタラント村やアサリオン村をモデルに少し書いたが、こういう本格ではミステリってなんて言うんだっけ?


 私も推理オタクだけど、そんなジャンルは我が国にはない。ファンタジーやコメディタッチのミステリは一部あるんだけど、本格ミステリが圧倒的に人気ね。


 そんなことを考えながら、ついうとうと。眠いわぁ。締め切りも近いのに。


「は?」


 しかし、次目覚めた時、アンナ・ドニエじゃ無くなっていた。作家Aでもない。別人だった。


 名前は佐々木アニス。文明が高度に発達した日本という国でミステリ小説の評論家をしている女だった。


「は?」


 佐々木アニスの怒涛の記憶が流れ込み、混乱。


 まあ、この人、ミステリマニアだし、自宅を仕事場にしているところとか、現在も締め切りに追われているところとかそっくりじゃないの。親近感があるのはいいわ。


「わぁ、日本って国はノートパソコンってもんがあるのね。佐々木アニスは一体どんな原稿を書いていたのかしら?」


 仕事場にあるノートパソコンとやらを勝手に見てしまった。


「コージーミステリの歴史と地域社会の回復〜ミステリであってミステリじゃないジャンル。〜じゃない方の大逆転劇〜って何この評論文!?」


 原稿を読むと、佐々木アニスはコージーミステリというミステリジャンルの評論を作っていたらしい。


 これが目から鱗。コージーミステリとは素人探偵が狭い地域社会で活躍するミステリジャンルらしい。しかもトリックを見抜くより、聞き込みや潜入調査などコミュニケーション能力を武器にする探偵。特に英国や米国で発達したジャンルで、日本ではあまり作例がない。日本では日常の謎解きと言われているものがコージーミステリと混合されやすいという。日本では本格ミステリの権威が長く「〜じゃない方」として雑にまとめられてしまったらしい。


「って私が巻き込まれた事件、このコージーミステリっていうジャンルにものすごく当てはまってる!?」


 本当に目から鱗。しかもこのコージーミステリ、元々本格ミステリのカウンター的側面も多く、摩訶不思議なジャンルでもあるらしい。ミステリジャンルで出すと嫌われやすい。確実に本格ミステリ好きにはターゲットじゃない。むしろ恋愛、友情、家族愛などが好きな人の方がファンになるらしい。作中に出てくる料理やインテリア、ファッションなども魅力の一つ。


 サプライズより日常やマンネリ、専門家より素人探偵、トリックよりも愛と平和に包まれたジャンルだという。例え殺人事件を扱っていてもそのタッチは変わらない。素人探偵が刑事や探偵などの専門家を「ざまぁ」するのもコージーミステリの楽しさの要素とあるが……。


「へ、へぇ……」


 佐々木アニスの評論文の熱量に引くが、これで謎が解けた。凝ったトリック、密室、暗号文など巻き込まれた事件で本格ミステリ要素がことごとく潰されていたのは、まさかコージーミステリの世界だったから!?


「は?」


 そこで目が覚めた。どうやら夢だったらしい。悪夢だったかも……?


「まあ、いいか。とりあえず我が国にはコージーミステリというジャンルは存在しないわけだし……?」


 ということで仕事に戻ろう。締め切りが近い。うっかり夢を見ている暇もないはず。

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