哀愁の出発
ジョーとサイリアは幌馬車でオジュール達と王都に向けて出発していた。
予定を繰り上げ2日ばかり早く出発する事になった。
現在はベルンの町を出て北東方向に進む。
クシュの草原にある通商の為にならされ、草木が生い茂らない通り易い道を馬車の列が10台ほど連なっている。
天気の良い日差しと春の陽気のように暖かい風が草原を優しく撫でていた。
「あ~、気持ちがいいわね。ほら、ジョーそんな憂鬱な顔はこの景色には似合わないわよ」
サイリアが馬車を操縦しながら隣に居る“不機嫌・憂鬱な騎士”ことジョーに話しかけていた。
ジョーはいま草原を眺め感傷にひたっていた。
あれから――ジョーの扱いは酷かった。
アリアやニュウを始め、美人受付達から“セクハン”の嫌疑を懸けられてしまったようだ。
ギルドカードを雑に扱われ、目も合わせてくれない。そして最後に冷たい瞳でジョーを見るのだ。
信頼を失い、そしてもう話しかける事をしても笑顔は見られないだろうと思っていた。
カティアの方は話し合いを重ね。結局、『王都のお菓子』と『最新の最先端の服』という何とも“お嬢様・カティア”らしいお願いをきく羽目になってしまった。
当然、弟子であるメリーダの分も買って来なくてはいけない。
しかし、――財布にも精神的にも重くジョーに圧し掛かった事により――。
「はあぁぁぁ………――――」
ジョーは深く溜息を吐いた。
それはこの綺麗な青空を吹き飛ばし、世界を黒々とした気持ちに染め上げるような深く、深く、自分の中のどす黒いモヤモヤを一緒に出そうとしているようだ。
「ほら、元気出しなさいって、みんなも“いつか”分かってくれるわよ!」
サイリアが溜息に反応して、そう励ました。
「サイリア……“いつか”って“いつだ”。明日にはみんな俺に優しくしてくれるのか?」
「そ、それは……」
ジョーの質問に言い淀み、言葉が続いて出てこなかった。
答えが出ない事はジョーもサイリアも分かっていた。
「あぁ……ちょうどよかった。30日以上も離れば疑いも晴れるのかな……」
「そ、そうよ、ジョー!! そうすれば、大丈夫だって」
「そうだといいがな……」
【ジョー、1つだけ言ってやる。 人の噂も75日と言ってそうしないと消えないそうだ。それにセクハンは一生ついて回るそうだぞ……】
ジョー達が座っている操縦席の後ろから、蛇腹刀ことスネークが話に割り込んで来た。
「おい、本当かよ、そんなに長いのか?」
【そうだ、人ってヤツは噂や迷信を信じるもんさ、それに性的な事は禁忌な事だからなおさらだな】
「はあぁぁぁぁぁ……」
スネークの言葉にまたも溜息を吐きだした。
「まぁ、なんて言うかな。アレよね、師弟関係でも男女の関係だから難しいって言うじゃない。そう言う事なのよ……」
サイリアは必死にフォローしようとしている。
「あ~ぁ……、なぁ、サイリア。どこかに記憶を消す魔道具無いかな?」
「そんな都合の良いモノある訳ないでしょ……それに思うんだけど。それを探すのにどれほど時間がかかると思っているの?」
「そうだよなぁ~、もう王都に拠点でも移そうかな……」
まんざらでもないような雰囲気の言葉をサイリアに伝える。
「もう、計画性のない言葉!! カティア達の訓練はどうするの?」
「王都から通う」
「アホ!! 金がかかる上に時間もかかる」
「仕方がないだろ。それしか俺の心は癒せない」
「大丈夫。たいした傷も負って無いから!!」
「い~や、負ってるね。ニュウとかアリアとかライネとかはもう少しで落とせそうでした」
「全く、嘘つき! そんな噂なんてなかったじゃない! 嘘つき騎士!」
「アッ、なんだと!!」
そうやって道中醜く言い争うジョーとサイリア。
その様子を聞いて魔剣は思う――「夫婦喧嘩か…」と――。
※※※
ベルンを出て4日。宿場村や町に立ちよりブリューシュ王国の王都に到着していた。
町を囲っている城門を潜ると、そこはお祭り騒ぎだった。
ブリューシュ国でドレイク討伐武練会とは各地の貴族や冒険者が集まり、その討伐数を競い合う一種のお祭りだ。
冒険者や貴族の私兵が集まると言う事は商人も集まり、商人が集まると言う事は人も集まる。そうして王都の経済も活性化する。
この時期に合わせ、大道芸人や臨時の娼婦館も開かれ、各地から職人も集まり祭を盛り上げる。
期間の長い祭りで町には数多くの出店が立ち並び、人がこれでもかと犇めきあっていた。
楽しい声と騒がしい声が混ざり合い。町を盛り上げている。
「わぁ~凄い!!」
人だかりと大道芸をしている一団を見ながらサイリアは感嘆の声を漏らす。
「この国で一番デカイ所だからな……これ位の人だかりは当然だろう」
ジョーは馬車をゆっくり操り、周りに注意して動かしながらオジュールの一団についていく。
サイリアは流石にこの人だかりで操縦させるのは酷なのでジョーが変わっていた。
深く帽子を被り、人目をさけるように辺りの様子を窺っていた。
「アッ……酔いそう……」
不吉な言葉を口にするサイリア。
「おい、後ろに移れよ。人混みは苦手なんだろ?」
「うん……そうする……」
そう言って幌のついた荷台の中にサイリアは入っていく。
青い顔をして具合が悪い様子だった。
「まったく……」
ジョーはそう言って手綱を動かし、愛馬に合図を送る。
そのまま石畳で舗装された道を、馬車の一団は群衆を避けるように進んでいった。
――そして、オジュール達の案内の元、王都にある巨大な宿屋の庭先に到着した。




