作戦開始前3
オジュールは翼陽の団の団長として作戦開始前に挨拶に行っていた、そこで今回の王様小鬼討伐作戦の指揮官である王国騎士団団長の『ザボル=バイル・フェン・リュ―スタス』と言う名前の貴族に会って話をして、その際、「君達は今回、何もしなくていいから」と言う内と、「作戦に口出しをするな!」と、言う内容の“熱烈な激励”を頂いたらしい。
そのまま何も意見も聞かず出ていく時に「カネの亡者共が!」と“お褒めの言葉”を貰った事をジョー達に説明してくれた。
「――、そして俺は今、その事を忘れない用にここで復唱していたわけだ」
と、おどけた顔のまま、ジョー達に不貞腐れている理由を説明してくれた。
「そいつは、随分と“アレ”な奴だな……」
ジョーはオジュールの説明を聞いて、それしか言えなかった。
ザボルと言うヤツは随分と自尊心が高く、我儘な奴だとわかるには十分な内容だった。
それを聞いたジョーは色々と考え込む。
「オジュール、そいつは若い奴なのか? 強そうな奴か?」
「いや……、初陣の貴族の坊ちゃんって感じだな、横に壮年の騎士のジイさんがいたけど多分お付きの奴だ」
「そうか……」
ジョーは悩んでいる表情をしたまま腕を組んで考えている。
オジュールは乾いた笑いをしながら、机にある水を飲みだした。
ヒュールは暇そうにしている。
「ねぇ、ジョー、聞きたいんだけど、何でさっき『作戦の場所が』とか言っていたの?」
突然横から、サイリアは悩んでいるジョーに訊く。
「…ン! サイリアわかんないのか? ……そういえば、戦場は初めてだっけ?」
「……そうだけど、こんな大規模作戦初めてだから……」
「……そうだったな、説明してやるよ、オジュール、地図借りるぞ」
ジョーそう言うと、オジュールは「どうぞ、どうぞ」と言って許可してくれた。
ジョーはそのまま机の上にある地図を取り出してサイリアに見せた。
「いいか、サイリア、草原は一見普通の戦場だが……ここよりも迎撃しやすい所があるんだ」
ジョーがそう言うと今指している地図の上から下に移動する。
「ここが、渓谷のように道幅が狭いから最適だけど……」
「草原じゃいけないの?」
サイリアはジョーに訊いた。
「別にいいが俺達に何も有利に働かないだろ、見晴らしがいいだけだし、そう考えると……」
「あいつら、騎兵なんだよ」
と、ヒュールが話に割り込んできた。
「やっぱりそうか……馬の鳴き声がしていたからな……そうだとは思っていたが……」
ジョーはやっぱりか…、と言う顔をした。
「やっぱり、そっちの方が有利なの?」
サイリアはあまり分かっていない感じだった。
「ああ、草原では騎兵が有利なんだ、当然だな、機動力もいいから、だから王国軍はこの場所を迎撃場所に選んだんだよ、冒険者に手柄を取られたくないからな」
ジョーはサイリアにそう説明いた。
冒険者は馬を移動用に使っている者が多いが、戦闘用の騎馬をもっている者は少ない。
「そういうことだ、俺達はお役御免だな。ハッハッハッ!」
オジュールは揶揄するように笑った。
「まぁまぁ、団長、今回は仕事が楽だと思えばいいだろ」
ヒュールがオジュールを慰める。
「それに、普通はさ、ジョーの言う通りの場所で迎撃するもんだ、こっちの方が安全で、何より大人数の迎撃に向いてるからな」
「そうなのヒュール?」
「ああ、道幅が狭いと一気には攻めてこないだろ、それに防御もしやすいし、何より攻める方向も一方向だと楽だからな」
ヒュールは地図を見ながら、サイリアに説明した。
サイリアも頷きながら、「そうなんだ~」と感心する。
「だけど、不安要素が大きすぎるな、我儘で若い騎士団長、大勢の小鬼達と王様小鬼、何より自分達だけでやろうとする国王軍だろ……、ヒュール、この作戦の勝算はどの位だ?」
ジョーがヒュールにそう聞くと、ヒュールは首をひねり、顔を歪ませて答える。
「……50対50だな……」
その答えは、勝率が50“も”あるのか“しか”ないのか中途半端な回答だった。
普通の騎士団団長だったら、冒険者と腹に一物はあっても、露骨には扱わずにしておくべきだと考える。
さらに、防衛しやすい有利な所で戦うはずだと思っていた。
通常だったら、勝てる作戦なのに、指揮官が馬鹿すぎで負ける可能性があると、ヒュールの言い方は示していた。
「そいつは随分な“過大評価”だな」
ジョーがそう言うとオジュールは「ガッハッハッ!」と、豪快に笑った。
「団長、笑い事じゃないだろ、いくら小鬼の集団が相手でも、こっちは全部合わせて400人程度だぜ、油断したらえらい事だろ」
と、ヒュールが呆れる様に言う。
ヒュールの言葉に状況を察したサイリアが青ざめた表情をして、ジョーを見ている。
どうしよう!! と、ジョーでも分かる顔を見せてきた。
ジョーは溜息を吐いて、表情を直すとオジュールを見つめる。
「オジュール、最悪の場合、指揮をしてくれよ」
「おいおい、ジョー……なんだよ、藪から棒に」
オジュールは手をヒラヒラさせてやる気が無い。
「オジュール、頼むよ、冒険者に『最悪を想定して行動しろ』と『馬鹿にはついていくな』って金言があったろ、さすがにこの話を聞いてその団長についていけないだろ、あくまで、失敗しそうな時だけでいいから」
ジョーはオジュールを真剣に見ながら頼み込む、それが生存確率を上げると思ったからだ。
冒険者の中で言われている、『最悪を想定して行動しろ』とは、その通りの意味だが、『馬鹿にはついていくな』の方には続きがあった、正確には『馬鹿にはついていくな、もう一度言う、馬鹿にはつくな』であった。
2回同じ事を言っているのは、それだけ冒険者の中で重要といえる事だった。
要は“馬鹿な者につくと自分が死ぬぞ”と言う事だった。
「団長、ジョーの意見に賛成、この中で一番ギルドランクが高いのは翼陽の団だからな」
ヒュールが何食わぬ顔で手を上げ意見を言った。
ジョーと翼陽の団の頭脳のヒュールにも言われたオジュールは苦い顔をしていた、失敗した時の立て直しは思いのほか大変だからだ。
「……しょうがない、…考えておくよ」
と、オジュールは渋々同意する。
――話が終わって来る頃に突然簡易テントの入り口が開く。
「おーい、ここにオジュールがいると聞いたんだが」
冒険者パーティの“双璧”のガルンとガインが立っていた。
そして、そのまま相談しだす、ジョーが今はなしていた内容と同じ事を、結局どこの冒険者も王国軍の情報を仕入れてみたら、同じ結論にたどり着く、『オジュールに指揮官をやってもらおう』と、冒険者全員が思っていた。
――これで、オジュール=カッパーノは裏で秘密裏に指揮官に任命された。




