冒険者メシ
「じゃあ、メシの用意を始めるから、カティア達は“遊んで”いいぞ」
ジョーはクタクタになって座っているカティア、フィフィ、メリーダに声をかけた。
しかし、山道の走破と舞流鈍素振りで体力を限界まで使い果たした彼女達に、現在、遊ぶ余裕は無かった。
(まぁ、初日はこんなもんか…)とジョーは納得しつつ、荷物をとりに拠点に戻った。
***
ジョーは日が沈む前に食事の準備を済ませ、拠点の前で食べる事にした。
洞窟内部を掃除し、水に浸かって汚れた洗濯物を干して、全てを終えてからだ。
食事をするのはジョー達、人だけではない、ここまで連れて来てくれた馬にも餌を与えている。岩を削って造った馬小屋のような小さな洞窟で1頭の馬が野菜と草を混ぜたモノをモリモリと食べている。
人も動物も全ては食事から始まる――それは万物の摂理そのものだった。
ジョーは川で遊んでいたカティア達を呼んで拠点に置いてある煉瓦を器用に組み立て、その上に金網と鉄板を置いて釜を造って肉を焼いていた。
炭火で焼かれたソーセージはいい匂いを金網の上で音と共に辺りに主張し、鉄板の上で焼かれた野菜は綺麗に焦げ目をつけていた。釜の火の周りでは巻きパン(=木の棒にパンのタネを巻いて作るパン)がいくつも作られていた。そして山の如く分厚く焼かれた“イノブタギュウ”のリブロースとランプ肉のステーキをジョーは丁寧に焼き上げていた。
近くにはサイリアがベーコンと野菜のスープを木で吊るして鍋で煮込んでいた、その横でメリーダが調理を手伝っている。
「ちょうどいい位だな。カティアもフィフィも野菜と肉は1対1の割合で喰えよ。肉だけ食うんじゃないぞ」
ジョーは目の前で目を輝かせている弟子にそう注意する。
「し、師匠、早く食べましょうよ!」
カティアは待ちきれない様子で、目で肉を請求していた。
フィフィも肉を凝視しながらコクコクと頷いている。
「わかったから待ってろ、用意した皿を持ってこいよ」
ジョーの命令にカティア達はすぐさま動いた。
「まかせて下さい、師匠!」と駆け足で木の皿を取りに行った。
***
ジョー達は樽を代替わりにその上に木の板をおいて簡単に机を作った。椅子は焚火用に切り分けてある木の太い幹を使っていた。
食卓を囲む家族のように机には用意された食事が並んでいる。
「いっただっきま~す♥」
カティアは大声で元気よく言うと、早速用意して一番食べ頃のステーキ肉を頬張る。
他の者達も同じ様に「いただきます」と言って食事を始めた。
「肉が美味しぃぃぃぃ!!」
「おいしいね、カティアちゃん♪」
カティアとフィフィは肉の美味しさに直ぐに歓喜の声を上げる。
「訓練の後のメシは美味いんだよな、でも、肉ばっかりは駄目だぞ、野菜も食べろよ」
ジョーはお父さんのように注意する。
「「は~い♪」」と娘達(=カティア、フィフィ)から食事の美味しさで上機嫌の返事が返ってきた。
「あら、サイリア師匠、このスープのお肉はネックですね」
「そうなのよ、うまみが強いから首元のお肉って美味しいのよね」
と、お互いに料理の会話を始めたメリーダとサイリアはそのまま談義を続けていく。
「野菜美味しいぃぃぃ!!」
「スープ美味しいぃぃ!!」
カティアとフィフィはテンション高めに何でも美味しいと騒ぎ出す勢いだ。
「カティア、フィフィ、食事は静かにな」
「でも、師匠、美味しいんですので無理です! ジョー師匠の焼いた肉が美味しいのです」
「そ、そうか……」
カティアに褒められ、ジョーは嬉しくなっていた。
「本当です、ジョー師匠。肉の焼き具合が最高です、それにこの付け合わせの山ワサビのピリッとしたソースも塩加減も最高です」
フィフィもそう言ってジョーを褒めた。
「そ、そうか……。まぁ、焼き方には俺の独自のこだわりがあるから……ハハハハッ」
ジョーは料理父(●●)さんのようにデフォルメを変え、下あごを突き出して笑っている。
バーベキュー父さんのようになり――
――完全にグルメ方向に物語が転換してしまった。
その後も、楽しく食事を続けていくジョー達は団欒とした空間でお喋りをしながら栄養を補給していく。
***
「それで、師匠、今更なんですが、外で火を起こして飯を食べていいんですか?」
カティアは食事も進み、ある程度お腹も膨らんで満足した様子で突然に質問をした。
「あ……あぁ、普通の仕事だったら携帯食料で済ませるけど、訓練だからいいんじゃないか? それにオジュール達が仕事の時にやっていて、すごくいい感じだったから真似をしたんだ」
「そうですか……。これが続くんですね。嬉しい、来て良かった!」
カティアは当初の目論見どう遠出が出来て満足している様子だった。
「だが、そんな考えじゃ甘いぞ、訓練は厳しくしていく、その為にいっぱい食べて、いっぱい寝るんだぞ」
「わかっています、それで強くなるんですね?」
「そう言う事だ、フィフィもいいか?」
ジョーが目線を向けると、フィフィはスープを飲んで「はい、それではおかわりしてきます」と返事をした。
「うん、いっぱい食べろよ。食事は大切だし、肉、野菜、パンをそれぞれ食べるんだぞ。食事のバランスは重要だ」
「「わかってま~す♪」」
ジョーはフッと笑い、「良かったわね、喜んでもらえて」とサイリアが相槌をうった。
「ああ、それに、色々もらえたからな」
「食料品も色々買ってきてよかった」
「まぁな、それにフィフィの父さんからパンのタネを貰えてよかったよ。すごい量を渡してくるんだもんな、驚いたよ」
ジョーは巻きパンを齧り、この訓練に出る前にフィフィの父親に店を出せるほどの量のパンのタネを貰っていた。「これで、娘をよろしくお願いします」と言って父親が懇切丁寧に渡してきた時の事を思い出してきた。
(まぁ、娘が可愛いのか……)とジョーはこれもワイロだなと思いつつ、クスリと笑い、食事を続けた。
***
食事も終盤に差し掛かり――ジョー達は戦慄していた。
ジョーもサイリアもカティアもメリーダもお腹いっぱいに食べ終えていた。
当然、これ以上入らないというほど、食事をとっている。
しかし――フィフィはまだ食べ続けていた。
量からして成人男性の3倍以上の量を腹に納めている。
しかも、食材が無くなり、仕方なく、自分で新しい肉とパンを釜場で焼いていた。
フィフィはそれでも楽しそうに鼻歌を歌って調理を続けている。
「サイリア、スープ……、無くなっちゃったな……」
「えぇ、明日の分も一緒にと思っていたんだけど……」
「これって、食材足りるか?」
「多めに持って来たけど……」
「帰ったら買い出しに行かないといけないな……」
ジョーとサイリアはその様子を茫然と眺めていた。
始めてみる大食いモンスターの存在を眼の奥に焼き付ける。
「カティア……。フィフィって学校でも、あそこまで食べるのか?」
「え~とですね。昼はいつもパン1斤食べていました」
「1斤(=450g)か!?」
「はい、それもサンドして色々な具材を詰めた奴です」
「オォ……、それは凄いな……」
「フィフィちゃんは朝2斤食べて、夜2斤食べるみたいですよ……。きいた時、冗談かと思ってました……」
「おぉ……」
ジョーを始め、サイリアもメリーダも言葉を失った。それほど見事な食べっぷりでもあるフィフィの食事は止まる事を知らないようだ。
ジョーの「いっぱい食べろ」を言葉の通りに受け取り。制限を外しているようだ。
過去に訓練中の食事でも、どこか悲しそうなフィフィの顔を思い出しながら――食事を続けるフィフィを見て次第に言葉を失っていく。
そして、ジョー理解した。フィフィの父親が『娘を頼みます』の意味を――。
『いっぱい食べる娘ですけど、このパンのタネで何とかお願いします』という意味であったと。あれはワイロでは無く、ただの食材(=贖罪)を渡してきただけだったと……。
クッキングパパはバーベキューの時に欲しい存在ですよね。しかし自然の中で食べる食材とは凄く美味しいとおいしいです。旅先のメシが美味しく感じるようなモノですね。
考察。
フィフィが前章の幕間で昼に1斤のパンを食べていました。
斤とはグラム変換すると600gですが、この話では英斤=450gの方を採用させて頂きます。
それにしてもフィフィ大食いの話をぶちこむにあたり、苦労しました。周りに大食いの家庭も無く、どのくらい食べるのかなど計りしれません。昼のカロリーはいかほどか……サンドイッチで1500キロカロリーを越えると仮定しても。冒険者で大食いってどうなの?と自問自答した作者です。
ですが、大食い選手権でも凄く食べる人はいますから、あれってどのくらい食べられるんでしょうね?




