訓練初日
訓練を始める前に、ジョーは表でカティア達は馬車の中で着替えを済ませる。
動きやすいように飾りのないシンプルな服に着替えるのだ。ついでに装備も外し、武器だけ携帯する。
その後でまた表に集合して柔軟体操を始めた。これは必ず訓練の前にやるようにしている、お決まりの行動だった。
「よし、まずは各関節を伸ばし、怪我のないようにしろよ」
ジョーはそう言ってカティアやフィフィに注意事項を話した。
彼女たちは返事を返す。そして……じゃれ合いながら体操をしていた。
体操が終わると――。
ジョーとサイリアを先頭に周りに生徒(=カティア、フィフィ、メリーダ)が座って待っていた。
「これから、初日の訓練を入る前に、ヤル事を説明する。基本的に体力の向上、魔力の向上、攻防技術の向上、魔力の操作技術の向上。そして冒険者に必項の追跡術、逃走術の基礎訓練、急勾配登頂、降下の基礎訓練、悪路走破の基礎訓練等をやる。その他にもまだまだ教える事はあるが大体は基礎訓練だ。以上、質問はあるか?」
ジョーは仁王立ちのまま新兵にこれから何をするかの説明を行う、それも威厳ある教官のように伝えた。
「はい、は~い、師匠、質問です」
カティアは手を上げて元気にしている。
はしゃいでいる子供のようだ。
「なんだ、カティア、それに返事は1回だ」
「ずっとここにいるんですか? それとも他に移動するんですか?」
ジョーは小さく頷く。
「移動はするが基本はこの一帯で訓練を行う予定だ。出来るだけ実戦に近い形をとる。冒険者は町や村を拠点に動く事が多いが、それでも人気の無い所で野宿する場合もあるから拠点を作りとそこから動きだす訓練も兼ねている。説明したと思うが4日訓練の後、またベルンの町に戻るぞ、2日休んでまたココに移動する。それを繰り返していく。拠点への移動を学ぶ為でもある。いいか?」
「わかりました。その間は毎日、秘密基地みたいな洞窟で寝泊まりするんですね。楽しみぃ~」
カティアは異様に高揚としていた。遠出の修行の始まりが面白いようだ。
フィフィと眼を合わせ笑っていた。
(カティア、笑っていられるのも現在のうちだぞ……)とジョーは考えていた。
「じゃあ、他にあるか?」
ジョーが質問すると――メリーダが手を上げる。(おっ、なんだ?)と彼女が意思表示をする事自体が珍しいと感じるジョーだったが、「なんだろうか、メリーダ」と訊くと――。
「あの、先程の『冒険者の善意』という意味がイマイチよく分からないので説明して貰えますか?」
と言ってきた。
カティアもフィフィもその時に他の作業をしていたので『冒険者の善意』という言葉を不思議がって聴いていた。
ジョーは洞窟内の出来事か……と、すぐさま思い当たる。
「あぁ、それか……。まぁ、簡単に言えば冒険者のこういう拠点は何方でも使えるようにしてあるって事だ。これは多くの冒険者が自然としている事なんだが、大多数の者達が、こういう人里離れた場所で怪我をした時に大変だという事だ。また山間だから天気が変わりやすい。魔物に襲われ逃げてきた者もいるだろうから、そう言う人々が逃げ込める場所でもある訳だ。内部に治療道具や携帯食料があれば生き延びられるだろ? 焚火もする所もあるし、なにより寝られる場所だ。そんな偶然で生き延びられるように俺達の善意があるんだよ。そうやって助けられた人達はお礼にカネや手紙を置いて帰るんだが……。まぁ、見返りは求めない善意だな。こっちも無きゃ無いでいいし、有ればそのカネで次の人の為に道具を用意するって事だ。看板もその為に立て掛けている。こういうのは本当に慣例じゃ無くて、協力しようぜっていう気持ちの問題だな。俺達も危ない時に使わせて貰うかもしれないし、そういう積み重ねで助かるかもしれない訳だ。さっきも、この洞窟を使った奴がいてお礼の手紙とカネをいれてった。そう言う訳で……こういう行動は広がってくれるとありがたいって事だな。それが『冒険者の善意』って話しだ」
ジョーが頭を掻きながら恥ずかしそうに説明すると――
「私達も……いつか、こんなの作ろうね。フィフィちゃん」とカティアが拍手をしながら隣にいるフィフィに語りかけた。
フィフィも同意と拍手を送る。
「わかりました、素晴らしい行動ですね……」とメリーダも納得の表情を浮かべている。
実際にこう言う行動は善人悪人関係無く使われるが、もしもの時の為の考えとして約400年前から『ある冒険者』と『商会』によって提案された助け合いの行動だった。
それがいまも冒険者の間で根付いている。
「よし、もう無いな。じゃあ、荷物持って行くぞ!」とジョーは無理に状況を進行させようと行動した。
それほどに、このような善意の行動の説明は気恥ずかしく、ジョーも教官スタイルを続けにくいほどだった。
ジョー達は武器をもって拠点となる岩山のすぐ傍にある河原に向かって坂道を降り始めた。
降りるとすぐに河原に到着する。
目の前に広がる景色は雄大な自然の景色そのものだった。
巨大な岩々が点在し、渓流のせせらぎが聞こえ、木々が立ち並び、まさに万物を謄写したような自然豊かな場所が広がっていた。
「わぁ~すごく綺麗!」
「やっぱり泳げそうな川があるよ。水着持って来てよかった」
「あッ! あそこで魚が跳ねたよ」
「カティアちゃん、どこ?」
と嬉しそうに子供達が走り出した。
「こら~、訓練中だぞ。遊ぶ時間は後で作るから!!」
教官であるジョーのお叱りが入ると「「は~い」」と返事か帰ってきた。
そのままジョー達は河原の中心に歩き出し、ジョーはある巨岩の前に止まった。
幅2メートルほどもある大きな岩が河原に置いてある。
「これでいいか……」
とジョーは呟くと踵を返して――「じゃあ、ここで訓練での1つの達成条件でもある『岩割り』について説明したいと思う」と言葉を発した。
「岩割り?」とカティアを始めフィフィもメリーダも不思議な顔をする。
「あぁ、ある程度の攻撃の威力を計る事の出来る訓練だよ。魔物を倒すのは絶対的に威力がないと始まらないからな、下位のランクではいいかも知れないけどDランクに上がりたいなら必須の技術だ」
「ジョーが実演してくれるから、見た方がいいわ、それよりも少し下がってね?」とサイリアが注意をすると3人の弟子は言われたように下がる。
【あんまり、天狗になってはしゃぐなよ】
とジョーが背負っているスネークが注意した。
「わかっているよ」とジョーは言って、また身体の向きを回転させて、岩の前で構えをとる。
周囲に走る緊張感。
ジョーは静かに呼吸を整えると――
「いいか、こうやる。―――」
ジョーは右拳に濃い魔力を素早く集める。
「肉体強化魔術を使って岩を割るだけだ――」
そして、左足を踏み込み、腰と肩を連動させ、ジョーは拳を振り下ろす。
[バゴォォォォォォォォ!!]と空気の破裂する音が響き、岩が砕かれ、割れた。
「最低でも、この位の攻撃力がないと高位の魔物には攻撃が通らないからな」
ジョーは気取った笑みを浮かべ、振り返って説明した。
岩を割る事はある意味1つの目安ですね。
参考;ドラゴン●―ルもゴクウが岩を割ったシーンがありました。
この世界にもその位の攻撃力は必須ではないかと思う作者です。
なにより、鉄より硬い皮膚とかもありますから……。そう考えると上位ランクの冒険者はそれなりの攻撃力を備えているはずという考察です。




