装備論!!
白髪おさげをした太眉の女性はトムソーヤの店で修業する女鍛冶屋の『ティル・デ=ガガン』という名前でそれなりに腕の立つ職人だった。ついでにいえば、それなりに美人でもある。
ティルは生地の厚い職人用のエプロンに長い皮手袋を脱いでポケットにしまい込んだ。
そして、ドン!両足をついてジョー達の前に立ちはだかる。
「なかなかいい意見っすね~。やっぱり女性は着飾った装備をして欲しいっす!」
と声色のいい、よく通る声で友好的に言い出した。
表情は晴れやかに、どこまでも明るいオーラを放っていた。
「やっぱり、そうよね! 着飾りたいもの!」
カティアはすぐにその意見に同調する。
尻込む様子も無く、すぐに。
「お嬢さん、よくわかっているっす~。 女性冒険者は新しい挑戦もした方がいいっす!」
指を突きだしティルはポーズを決めた。
カティアは感動して彼女のポーズに震えた。
物怖じせずにまるで何年来の友人であるかのようなティルに心底ほれ込んでしまった。
「ねぇ、師匠ぉ~、このお姉さんも言っている通り、新しい事に挑戦しましょうよ。赤にしましょうよぉ~」とカティアはジョーの腕にしがみついて揺すっていた。
「ダメだ。その前にトム爺よ。店の品ぞろえ変えたのは“コイツ(ティル)”か?」
ジョーは目線を後ろにやってトムソーヤを見た。
「まぁな……。色々あるんだよ……」
「そうっす~! 私の名はコイツでは無くティルっす。よろしくっす。常連さん!」
笑顔で対応するティルにジョーも思わず何も言えなくなるが――「俺の名も常連さんじゃなくてジョーって言うんだ。コイツは相棒のサイリアに弟子のカティアとフィフィだ」と説明を入れておく。
――全員が突然の対応に混乱するさなか、一応の挨拶を済ませる。と――
「じゃあ、本題っす。装備も地味の時代が終わりました。今後は華やかな時代に突入するっす!」
とティルは宣言するように言った。
――カティアは拍手を送る。
サイリアとフィフィはついていけない様子で見守っている。
「なんだよ、突然。トム爺も急に出て来てどうしたんだよ? それにこんな子いたのか?」
そう、ジョーは質問する。
「なに、孫娘じゃ……先月、修行の為に町にやってきた」
トムソーヤ短く告げる。どこかついていけない様子でティルを見つめていた。
「嘘つくな! 似ている要素が何処にもないぞ! 絶対、血が繋がって無い!」
と、ジョーが言い放つと――納得と言う風にサイリアとフィフィが頷いた。
「繋がっとるわい! ちょっと血が薄いだけだ! それに半分の半分(=クォーター)で、息子の嫁が美人なんだ!」
とトムソーヤも威勢よくジョーに噛みついた。理由もちゃんと説明する。
「ちょっといいっすか~、わたしはおじいちゃん子なんすよ! それに父ちゃんは祖父ちゃんによく似ているっす!」
フィフィと話していたティルがそう言って会話に割り込んで来た。
「あ~~、わかったよ。それでティルさんはどうして鍛冶場を飛び出してここに来たんだ?」
「聴こえたっす。悩める装備迷い人の声が……。オシャレをしたいという女性の声が聴こえたっす! わたしは決めているっす、世の女性冒険者の地位向上と装備向上になる為に鍛冶屋の道を進んでいるっす!」と熱く語るティル。
その言葉に「よく言ったわ、言ってくれたわ!」とカティアはさらに拍手を送る。
「やっぱ分かっている人はありがたいっす。なかなか賛同してくれる人がいなかったっす」と和気藹藹とカティアと喋り出していた。
(わかった、落ち着け俺……、こういうタイプはとにかく自分の道を進むタイプだ)とジョーは思いつつ、トムソーヤをチラッと見た。
(トム爺は、孫は心配でついてきたのか……)
とジョーは考えると――「孫に言われて店の中の品揃え変えたな」と嫌味を言っておいた。
「うをっほん! べ、別にいいだろ!? 店も転換期に来とったし、時代に対応するのが鍛冶屋の仕事だ」と顔を赤くして反論した。
「まぁ、別にいいけどね……」といいながらジョーはティルとカティアが話しこんでいる現場に歩み寄る。
「悪いけど、お嬢さん方、俺は買う物を変える気はないぞ。このまま『紺色』を買う」
とジョーは何気なく言った。
「え~~、師匠! やっぱり好きな色にしましょうよ!」
カティアは文句を言った。
「俺とサイリアだったら好きな色でもよかったけど、カティアもフィフィもGランクだからダメ! 機能性、汎用性で『紺色』を買います」
ジョーの言葉にティルは反応する。そして――
「う~ん、なるほどっすね。装備に関してジョーさんは哲学を持っているっす。しょうがないっす。カティアちゃん。ここは折れるっす」
といってティルはカティアを引かせた。どこか納得の表情を浮かべていた。
「え~~~、味方がいなくなった……」とカティアは落ち込む。
(なんだ……わかってんのか?)
ジョーは呆気なく引いたティルに違和感を覚える。
「それでジョーさん。他に何か入り用っすか?」と不意に尋ねてきた。
「そうだな……ソコにいるフィフィの装備と訓練用の短剣、カラビナ類を新調しにきた」
ジョーは目線でフィフィを見ると、ティルも彼女を見た。
どうしていいか分からずにお辞儀をするフィフィ。
「なるほど……実戦経験はあまりなさそうっすね?」
彼女をひと目見てそう評価するティル。
「あぁ、Gクラスだからな……ゴブリン退治くらいしかしてないよ」
「そうっすか。それで装備の新調って事は遠出っすね?」
「遠出って程じゃないけど、町から1,2時間位した所での訓練だよ」
「カラビナ類の新調って事は登山っすか?」
「いいや、渓流沿いの訓練をする。お気に入りの場所があるんだよ」
「なるほどっす。弟子を連れての初めての遠出での訓練でその為に不安な装備を買うんすね! いいイベントっす。 装備を整えるのは基本っす。初めての装備でウチの店を使って貰えて光栄っす、わたしも手伝うっす、こういうの大好きっす、初めての装備合わせっす!」
ティルは頷き、1人興奮してジョーに告げた。
「ちょっと待てよ、俺はお前に選んで欲しいって言って無いって……」
「え~ぇ、待って欲しいっす。可愛らしい少女の初めての装備合わせに立ち合いたいっす。それに私も鍛冶屋の端くれっす。意見も言えるっす」
「まだ、信用して無いんだ」
とジョーが告げるとティルは悲しそうな顔をした。
「ジョー、ワシの孫が信用できないとは何事だ!」
とトムソーヤは会話に割り込んでくる。
(この孫バカめ……)とジョーは思いながら頭を掻いた。
「じゃあさ……ティルが信用できるか質問してもいいか? 考え方とかの違いが装備に影響をあたえるからな……」
そう、ジョーは目線を向けるとティルは嬉しそうに頷く。
「いいっす、装備論の語り合いっすね。ここじゃなんですから、店の奥行って話をするっす。もし私が信用出来たならこの子の装備を一緒に選ばせて欲しいっす!」
と目を輝かせていった。
「わかった、場所を変えようか……トム爺、店の奥借りるぞ」
ジョーがそう言うと――トムソーヤが店の奥に案内する。
そのままトムソーヤは皆を引き連れていくが、途中で立ち止まり店番をしているジェイロを睨み――「店番を頼むぞ」と声を掛けた。
「ハイ! 任せて下さい、親方!」とキビキビと返事を返すジェイロだった。




