第15話:二人と三匹の、新しい朝
「それ、こっちの棚に運んじゃうね」
「あ、ありがとう。助かる」
段ボール箱がいくつも積まれた新しいリビングで、私たちは汗を拭いながら笑い合った。
近くでずっと支えてくれていた彼。
その真っ直ぐな温もりを受け入れると決めてから、私たちの関係は自然な流れで、共に人生を歩む約束へと変わっていった。
二人が選んだのは、小さな庭のついた、動物たちがのんびりと暮らせる一軒家だった。
私の部屋の片隅でずっと時を刻んでいた、あの古いわたあめ機も、彼の丁寧な作業によって大切に梱包され、この家の陽当たりの良い部屋へと大切に移されていた。
そして、私たちの新しい生活は、「二人と一匹」ではなく、「二人と三匹」という、とても賑やかな形でスタートした。
一匹目は、あの雨の日の神社で出会った、私の人生を動かすきっかけをくれた白い猫、ハル。
二匹目と三匹目は、私たちがボランティアの保護施設で出会い、どうしても家族として迎え入れたいと二人で決めた、一匹の老犬と、片目の見えない小さな黒猫だった。
「ほら、みんな。今日からここが新しいお家だよ」
彼がキャリーケースの扉を開けると、ハルが真っ先に飛び出してきて、新しい畳の匂いをクンクンと嗅ぎ始めた。
続いて、片目の見えない小さな黒猫が元気いっぱいに飛び出してきて、最後に、少し耳の遠い老犬が、のっしのっしと尻尾を振りながら彼の足元に身体をすり寄せた。
「みんな、気に入ってくれたみたいだね」
彼は床に腰を下ろし、三匹の頭を愛おしそうに順番に撫でていく。
その大きな手のひらは、いつ見ても、いつ触れても、本当に温かかった。
かつて私が触れた、一人の青年の命を懸けた「熱」。
それは今も胸の奥で、私の人生を導く羅針盤として静かに、永遠に生き続けている。
そして今、私の隣にいる彼が重ねてくれるのもまた、毎日少しずつ分け合い、育んでいく、穏やかで確かな体温だった。
「夕飯、何にしようか。今日は引っ越し祝いだし、何か美味しいもの作ろう」
彼がキッチンから声をかけてくる。
「うん、賛成。私、手伝うね」
私たちが並んでキッチンに立つと、ハルと黒猫が足元にまとわりつき、老犬はリビングの真ん中で安心しきったように丸くなって寝息を立て始めた。
ふと、夕暮れの窓の外を見上げる。
茜色に染まる大空の向こう、ぽつりと一つだけ、フワフワとした白い春の雲のような塊が浮かんでいた。
あの日、口の中で一瞬で溶けたわたあめの、あの甘くて温かい記憶が、胸の奥でトントンと優しく鼓動を打つ。
私はもう、自分の心をガラスの防壁で閉ざすことはない。
もろくて、愛おしい命にあふれたこの世界で、私は大切な人の手をしっかりと握り、時に助け合い、素直な自分でいられる温かな家族を、みんなと一緒に育てながら生きていく。
ゴトゴト、と。
部屋の片隅から、古いわたあめ機が、これからの私たちの未来を祝福するように、優しく、どこまでも穏やかな音を響かせていた。
そこから湧き出る白銀の糸が、温かい夕光に包まれて揺れている。
二人と三匹の、新しい日々がここから始まる。
巡る季節のなかで繰り返される何気ない夕暮れが、この場所で、紡がれていくのだ。
(全15話・終わり)




