第二話 ⑤
私と澄夏が前の扉から教室に入ると、
碧が教室の後ろの方から私たちを呼んでた。
ただその隣には永山がいるではないか!?
あいつ、もしや碧を人質に昨日の仕返しでも考えてるのか?
やっぱり中2でうんこ漏らしという屈辱を味合わせてやるべきだな。
そう思って私は永山を目で威嚇しながら、
碧を救出すべく澄夏と共に向かった。
「ガルル……」
と唸る私と、なぜかニコニコの澄夏が
碧と永山の元に辿り着くと、
碧が永山の脇腹を肘で小突いて
「ほら」
とか言ってる。
よかった……碧は捕まってたってわけじゃなさそうだ。
「あ、あの……木全さん!
昨日は突き飛ばしたりして悪かったよ……本当にごめんな。」
予想外の永山の行動に私はびっくりしちゃったよ!
あのイキがるしか能のない永山が、素直に澄夏に謝ってる!?
「全然!気にしてないし。
これからおんなじクラスメイトだし仲良くしようね。永山くん。」
さすが私の澄夏!
永山を許しちゃうなんて天使すぎでしょ……。
ん?
永山の顔が少し赤くなってる?
ははーん、こいつもしかして澄夏に惚れたな。
気持ちはわかるぞ永山よ。
私は昨日と同じようにスッと永山の背後を取り、
いきなり肩を組んでその耳元に顔を寄せて、
「永山ぁ……澄夏に惚れたか?」
って小声で言ったら、
永山ったら顔真っ赤にして
「う、うるせえ!そんなわけねーだろ!」
と否定してきたが……
態度があからさますぎるって。
だけどお前に澄夏はやれんぞ!
澄夏と碧が呆れ顔で小声でなんか言ってるな。
「ねぇ、あさひってあれ天然でやってるんだよね?」
「うん。だからなおさらタチが悪いというか……永山が不憫すぎて……」
何話してるかわかんないけど、多分永山の悪口かな……。
今までの行いがアレだったから仕方ないけど、
永山、強く生きるんだぞ。
私は肩にまわしていた腕で軽く永山の首を締め上げてやった
(もちろんおふざけだから全然力入れてないよ)。
「本当にもう勘弁してくれ〜」
永山ったら、そんな下っ端キャラっぽいセリフ言っちゃって。
「オラオラ!永山!もっと反省しろよ」
「わかったから!反省するからぁ」
一通り永山とのじゃれ合いを楽しんだ私は、
澄夏と共に席に戻る。
隣の席の神崎くんに
「おはよう」
って挨拶したら、
今朝もニヒル?な笑みを浮かべて
「ああ……」
とだけ返された。
あいかわらず患ってるねぇ。
澄夏も神崎くんに
「神崎くん、おはよー」
って挨拶すると、
「ああ……今日もよろしくな」
とか返してる。
なんで私と対応違うん?
これはもしかして、この厨二も澄夏に陥落済みか?
……まあ、澄夏なら仕方ないか。
私も陥落させられてるしね。
でも神崎くんも永山も残念だったね。
私はすでに君たちの天使・澄夏と
週末デートの約束してしまったのさ。
負け犬たちザマァ!
私は無意識のうちに胸を張り、
「フンスっ!」って鼻息が荒くなってたみたい。
横から神崎くんが変なもの見る目をこっちに向けてた。
なんだろう?
厨二患者にそうされると結構ダメージでかいな……
そんなことしてたら始業のチャイムが鳴り。
あいかわらずのタンクトップ姿で細井先生が入って……
いや、なんで短パンなのよ。
しかも今どきB’zだって穿いてないぐらいのエグい短さなんですけど……。
すでにタンクトップな時点でバグなんだけどさ。
まだ4月だよ。
見てるこっちが寒くなるやつだよ!
「おーし!お前ら!今日から授業開始だからな、気合い入れろよー!しかも一限は俺の音楽だ!
気合い入れて音楽室に移動しろー!」
どんだけ気合い入れんのよ。
朝からテンション爆上げの細井先生に
心の中でツッコミ入れつつ、
私は澄夏と碧の3人で音楽室に移動した。
音楽室でも教室と同じ席順に座る。
前に立った細井先生が、
「今年初めて俺の音楽の授業受けるのも何人かいるな。
よし!そいつらに質問してくぞ。
音楽で大事なものは何か答えてくれ」
というと、
初めて細井先生の授業を受ける子たちを
的確に指名していく。
ああ、去年もあったなこのくだり……。
去年は一年だったから当然みんな答えさせられたっけ。
指名された子が口々に、
「演奏技術」
「歌唱力」
「リズム感」
って答えていく。
答えを知ってる私は少しニヤついちゃう。
これをいちばん大事って言い切るから、
私はこの年じゅうタンクトップの変な先生のこと
嫌いになれないし、ぶっちゃけかなり好きなんだよね。
「よし、じゃあ転入生二人はどうだ?まずは神崎!」
細井先生がそう言って神崎くんを指名すると、
「えっと……声の大きさとかですか?」
と自信なさげな答えに、
「惜しい!」
と細井先生はオーバーリアクションで
なんか悔しがってる。
「よし、木全!ばっちり決めてくれよ」
その期待に応えるかのように、
澄夏は目を輝かせて自信満々な顔して
「はいっ!」
って言いながら立ち上がった。
そして、
「それは心と魂です!ハート&ソウルです!」
そう迷いなく大きな声で澄夏は答えた。
さすが私の嫁……
じゃなくて、うーん……
さすがお隣さん!
「そうだ!心だ!魂だ!つまりは気合いだー!!」
と、澄夏よりも遥かに大きな
細井先生の声が音楽室に響いた。
そこから、とにかくみんな気合を入れて
大きな声で君が代と校歌を歌った。
気合い入れて歌う曲かは疑問だけど……
それでも授業が始まるって憂鬱だった私の心は、
一発目の授業で晴れやかになっちゃった。




