第二話 ④
翌朝。
今日からもう普通に授業があるんだよなあ…。
そんなことを考えながら、重い足取りでリビングに向かう。
そこにはなぜか、メイお姉ちゃんがテレビを見ながら味噌汁を啜っていた。
「なんでまだいんの?」
思わず聞いちゃったよ。
「なんだよ!いちゃダメなの?」
メイお姉ちゃんが唇を尖らせてるよ。
別にダメなわけじゃないけど…。
任務があるんじゃないの?
「芽依の潜入先はここから近いから、当分の間うちから通うことにしたのよ。」
お母さんが、私の分の朝ごはんを持ってきながら教えてくれた。
「ええ!?じゃああのポルシェはファミマに停めっぱなし?」
思わず大きな声出ちゃったよ。
だってずっと停めてたら、お店の人迷惑じゃん。
「あれなら今朝、義兄さんが会社で自慢するって乗ってったぞ」
おとーさーん!!
なんでうちの大人達は、こうもフリーダムなの?
「でもそれって大丈夫?保険とかさ」
「まあ問題ないって。あの車で事故っても、賠償金含めて全て官房費から出るし、違反も全部お咎めなしだ」
メイお姉ちゃんが笑う。
それってますます、人に貸したらダメでしょ!
「お母さんいいの?」
私はお母さんに、常識的な答えを求めた。
「別にいいんじゃない?官房費ってのは、もともと私たちが払った税金でしょ」
全国の納税者さん達。
我が家の大人達がごめんなさい。
そんなわけで、メイお姉ちゃんと2人で家を出た。
エレベーターの中で――
「で、なんで高校に潜入するの?」
「お前なぁ…一応、国の秘密組織の任務を話すわけないだろ」
何を今さらなこと言われてもなあ。
「まあ、姉さんにも義兄さんにも話したからいいけど…実際の監視対象は、あさひの学校だよ。あの高校からなら、何かあれば即時対応しやすいからな」
「えっ!?私の学校!?何で?」
「前から私らがマークしてた組織の構成員が、潜入してる可能性が出てきたんだ」
「普通の中学校に、そんな危なそうな組織の人が来るの?」
「全く自覚ないんだな…あさひ、お前がいるからだよ。」
「はへ?」
思わず変な声出ちゃったよ。
私が目的?ますますわかんない…。
メイお姉ちゃんが頭を掻きながら――
「お前さぁ…自覚持てよ。自分が霧隠流歴代でも、天才だって言われてることぐらいはさ。」
天才?
私が?
「でも私、もう何年も修行してないし、術もせいぜい変わり身の術と分身の術しか使えないよ。分身も3人が限界だし」
「はぁ…いいか。私は今でもちゃんと鍛錬してるけど、お前や姉さん、親父殿みたいに分身なんてできないんだ。それに身体能力も、お前に及ばないよ」
嘘!?
すごく優秀って言われるメイお姉ちゃんが?
「それって本当?」
思わず聞いちゃった。
「本当だ…悔しいけど、私には忍としての才能は、姉さんやお前みたいにはなかったんだよ」
そう言って、少し悲しい目をするメイお姉ちゃん。
「だからお前は、結構狙われやすいんだ。気をつけろよ」
それでも私のことを心配してくれる…。
やっぱり私、この人のこと好きだ。
「うん。ありがとう…お姉ちゃん」
そう素直に返事をすると、メイお姉ちゃんは私の頭をワシャワシャしてくれた。
2人でマンションのエントランスに出ると、外に澄夏が待ってるのが見えた。
相変わらずかわええなぁ。
メイお姉ちゃんよ、あれが令和ギャルだぞ!
……って、よく見たら澄夏が、めっちゃ興味津々にメイお姉ちゃん見てる。
そうだ!
昨日うっかり、澄夏にメイお姉ちゃんの実年齢教えちゃってた!
私は澄夏に笑顔で手を振りながら、そのままメイお姉ちゃんに唇を動かさずに話しかける。
察してくれたメイお姉ちゃんも、正面を向いたまま同じように対応してくれる。
こういうとこ、私ら忍者だな。
「ごめん。あの友達に、うっかりお姉ちゃんの実年齢教えちゃった」
「……あの視線はそういうことか。了解。わかっていれば対処可能だ。」
自動ドアが開き、澄夏に合流する。
「おはよう」
と私が声をかけると、澄夏は目を輝かせ――
「あさひおはよう。ところでメイさんですよね。あさひから聞きました。なんで女子高生の格好なんですか?」
いや、この子、本当に距離の詰め方半端ないな…。
メイお姉ちゃんは困ったような苦笑いを浮かべ――
「ええ…あさひってば、言うなら言うでちゃんと説明しといてよね。あのね、私は舞台役者なの。それで今度の舞台で、こんな女子高生役やることになったから、役作りのためにちょっとの間、女子高生として生活したら、なんか掴めるかなって」
メイお姉ちゃんの話し方は、どこかぎこちないけど、でも本当のことをちゃんと説明してるように聞こえた。
それを聞いて、澄夏は少しシュンとして――
「そうだったんですね…私てっきり、メイさんもあさひと同じ忍者なのかなって…」
澄夏さん?
なんでそんなに私を忍者にしたがるの?
いや、まあ忍者なんですけどね。
「あさひが忍者!?…まあ、確かに霧隠なんて忍者っぽいもんね。あさひ、あんた私が忍者役やることになったら、演技指導頼むわね」
メイお姉ちゃんが、そんな軽口で場をなごましてくれた。
「あさひ、澄夏ちゃん、私そろそろ行くね。」
と言って、メイお姉ちゃんは高校とは逆方向に歩いていった。
「もう。あさひがちゃんと教えてくれないから、恥かいちゃったじゃん!」
澄夏が頬をプクッと膨らませる。
何それ、可愛すぎるんですけど。
それに、ちゃんと教えるのは無理だよ。
メイお姉ちゃんが舞台役者だって設定、私も今知ったんだから…。
「ごめん。昨日あのあと寝ちゃってさ…気がついたら深夜だったから。そんな時間にメッセージ送るのも悪いかなって」
私は適当な理由で誤魔化した。
そんなわけで、2人並んで登校した。




