第42章:体育祭決め、悪魔の結託とクラスの同調圧力
9月中旬。
ロングホームルーム。
黒板にはチョークで大きく『体育祭出場種目決め』と書かれていた。
高校生活最後の体育祭。
本来なら「優勝目指して一致団結!」と盛り上がるところだが、受験を控えた3年生の空気は少々重い。
怪我をしたくない。勉強の時間が惜しい。
そんな空気が教室を支配し、面倒な種目の立候補者はなかなか現れなかった。
「……えー、次は『男女混合二人三脚リレー』だ。誰かいないかー?」
担任の気のない声が響く。
教室がシンと静まり返る。
二人三脚。もっとも練習が必要で、もっとも男女の密着度が高く、そしてもっとも「面倒くさい」種目だ。
誰も手を挙げない。……俺がそう思った、その時だった。
「はいはーい! センセー! 推薦しまーす!」
静寂を切り裂く、やけに明るい声。
教室の隅から、小野田 達也がビシッと手を挙げていた。
隣の席の相原 美咲も、ニヤニヤしながら何かを画用紙に書いている。
嫌な予感がした。
俺の背筋に、冷たいものが走る。
「おお、小野田。誰かいるか?」
「はい! 我がクラスが誇る『阿吽の呼吸』ペア! 聖次と瑠奈ちゃんしかいないと思いまーす!」
ドッ、と教室が沸く。
「おい達也! ふざけんな!」
俺は椅子を蹴って立ち上がった。
だが、達也は動じない。むしろ、ここぞとばかりに立ち上がり、演説を始めた。
「みんな聞いてくれ! 去年の伝説を覚えているか!? あの借り物競走での華麗なるゴールインを!」
「覚えてるー!」(美咲が叫ぶ)
「夏祭りでの目撃情報! 二人の距離感はすでに熟年夫婦の域! このクラスで最も息が合っているのは、この二人をおいて他にいない!」
達也がビシッと俺たちを指差す。
「最後の体育祭だぜ? クラスの勝利のためには、最強のカードを切るべきだろぉ? ……それとも聖次、お前はクラスの勝利より、照れくささを優先するのかぁ?」
――出た。
達也の必殺技、「大義名分による退路封鎖」だ。
こいつはいつもそうだ。個人的な面白がりを、さも「クラスのため」という正論でラッピングして突きつけてくる。
「そーだそーだ! 雨宮くんやってよー!」
「お前らなら絶対速いって!」
「ヒューヒュー! 夫婦の力見せつけろー!」
美咲が掲げた画用紙には『ベストカップル爆誕』と殴り書きされていた。
それを見たクラスメイトたちが、面白がって一斉に囃し立てる。
男子も女子も、手を叩いてコールを始めた。
「聖・次! 瑠・奈! 聖・次! 瑠・奈!」
地鳴りのようなコール。
これが「同調圧力」というやつか。
俺が助けを求めて隣を見ると、瑠奈は顔を真っ赤にして俯いていた。
「…………」
瑠奈の表情は読み取れない。
若干、口角が上がっているように見えるのは気のせいだろうか。
「……瑠奈。お前、嫌ならはっきり断れ。俺が盾になる」
俺は小声で囁いた。
娘に嫌な思いをさせるわけにはいかない。
だが、瑠奈はチラリと俺を見て、それから達也たちを睨みつけ――覚悟を決めたように顔を上げた。
「……いいわよ。やってやるわよ!」
「えっ、瑠奈!?」
「その代わり! 優勝したら達也と美咲、あんたたち自腹で打ち上げのジュース奢んなさいよ!」
瑠奈が啖呵を切る。
教室中が「うおおおっ!」と盛り上がる。
達也が「交渉成立!」と親指を立てた。
「……おい瑠奈、いいのか?」
「……だって。断ったら空気読めないみたいじゃん」
瑠奈はプイッと顔を背けた。
そして、机の下で、俺の足をコツンと蹴った。
「……それに。……聖次となら、転ばないと思うし」
ボソリと呟かれた信頼の言葉。
俺は反論の言葉を飲み込んだ。
娘にここまで言われて、逃げる父親がいるだろうか。
「……はぁ。分かったよ。やるからには本気だぞ」
「当たり前! 一位以外認めないから!」
こうして、俺たちは達也と美咲の策略に見事ハマり、クラス公認の「二人三脚ペア」として、秋のグラウンドを駆けることになったのだった。
HR後。
達也と美咲が、悪代官のようにすり寄ってきた。
「くっくっく。感謝しろよ聖次ぃ。これで放課後も堂々と『密着練習』ができるなぁ?」
「よかったね〜瑠奈! 足縛って練習するんだよ〜? ドキドキだね〜w」
「……うるっさい! ジュース、高いやつ頼むから覚悟しとけ!」
俺たちは毒づきながらも、どこかでこの騒がしい「共犯関係」を楽しんでいたのかもしれない。
ただ一つ気がかりなのは、この件が家にバレた時の、詩織さんと遥さんの反応だけだった。
(続く)
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