表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】娘はクラスメイト 『〜パパになっちゃったら、好きって言えないじゃん!!〜 』  作者: NEXT


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/69

第43章:密着練習の体温と、歩幅のドラマ、そして聖母の予期せぬ「むぅ」

 放課後のグラウンド。

 秋の涼しい風が吹いているはずなのに、俺の体感温度は真夏並みに上昇していた。


「……ねえ、聖次。もっとくっついてくんないと、走れないんだけど」

「い、いや、これ以上は無理だろ。歩きにくいって」

「転んで怪我したらどうすんのよ。責任とれんの?」


 俺と瑠奈は、右足と左足を赤い紐で結ばれ、密着していた。

 二人三脚の練習だ。

 肩と肩が触れ合い、俺が彼女の腰に手を回し、彼女が俺の肩に腕を回す。

 ……近い。近すぎる。

 瑠奈の甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、腰に回した手からは彼女の体温と、想像以上に華奢な骨格が伝わってくる。


(……落ち着け、俺。これはスポーツだ。競技だ。やましい気持ちなど微塵もない……ッ!)


 俺が必死に己の理性を総動員して「無の境地」に入ろうとしていると、グラウンドの隅からヤジが飛んできた。


「おーい! 腰が引けてるぞー、聖次ぃ!」

「もっと思いっきり抱き寄せちゃいなよ〜! 減るもんじゃなし〜w」


 達也と美咲だ。

 あいつら、自分たちは玉入れの練習をサボって、ニヤニヤしながら俺たちを監視してやがる。


「うるさい! 誰のせいでこうなったと思ってるんだ!」

「クラスのためだろぉ? ほら、イチ、ニ! イチ、ニ!」


 達也の手拍子に合わせて、俺たちは足を踏み出す。


「……いくよ、聖次」

「おう」

「イチ、ニ! ……っと!」


 最初はまったく息が合わなかった。

 俺が足を踏み出すたびに、結ばれた瑠奈の体がガクンと引っ張られ、体勢が崩れそうになる。


「ちょ、速い! 聖次、歩幅デカいってば!」

「あ、悪い……」


 俺はハッとした。

 クラスメイトとして隣にいるのが当たり前になっていたが、俺と瑠奈では身長も骨格も違う。男である俺のペースで引っ張れば、彼女が怪我をしてしまう。


「……ごめん。俺が歩幅を狭めるよ。お前に合わせる」


 俺が自分の歩幅を落とそうとした、その時だった。


「……ううん。いい」


 瑠奈が、俺の肩に回した腕にきゅっと力を込めた。


「え?」

「……アタシが、アンタに合わせるから。そのまま走って」

「でも、無理すると転ぶぞ?」

「転ばない。……アンタがちゃんと、支えてるんでしょ」


 彼女は俺を見上げ、挑戦的な、けれどどこか切実な瞳で言い放った。

 普段は「私至上主義」で、周りの人間を自分のペースに巻き込むのが当たり前の瑠奈が、自ら俺の歩幅に合わせると言うのだ。


「……分かった。じゃあ、いくぞ」

「うん」


 俺たちは再び走り出した。

 俺は歩幅を落とさない。すると瑠奈は、俺の大きなストライドに追いつくため、必死に足を伸ばし、腰に回した俺の腕に体重を預けるようにしてしがみついてきた。

 密着した体越しに、彼女の心臓の音が少し早くなったのが伝わってくる。


「……ほら、いけるじゃん」


 息を弾ませながら、瑠奈が強がって笑う。

 自分よりずっと大きな男の歩幅に、必死に食らいつこうとする姿。

 それはまるで、もうすぐ手の届かないところ(父親)へ行ってしまう俺の隣に、無理をしてでも並んでいたいという、声にならない意思表示のようにも見えた。


(……ずっと、このままで)


 そんな幻聴が、伏せられた彼女の横顔から聞こえた気がした。

 だが、瑠奈はすぐに顔を上げ、俺の方を向いた。


「……へぇ。聖次やるじゃん」

「瑠奈がしっかりついてきてくれてるからな」

「バ、……そうよ! 感謝しなさい!」


 少しだけ赤くなった顔を隠すように、瑠奈が胸を張る。


「本番はぶっちぎりでゴールへ連れてってやるよ」

「トップしか狙ってないし!」

「心強いな、相棒」


 俺はなんの気なしに、瑠奈へ向かってパチリとウインクを飛ばした。


「……ッ!」


 夕日に照らされた彼女の顔が、ポンッと音を立てるように真っ赤に染まった。

 いつもの生意気で強気な彼女ではなく、最高に可愛い「恋する乙女」の表情だった。

 俺はその笑顔を脳裏に焼き付けながら、彼女が転ばないよう、腰に回した手に少しだけ力を込めた。


 ***


 そして、夜。

 黒澤家の夕食。今日のメニューは豚の生姜焼きだ。


 俺がおかわりをよそっていると、何気なく瑠奈が口を開いた。


「あ、そうそう。体育祭の種目、決まったから」

「あら、何に出るの?」


 遥さんが楽しそうに聞く。

 いつものふわふわとした聖母の笑顔だ。

 瑠奈は箸で肉を掴みながら、サラッと言った。


「二人三脚リレー。……聖次とペアで」


 カチャン。

 詩織さんの箸が、箸置きから滑り落ちた。

 そして、遥さんの動きがピタリと止まった。


「……あら?」


 遥さんが小首を傾げる。

 俺は身構えた。

 まあでも、遥さんのことだ。「あらあら、仲良しね〜。頑張ってね〜」とニコニコ応援してくれるはずだ。いつもそうやって、俺と娘たちの関係を温かく見守ってくれているのだから。


 しかし。


「……紐で、結ぶの?」

「うん。右足と左足をね」

「……肩とか、腰とか。くっつくの?」

「ま、競技だからね。そうしないと走れないし」


 瑠奈が平然と答えると、遥さんは「そう……」と呟き、手にしていたお茶碗をコトッ……と置いた。

 そして、俺の方をじっと見た。

 その瞳は、いつもの慈愛に満ちたものではなく、どこか拗ねたような、潤んだ光を宿していた。


「……聖次さん」

「は、はい」

「……いいなぁ」

「え?」


 遥さんは頬を膨らませ、ボソリと言った。


「……だって、私だって聖次さんと二人三脚したいもん。……夫婦の共同作業、先越されちゃった」


 あ、あれ?

 俺は目を瞬かせた。

 普段は海のように広い心を持つ聖母・遥さんが、珍しく「むぅ」と唇を尖らせている。

 それは、母親としての顔ではなく、完全に「恋する女性」としての可愛い嫉妬だった。

 俺の心臓が別の意味で跳ねる。破壊力が高い。


「い、いや遥さん! これはあくまで競技で! 俺たちの愛の共同作業は、ほら、これからの結婚生活で一生かけてやるわけですし……!」

「……本当?」

「もちろんです! 俺のパートナーは遥さんだけですから!」


 俺が必死に弁明すると、遥さんはパァッと花が咲くように笑顔に戻った。


「ふふ、冗談よ〜♪ ……でも、ちょっとだけ妬けちゃった。聖次さんがカッコいいから、心配になっちゃって」


 聖母の余裕の中に垣間見えた、一瞬の独占欲。

 俺が冷や汗を拭っていると、対面の詩織さんが、静かにポケットから愛用の眼鏡を取り出し、カチャリと装着した。

 一瞬で、その場の空気が「家族の団欒」から「生徒会室の尋問」へと切り替わる。

 レンズが冷たく光る。完全な戦闘モードだ。


「いいですか。公衆の面前で、未婚の男女が身体を密着させるんですよ? しかも相手は義理の父親です。……破廉恥です」

「い、いや詩織さん? 周りから見れば、ただの『青春だなぁ♪』って微笑ましい光景にしか見えないと思いますけど……」


 俺が苦笑いで誤魔化そうとすると、詩織さんは冷ややかな視線で俺を一刀両断した。


「……ヘラヘラしないでください。周りがどう見ようと、私たちが『家族』であることに変わりはありません。……信用できません。よって、特訓を行います」

「えっ?」

「家での自主練です。私が監督します。……変な邪念が入っていないか、フォームの乱れがないか……長女として、徹底的にチェックさせてもらいますから」


 詩織さんは真っ直ぐに俺を見た。

 その瞳の奥には、遥さんとはまた違う、「私の目の届かないところでイチャイチャさせるものですか」という、静かだが激しい炎が燃えていた。


「えーっ、お姉ちゃん厳しい〜!」

「うるさい瑠奈。貴女もです。……聖次さんにベタベタしすぎないように、私が目を光らせておきます」


 こうして、俺と瑠奈の体育祭練習は、家では「不意に嫉妬を見せた聖母」と「眼鏡をかけた鉄壁の管理者・詩織」の厳重な監視下で行われることになった。


 ドタバタな家族のやり取りに揉まれながらも、俺の右肩には、グラウンドで密着した瑠奈の微かな体温と、無理をしてでも俺に合わせようとした彼女の横顔の記憶が、静かに焼き付いて離れなかった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

いつも読んでくださりありがとうございます!


☆の応援、ブックマーク登録していただけるとランキングと作者のテンションが上が爆上がりしますので是非お願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ