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曽山は、黙ってゆっくりと、入口の方へ向かった。
「待てよ、オッサン」
誰もが呆気にとられて見守る中、一人の男が曽山に声をかけた。
良太だ。嫌な予感がする。
「誰が帰ってええっつった?まだ、俺の話が残ってるで?」
曽山が振り返った。
「言ってみろ」
「俺らの溜まり場にズカズカ入って来て、言いたい放題、説教垂れよった野郎を、無傷で帰したんじゃ、俺たちの面子が立てへんねん。そうやろ?みんな!」
その台詞でようやく我に返った男たちは、口々に「ああ、そうや」「その通りや」と言った。
春人だけは、放心したように、座ったまま動かない。
「要するに、俺を袋叩きにしたいんだろ?」
「物分かりが良うて助かるわ」
「勝手にしろ」
「それじゃあ、お言葉に甘えまして…」
「やってまえ!」の声と共に、春人を除く8人が、曽山に襲いかかった。
そのときだった。
バンッ!という大きな音と共に、入口のドアが弾けるように開き、ドアクローザーのバネなど完全に無視する勢いで反対側の壁に激突した。
俺を含める、喫茶店内の全員が、そちらに注目する。
石原!
石原久太郎が、両手に、ビール瓶の首を逆さに握って立っていた。
沈黙の中、入口のドアベルが、カッコンカッコンと音を立てている。
「逃げろ!ソーヤン!」
事態が呑み込めず、しばし唖然としていた曽山だが、やがて我に返ったように、「お、おう」
「逃がすな!ぶっ殺せ!」。良太が声を張り上げた。
石原が、右手に持った瓶をカウンターの角に叩きつけた。
ガシャンッ!と音が鳴って、瓶の尻が割れる。
石原は、割れた瓶の切っ先を、男たちに見せつけて、
「よ、よかぞ。やってやる。俺のトモダチを傷つけさせはせんぞ!よかや?!ガキ共!オイはな、東京でホームレスやってる石原って者や。四十五歳で独身、家も仕事もない。未だに素人童貞や!オイのつまらん人生と、お前たちの未来ある人生。刺し違える根性のある奴ぁ、いくらでもかかって来んね!」
よくもまぁ、息子ほどの年頃の奴らの前で、恥ずかしげもなく…。
俺は呆れたが、奴の台詞は、良太たちに絶大な効果があったようだ。全員、石原を恐れて、曽山に近づけない。
曽山は、その隙に喫茶店の入口を抜けて外に出た。
石原は、ビール瓶を構えたまま、ゆっくりと後ずさり、店を出る際、ゆっくりとドアを閉めた。隙間から片手を突っ込んで中指を立て、
「少しは、真面目に働け。クソガキ共!」
完全に、自分のことを棚に上げた捨て台詞を残す。
最後にドアベルが、ガランと音を立てた。




