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墓参りは、すぐに終わった。わざわざ東京から来たんだから、もう少し感動的な演出があっても良かったと思う。例えば、墓石に酒をかけたり、煙草を供えたり…だ。
涙の一つも無かった。
ただ、曽山が柄杓で、バケツの水を墓にかけ、佳織が新聞紙に包んで持って来た花を供えた。蜜柑畑の片隅で育った花だ。それが、墓前で風に吹かれて揺れていた。
石原に至っては、後ろで何もせず、欠伸をしていた。
どうせ、奴の目的は佳織だ。
みんなは、墓や仏壇に向かって手を合わすが、いつも俺は、それを後ろから見ている。せっかく語りかけてくれたときにも、俺はいつも、背後にいた。
せっかくだから、墓石の上に座って話を聞こうと思ったこともあるが、やめた。バチが当たりそうだからだ。
「曽山くんたちは、これからどうすんの?」
佳織が訊くと、曽山は少し考えて、
「純平の墓参りも済んだことだし、今夜のバスで東京に帰ることにするよ」
「そう…」。佳織は残念そうに二人を見て、「そうやね。忙しいもんね」
「カオリン…、いや、佳織さんさえよければ、二、三日厄介に…」
言いかけた石原の脛を、曽山が蹴飛ばす。
「イテッ…、冗談です。帰ります、忙しいんで」
「よかったら、駅まで送りましょうか?」
「そうしてもらえると、有難いよ」
タクシーで来た道を、佳織が運転する軽自動車で戻った。俺は助手席にいて、妻が運転する横顔を眺めていた。
「純平さんね、よう、大学時代の思い出話をしたわ。『あの頃は、今と同じくらい楽しかった』って、二十年間、ずっと。もちろん、二十年の間には、大変なことや苦しいこともたくさんあったから、私が、『今が、そんなにいい?』って訊くと、決まって、『あたり前や!今が一番いい!』って。確かに、短いとは言え、幸せな人生を歩んだ人やったとは思うけど、きっと心の中には、いつも、あの頃のあなたたちがいて、楽しかったあの頃が、もう二度と帰って来んということを、認めたくなかったんやないかしら」
佳織の話を聞いて、曽山と石原は黙り込んだ。そして、それっきり、駅に着くまで口を開かなかった。
「また、いつでも遊びに来てね。遠慮せんでええのよ」
曽山は、「ありがとう。仕事が一段落したら…、そのうち」
つまり、就職が決まって、落ち着いたらという意味だろう。
白い軽自動車が行ってしまっても、二人は、立ち尽くしたままだった。
田舎の駅だ。30分に一本しか、電車は来ない。平日の真っ昼間。客の姿は無いに等しく、無人駅ではないのに、駅員さえ見当たらない。タクシーの運転手が、春の陽気の中、シートを倒して昼寝していた。
「楽しかったなぁ、あの頃はよぉ…」。石原の頬を、涙がボロボロと伝った。「どうして、こうなってしもうたとやろうなぁ」
曽山は、石原の方を見ず、黙って袖で目を拭った。
どうして、こうなってしもうたんやろなぁ。
石原はホームレスとして、蔑まれながら生きている。曽山は失業して全てを失い、俺は死んでしまった。
希望に満ちた若かりし頃は、何処へやら。時間がもたらすのは、残酷な結果ばかりだ。
人生は、絶望しか生まない。
例え、栄光に彩られた人生を歩んだ者でも、最後に行き着くところは、今の俺がいる所だ。
「このままじゃ、帰れないな」。何かを思い立ったように、曽山が言った。
「え?」。俺と石原が訊きかえす。
「帰れないって言ったんだ。探そう。こんな小さな町だ。人に聞けば、すぐに見つけることができる」
「ちょっと待て。ソーヤン、何言っとっと?」。涙を拭いて、石原が訊ねた。
「だから、探すんだよ、純平のバカ息子を。探し出して、根性を叩き直してやろう」




