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こうして、失業者とホームレスと、死人の同窓会が始まった。
この二十年間であったこと。良かったことや、悪かったこと。仕事の話、家族の話。大学時代の思い出…。とてもじゃないが、一晩で語り尽くせる量ではない。
夢の中では、いくら飲んでも潰れない。いくら食っても満腹にならない。冷蔵庫のバーテンは、どんな無茶な注文にも答えてくれた。もちろん、俺が食べたことのあるものしか作ることはできなかったが。
「しかし、松村がフラれたときは…」。俺が話を振ると、
「ケッサクやったな!」。石原が笑った。
「酷い奴だな。あいつ、あのとき10kgも痩せたんだぞ」。曽山が抗議した。
「130kgが120kgになっただけばい」
「その通り。健康、健康。正直俺も、ちょっとウザかったんや。あいつ、ノロケ話ばっかりしとったさかいな」
「純平は、彼女がいただろ?カオリンという、可愛い彼女が!」
「いても、他人のノロケ話はウザいんだよ」
「お前たちはそうやって笑うけどな、あのことが引き金になったのは、間違いないだろう」
曽山が言ったので、俺と石原は黙り込んだ。
そうだ。あのことがきっかけで、松村は卒業後、すぐに…。
「結局、マツを含む四人、あの頃思い描いた人生を歩むことはできんかったということか…」。芋焼酎をロックで飲みながら、石原がしみじみと言った。「マツは彼女を幸せにすること、俺は企業戦士、ソーヤンは温かい家庭、お前は世界旅行やったっけ?」
「俺は叶ったで。旅行なんて、死んでから幾らでも行けるぞ。思ったより、つまらん物やったけどな」
そう言って俺は、大統領のデスクに電動バイブがあったことや、ピラミッドに、まだ見つかっていない石室が幾つもあることを教えてやった。
二人とも、感心して聞いていたが、どうせ目が覚めれば忘れてしまうのだろう。
「お前たちの夢かて、もう叶わなんとは限らんやろうが。まだ45歳や。再婚かって、再就職かってできるやろう?」
石原は、カッカッカと笑って、
「馬鹿言わんね。十年もホームレスやってた奴を、何処の会社が雇ってくれるって言うとや。あったとしても、チンケな町工場がいいとこや。企業戦士なんて、夢のまた夢ばい」。焼酎を飲み干す。自分でアイスペールから氷をとってグラスに足し、焼酎を注いだ。「ソーヤンこそ、奥さんたちが出て行って、まだ一ヶ月やろ?再就職さえすれば、帰って来るんやなかね?」
「それがなぁ…」。ため息交じりに言って、曽山は、飲み干したビールの缶を潰し、ゴミ袋に放った。プシュッと音をさせて、新しいのを開ける。「問題の根は、意外に深いんだよ」
俺も、この一ヶ月、曽山の様子を見て来たから、生半可なことでは、ヨリを戻せないことを知っていた。
「でもよ、死んだ奴の虚しさってのは、死んだ奴にしか、分からんねんで?」。俺は、バーテンに作らせたエビチリを突きながら言った。「何しろ、目の前で何が起きたって、そこに、何一つ干渉することができんのやからな。泣いてる奴を慰めてやることも、ムカつく奴を殴ってやることもできん。息子がグレたって、言い聞かせてやることもできんのや」
曽山と石原は、互いに顔を見合わせた。
「俺は確かに早かったが、お前らかって、いつかは死ぬ日が来るんや。それに、世界旅行と違って、お前たちの夢は、生きている間にしか叶わんのやぞ。チンケな町工場?上等やんけ。お前が尊敬した親父さんは、チンケな町工場の工場長やったろう?」
「ぬっ…」。唸って、石原は下を向いた。
「曽山、お前もや。そりゃあ、家族をないがしろにした十年間は、大きい。ちょっとやそっとじゃ、許してくれんやろう。せやったら、奥さんが帰って来るように、土下座の一つでもしてみろよ。跪いて、これからは良き夫、良き父親を目指しますって、誓ってみろよ」
曽山は、缶ビールを見つめたまま、何も言わなかった。
「死んだからって、偉そうな顔をするわけやないが、死んで分かることもある。それはな、死んでからじゃあ、遅いってことや!死んだら何もできへん。何も変えられへんってことや!だったら、生きてる間にやるしか、ないやんか!人の一生は短い。短い上に、いつ終わりが来るかも分からん。だから、死なない間に、それを、どうにかするんや。叶えて、満たして、納得して、解決して、落とし前つけて、極力未練無くしてから、こっち側へ来い!」
エアコンの効きが悪くなってきたのかと思ったら、隙間風が半開きのカーテンを揺らし、窓に叩きつけられて張り付く雪が見えた。吹雪いてきたらしい。普段から冷え込みの激しい北国では、窓は二重サッシになっていて、防寒対策が施されているが、九州にそんな設備があるはずもない。
いっそ、舞台をハワイに変えることもできたのだが、俺は立ちあがってカーテンを閉めるだけにしておいた。
振り返ると、二人はいなかった




