エピローグ:円環の終わり、そして始まり
2019年某日。
あわただしい日々が過ぎ、塔子の部屋には再びいつもの静寂が戻っていた。
けれど、窓から差し込む朝日の色は、以前よりもずっと鮮やかに感じられた。
机の上には、真っ白な原稿用紙と、一台のデジタルカメラ。
塔子は、鏡の前で自分の髪を整えた。
あの雑誌に載っていた、少し短めのショートボブ。
1979年の昭子が「素敵だ」と言ってくれた、あの姿だ。
「……よし」
セルフタイマーのスイッチを押し、レンズに向かって微笑む。
カシャリ、という軽い電子音。
この写真が、39年前の昭子の机に届き、絶望の淵にいた彼女を救うことになる。
塔子は、迷いのない手つきでペンを走らせた。
雑誌『フレン・ドゥ』、2019年9月号。テレフォンフレンド募集係。
『趣味はカラオケ。血液型はA型。 好きな歌手は、久保田早紀さん。
――いつか、私を見つけてくれる親友へ。
あなたが今、どんなに孤独でも、未来には必ず私がいます。
だから、どうか諦めずに、ここまで歩いてきてください。』
書き終えた原稿を封筒に入れ、塔子は窓を開けた。
大分市の街並みは、1979年から大きく姿を変えた。
けれど、あの時と同じ風が、今も頬を撫でていく。
この手紙が、時を超えて彼女に届く。
その奇跡のきっかけを、今、自分の手で作り出す。
それは昭子への恩返しであり、自分自身の孤独を救うための、最初で最後の「儀式」だった。
郵便ポストへ向かう塔子の足取りは、驚くほど軽やかだった。
39年前から届いた声に応えるために。
そして、いつかまた、あの穏やかな笑顔に会いに行くために。
(本当の終わり)




