伝承
ハナは家の者に、サヨリ達のことを話すべきか迷った。両親が地元の人間だったら、話さなかったかもしれない。
「山で暮らしているサヨリっておばさんにあったの。ナンダ・カムリって知ってる?」
両親は揃って首を横に振った。
「図書館か、民族資料館なら何か残ってるかもしれない。」
父のアドバイスに従い、土曜に村役場に隣接する図書館に向かった。
「地域の伝承資料はありませんね。もっと大きな街の資料館にいったほうがいいですよ。」
史書の女性にそう諭され、翌日は朝早く街にバスで向かった。教わった地図を頼りに、あたりで一番大きな民族資料館にやってきた。
「地域の語り部がナンダ・カムリの伝承をまとめたものはありますが、語り手によって異なっている部分もありますよ。」
係りの人が紙を束ねたいくつかの冊子を出してきてくれた。
シンダ・カムリには二人の男の子と一人の娘がいた。長男は山の暮らしがいやで、人里へと降りて行った。次男は病弱だったため、末娘の婿が後を継ぐこととなった。彼は物腰のやわらかい好青年と評判もよかった。彼は、義父が亡くなると豹変した。目障りな次男を追放し、他のカムリたちの土地へと進攻を始めた。
それは、山奥から金鉱脈が発見されたからだった。怒った動物たちはナンダ・・カムリと共に、戦った。その惨劇を見て、神は山崩れを起こし、鉱山は多くの人と動物を飲みこんで崩れ去った。
それから千年。再び、人とナンダ・・カムリとの間の緊張が高まる時、大地に新たな王が現れる。その時、人とナンダ・カムリがどう動くかで未来が決まるという。
予言は地域や語り手によってさまざまに解釈された。人が滅び、新しい王が誕生するというものや、荒唐無稽な宇宙人降臨説などまであった。残されているどの語り部にも共通するのは、人類滅亡のシナリオだった。