塾
ハナも進学のために受験を考える時が来た。
「山岳部なんてごめんだ。グリブのいる高校にはいかない。」
ハナは山岳部の無い女子校を選んだ。しかし、少々学力が足らない。
「せめて夏休みだけでも進学塾にいったほうがいいかも。」
両親は考えたが、山の中の集落だ。都合のいい塾など無い。かといって、街に通うのもお金がさらにかかる。
「いいよ。進学しない。」
「だめよ。せめて高校ぐらいはいきなさい。お前一人でここの暮らしはできない。街で働くには大学まで行って欲しいけどね。」
やがて、両親はとんでもない結論に達した。
「山岳部に入らないためだ。」
そう自分に言い聞かせて、ハナは家を後にした。
「ごめんください。」
「ハナちゃん、待ってたよ。」
ずんぐりむっくりしたおばちゃんが出迎える。
「リアの隣の部屋が空いてるから。旦那が亡くなって、あの子も出て行ったから、寂しくて
ついフクロウ喫茶なんて始めちゃったけど、これで賑やかになるわ。」
ハナの両親はこともあろうに、街にあるリアの実家に下宿し、そこから塾に一ヶ月間通うというものだった。おまけに夏休みで、時折帰って来るリアやクフトにも勉強を見てもらえる。
「弁当も作らなくて済むし、一石三鳥だな。」
せっかく街に出てきても、遊ぶお金も友人もいない。時折フクロウ喫茶の手伝いで臨時収入はあるもののちょっとおしゃれな文房具を買う程度の額にしかならない。
「入学したら、わたしの後輩になるね。」
リアはうれしそうだった。彼女は学校のサポートもあって普通科に通った。高校も大学も受験にはハンディなし。
「がんばれば、私もリア充になれるのかな。」
リアの生活がうらやましいとは思わないが、自分の生活が惨めには思える。
「中学三年は将来のこととかよく見えないから、不安になるのよ。でも、あきらめなければ夢はきっとかなう。あしたはダメでも、あさってには。それもダメでも一年後。三年後、十年後。夢を持ち続けること。今は、その夢を探すためにできることをするの。」
はあ、恋する乙女はポジティブだなあ。