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再会

 町に着き団長が挨拶を終えると、一団は西地区の外れ、城壁の近くへと案内された。すぐ近くに公演用の広場もあり、サーカス団にとって最高の場所だった。

二人に一部屋が割り当てられ、各自部屋へと入る。アンソニーは親友の奇術師、ベン=ユーイングと同室だった。

 荷ほどきをしていると、アンソニーとベンに声がかかる。

「明るいうちにテント立てちまうぞー。男衆は公演用の広場に集合だ」

 ふたりは返事をし、すぐに広場へと向かう。

「なぁ、アン」

「なんですか?」

「テントの組み立てが終わったら飲みにいかないか? この町の蒸留酒はうまいんだよなー」

「あのー、すみません。僕は用事があるんで今日は遠慮しておきます」

「ん? ああ。ここはアンの故郷だったな。すまんすまん。今日ぐらい一人にさせてやるべきだったな」

 ベンが笑いながら言う。

「すみません、ありがとうございます」

「それはそうと、アンはいつになったら敬語をやめてくれるんだ?」

「ベンさんの方が年上ですし、尊敬する先輩ですから」

「年上っていっても、三歳の差だろう? 大した差じゃない。それに尊敬って……」

 ベンが歩きながら照れくさそうに頭を掻く。

「まぁ、そういうことです。敬語はやめませんよ。しばらくの間はね」

 そうこうしてるうちに広場へ到着する。

 どうやら作業は始まったばかりのようだ。

 ふたりも急いで作業に加わる。作業は太陽が沈み始める頃まで続いた。

 作業を終えるとアンソニーは急いで宿へと戻り、出掛ける準備をした。作業のせいで彼の綺麗なブロンドの髪と移動の間に着ていた服は埃にまみれていた。彼の特別整っているというではないが、何かしら人目を引くものがある前途有望そうな顔も埃まみれになっていた。アンソニーはお湯で濡らした布を使い髪の毛と顔を綺麗にし、一番着慣れた麻のシャツと焦げ茶色のパンツに着替え急いで宿を出た。

 辺りはもう暗くなり始めていた。

 彼女の家のある東地区へと早歩きで進む。

 仕事を終えた男たちで溢れる中央地区を抜け、明かりの少なくなってきた東地区の商店街へとたどり着く。

 ここを抜ければ彼女の家だ。

 自然と歩幅が広がり、早足になる。

 明かりの灯る家が見える。

 そして、家の前で止まる。一度深呼吸をし、扉へ手を伸ばす。その時だ。

 中から知らない声がいくつもする。

「あれ……? ミラの声じゃない……?」

 アンソニーの知らない、家族の声だ。

 やっぱり彼女はもういないのだろうか。

「よう、兄ちゃん。この家に何かようかい?」

 低い男の声。

 アンソニーが振り替えるとそこには筋肉質で長身の男が立っていた。

「アルバートさん……? どうしてここに?」

 アンソニーの顔に驚きの表情が姿を現す。

 アンソニーが彼へと近付く。

「アン坊が迷子になってるんじゃないかと思ってな。ちなみにここは俺の家だ」

「俺の家って……それじゃあ、彼女は、ミランダはどこに?」

「まぁ、落ち着けって。ミラ嬢は南地区に越したよ。案内しようか?」

「よかった。まだ住んでるんだ……。アルバートさん、案内をお願いします」

 アンソニーが頭を下げる。

「その前に、うちの店に寄っていけよ。婆さんに顔を見せて行きな」

「そうします」

 そういってアンソニーとアルバートが歩き出す。

 昨日の曇り空とは違い、空には星と月が顔を出し始めていた。


 少し歩き、閉める準備をしている店へと着く。

「婆さん! アンソニーが帰ってきたぞー!」

 アルバートは店内に入るとすぐにヘンリエッタに声をかけた。

「あら、随分と逞しくなったわね。元気にやってたかい?」

「はい。ヘンリエッタさんこそ、相変わらずお元気そうでなによりです」

 優しい笑顔で話すヘンリエッタにアンソニーも笑顔で返す。

「ほら、こんなところに寄り道してる場合じゃないでしょう? ミラちゃんのところへ行ってあげなさい」

「そうします。でも、その前に……」

 アンソニーが麻の袋から二枚の紙切れを取りだしヘンリエッタへと手渡す。

「ロックウッドサーカス団、道化のアンソニーがお二方を招待いたします」

 アンソニーが深々と頭を下げる。

「あらあら、ありがとう」

「アン坊、ありがとうよ。楽しみにしておこう。さてと、そろそろ行くか」

「そうしますか」

「婆さん、アン坊をミラ嬢の家に送ってくる」

 そういい、ふたりは店を出た。

「寒いな」

「ええ、寒いです」

 日が完全に沈み、空を濃い藍色が覆い、そこに宝石のような星が散りばめられていた。

 商店街はしんと静まり返り、さっきまでの喧騒が嘘のようだ。そして、家には明かりが灯り、幸せそうな話し声や笑い声が微かに聞こえる。

「お前、ピエロなんかやってたのか」

「はい。そうですけど……」

「似合わねぇな」

「なんですかいきなり」

「なんだろうな」

 アルバートが笑いながら言う。

「まぁ、大した意味はないんだ。ただ、似合わないなと思っただけだ」

「……そうですか」

「ところで、アン坊はミラ嬢の事をどう思ってるんだ? やっぱ、好きなのか?」

「な、なに言い出すんですか!?」

 アンソニーの顔が赤くなる。

「図星か? やっぱりなー」

「いや……あの……ミラは幼馴染みだし……その、年下だし……美人だし……」

「自分には釣り合わないってか?」

「……はい……」

「最近、ミラ嬢に言い寄ってる男がいるらしいんだが……」

「誰ですか? その男は」

「どうやら、ミラ嬢の家の近所に住むカーティスとかいう男らしい」

「カーティス……」

「ああ」

「そのカーティスって男はどんなやつですか?」

「さぁ? 自分で確かめるんだな」

 アルバートが笑いながらアンソニーの肩を叩く。

「ほら、着いたぞ」

 くだらない話をしているうちに、ふたりは東地区から南地区へと着いていた。

「さ、早く行ってやれ」

「はい。案内ありがとうございます」

 ふたりは最後の言葉を交わすと、アルバートは道を引き返し始め、アンソニーは扉の前へ立つ。

 そして、深呼吸。心を落ち着け、そして、ノックする。

「ごめんくださーい」

 室内から「はーい、今いきます」と聞き覚えのある声がする。階段を降りる音がして、扉が開く。アンソニーのマリンブルーの瞳に映り込んだのは三年の時を経て美しく成長した幼馴染みの姿だった。

「どちら様で……」

 彼女と視線が交差する。

「……アン……?」

「久しぶり、ミラ」

 ミランダがアンソニーへと抱き付く。

「おかえりなさい……」

「ただいま」

 玄関先で抱き合う二人を月とたくさんの星が寒空の上で温かく見守っていた。

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