《七章 決着》
「時間干渉は予想していなかったのだろうな」
紅城がアデルに対抗するために【草薙剣】を取り出すよりも少し前、神威は止まった時の中でカーラと対峙していた。
無論、今のカーラに時間停止に対抗する手段も、それを使うという予測もなかった。
ピクリとも動かない相手を前にして神威が抱くのは、この力を使ってしまったという後悔と、これで無事に戦闘を終わらせることができるという安堵と、自身の敬愛する相手への忠誠心だった。
────故に、神威はカーラへの不敬である時間停止を解除するとともに、【草薙剣】を再度空間に収納した。
「【血ノ聖ナル舞踏会】」
歯車が動き出した世界の中で、カーラは魔法を構築していく。ルナの血を取り込んでより強化されたカーラはその魔法を身に纏い、血で作られた剣を神威の首に添えた。
「チェックメイトよ」
神威の【已眼】で見た最悪の未来から、少しだけ離れた現実がそこにあった。
***
何が起こったのか私には分からなかった。確かに私は【草薙剣】の神技────【不刻】を使って時間を止め、逆転の芽を摘んでいたはずだった。それなのに、何故私は、【妖】、それも吸血鬼に命を握られているというのか。
不可解なのは、私自ら【不刻】を解いたことだ。あの有利な状況を手放すことなど、普通の判断ではあり得ない。ならばあれは、普通ではなかった故に起きた事象。
可能性としてあり得るのは、
「……なるほど、洗脳の類か」
精神操作、それしか思い当たる選択肢はなかった。
しかしあり得るのだろうか?曲がりなりにも神に近しい私にすら効果を持つ、そんな力が存在し得るのか。
きっとそれは、元の世界であれば、それはあり得ない。だがしかし、ここは私達のいた世界とは違う、別の世界。定められた決まりも、何もかもが異なる世界では、既存の常識は機能し得ないのかもしれない。
「正解。だから、【少しも動いちゃだめよ】」
吸血鬼の言葉を頭で理解するよりも早く、私の体は少しも動けなくなってしまった。
「警戒は怠らないほうがいいわよ?特に、女の子の視線には敏感になるべきよ」
「そうか……それで、向こうの様子は?」
「うちのアデルが一歩リードってと────ちょっと!何よそれ!!」
吸血鬼の視線の先を何とか目で追うと、残像を残して地面を駆け抜けている男、アデル目掛けて、紅城が雷を命中する瞬間だった。
「おい吸血鬼、アレは不味い。すぐに治療してやれ」
「いや、駄目みたい。どうやら向こうはまだやる気みたいだもの」
紅城の手には【天十握剣】だけでなく、私と共有している【草薙剣】が握られていた。
つまり紅城は、私と同じく時間停止でカタをつけるらしい。
「アデルはアレに勝てるのか?」
「そんなの普通、分からないわ────でも、今回は違うわね。勝つのはアデルよ」
「私はそうは思わない」
私の言葉と同時に、世界の時間は再度停止した。その中で動けるのは、時間に干渉しすることのできる私と紅城だけ。
アデルは人間だ。だから、この吸血鬼のような洗脳の力を持っておらず、時間停止の攻略は不可能。無力化は容易い。
じきにこの洗脳も解除できる。一度戦いの熱が引いた今なら、この吸血鬼とも対話できるだろう。
全て自分の予測通りに動くと疑わなかった私が見たのは、止まった時の中を動くアデルの姿だった。逆に、紅城の時間は止まっていた。
想定外の事態に戸惑ったが、その後紅城が動き出したことで少し安堵し、二人が何か会話を交わした後、時間停止は解除されたのだった。




