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《一章 赤ク濡レタ手デ》

クリスマス投稿の予定でしたが、繰り上がります。次回投稿未定。

 また今年もこの日がやってくる。忌々しい一日が、あの地獄の一日がやってくる。


 いつもの変わらない日常が崩れた一日は、あと数刻のところまで迫っていた。


 過去は過去と割り切っているはずの俺だが、やはり、そう簡単に振り落とせるものではないのだろう、記憶というものは。


「俺は、あの日の贖罪ができているのだろうか?」


 周囲に人の気配が全く感じられない倉庫の中で、背の高い男が一人呟いた。そして、おもむろに胸元から何かを取り出す。


「ひッ゙、お、お助けを!!い、命だけはッ゙!!」


 腹の肥えた男は椅子に縛られてただ泣きわめき、体をジタバタとさせてなんとか逃げ出そうとするものの、手足の縄はびくともしない。


 それを尻目に、男が取り出したのは煙草の箱だった。近年流行しているこれは、貴族が吸うような葉巻とは違って比較的安価であり、一般人でも手に入りやすい代物だが、依存性のリスクなどから多くの国が管理している。しかしながら、一定数、非合法なルートで市場に出回っているのも確かだった。


 そんなルートで煙草を仕切っているのが、椅子に縛られている男だった。


「俺はこの煙草というのがどうにも好かん。その理由が分かるか?」


 箱の中から煙草を一本取り出し、捕まっている男の目の前までそれを近づける。


「そんなことどうでもいい!!さっさと解放しろ!!!どこの誰だが知らないが、俺を”ウロボロス”の一員と知っていてやっているのか!?」


 ”ウロボロス”、それは約二年前にルガート王国で起こった革命もとい、悪魔召喚による王都襲撃の首謀者とされるグループであり、その大半は鎮圧され、処刑または、拘束されてはいるものの、未だ全貌が分かっておらず、残党もそう少なくない。


 その隣国である帝国においても、ウロボロスの根は残っていた。


「……”ウロボロス”、か」


「そ、そうだぞ?今解放するなら、金次第で許してやらんこともない!ほら、さっさとこの縄を────」


 少し考えるような素振りを見て、組織の一員はここぞとばかりに解放するよう口を開くが、


「────フフッ、笑えるな。俺を誰か知っていてそれを言っているのなら、傑作だ」


 迷っているように見えた男のそれは、ただ自らの因縁を思い返していただけだった。

 

「な、何を言っている!!」


「この顔を知っているか?」


 男は顔をぐぃっと近づけて、相手と目を合わせる。その瞳は虹彩異色症オッドアイだった。右目は黄金色、左目はどこまでも深く、すべてを吸い込んでしまいそうな闇だった。


「その眼!?まさか」


 男の正体を、ウロボロスの一員は知っている様子だった。そして、額に冷や汗を垂らし始める。


「質問してるのはこっちだぞ?早く俺が煙草を嫌う理由を当ててみろ」


「……あ、当てたら見逃してくれるのか?」


 絞り出すような声で言ったその言葉に、男は瞼を下ろし、少し考えた様子を見せた。


「……そうだな。あぁ、する。この国の様に誓ってな」


 わらにもすがるような思いで、拘束された男は思考する。自らが生き残るための唯一のチャンス、それを逃さまいと、生まれてから初めてといっていいほどの集中力を持ってして、解を求めた。


 それほど長くない静寂の後、審判の時は訪れた。


「……じゃあ、匂いが苦手だからだ。見たところお前は綺麗好きで、自分のことをかっこいいと思っていそうな人間だ。そんな自分から煙草の匂いがすると、女に嫌われるからだろう?」


「あぁ、なるほど。まぁ、女に嫌われるからというのは違うが、匂いが苦手というのは間違っていないな」


 その言葉に男は安堵した。間違っていないというのは、すなわち正解したというのと同義であり、ここから解放されるというのも遂行されると思ったからだ。


「じゃあ、正解したんだ、助けてくれ!」


「いいや、無理だ。お前はここで死ぬ」


「ハアッ!?お前、約束するって」


「じゃあ逆に聞きたいんだが、今までお前は助けてくれと言ったやつとの約束を守ったことはあるのか?」


「クッ。だが、俺を殺せば組織がお前を────」


 縛られて動くことのできない男にとって、言葉での脅しは最後の手段だ。いくら崩壊同然の”ウロボロス”といえど、それの魔の手からは簡単には逃れられない。しかし、それすらにとって、脅迫は無意味である。


 ”ウロボロス”の一員の死角から素早く取り出したナイフを構え、その刃を首に一線。


「────え?ひっ、あ、俺の体、」

 

 一瞬のうちに首を切られた男は、自分の胴体を見て死んでいく。まともな言葉など残す間もなく、全てが終わる。


「この国の勇者に誓うとは言ったが、俺が信仰しているのは聖女ルナだけだ」


 オッドアイの男────”アデル・リッパー”は、暗殺者として返り咲いていた。それも、他ならぬ帝国の地で。


 赤く染まった手は、再度その濃さを増していくのだった。


 ***


「いやぁ、さすがですねぇ、アデルさん。私だったらあんな簡単に人を殺せませんよぉ」


 仕事を終え、倉庫から出てきたアデルの背後から、足音とともに謎の女の声が聞こえてくる。


「そんな様子だと、私達を裏切らないか心配ですねぇ?」


「俺がそれをするメリットがない」


 俺とこの女の関係は複雑だ。あの日行く宛もなく彷徨っていた俺とルナを助けてくれたのは他でもないこいつだが、国を守るために、は何でもする。たとえその方法が、罪なき市民を殺すことでも、忌むべき存在である悪魔を倒すための犠牲であるならば、それを悩むことなく行える異常者のあつまり。それがこの女、帝国における暗部筆頭、ポーラ・ハモンドである。


「まぁ、その場合はを────」


 ポーラの言葉にアデルはナイフを取り出して、先程と同じように首に刃を突き立てた。しかし、それはポーラの構えたナイフによって、鍔迫り合いになっていた。


「これ以上茶番を続けるつもりなら、お前を殺すぞ」


「ひゃあぁ、怖い怖い。とりあえず、今日の仕事はこれで終わりですよ。お疲れ様でした?」


 ポーラは興味をなくしたようで、ナイフに込める力を弱めたのでこちらもそれ以上争うのはやめにした。


「仕事が済んだならさっさと消えろ」


 ポーラは手をひらひらと小さく振り、俺と逆方向に歩き始めたが、突然振り返ってこう言った。


「あ、ひとつ良い忘れていました。あなたの家の今日の晩御飯はビーフシチューですよ?」


 はぁ、


 ***


 仕事を終え、別名義で借りている住居で体についた汚れ(主に血)を落としてきた俺は、いつも通りが待つ家に帰り、扉を開ける。


「おかえりなさい、アデル。今日も随分遅かったみたいだけど、お仕事お疲れ様」


 そこにはエプロン姿のルナが立っていた。どうやら俺が帰って来るのを待っていてくれたらしい。いつから待っていたのかは分からないが、その気遣いに少しの申し訳なさとともに、心がむず痒いように感じるのはおかしなことなのだろうか。


「……あぁ。ただいま、ルナ」


「今日は朝からビーフシチューを煮込んでみたの!できたてだからぜひ食べて。今日もが待ってるよ」


「みんな……やはりそうか」


 俺は少しため息を付いた後、上着を脱いでリビングへと向かった。


 ***


 ポーラが俺の家の晩御飯を言い出した時点でなんとなく察してはいたが……


「もちろん、私もいますよ?」


「私もいるぞ」


「アデルさん、俺達もお邪魔させてもらってます」

 

 俺の家の食卓には、さっきあったポーラがいた。何食わぬ顔で我が家の食卓に居座っているこいつには、殺意すら湧いてくる。


 それだけでなく、この場には他にも、?姿の、”神威”と”紅城”もいた。


 無論、この家は俺とルナの家だ。しかし、この食卓にはほぼ必ずと言っていいほど、この三人がいるのだ。一人を除いて、俺はこの生活に不満を持ったことはない。むしろ、十分すぎるほどだ。


 この普通じゃないはずの、何気ない普通の景色が、俺の日常だった。


 ────今日は、クリスマスの、前日だった。


 ────嫌な予感がする。この歪な日常が、やっと手に入れた平穏が崩れるような、そんな気がした。


 ***


「このようなところに、本当にルナがいるのでしょうか?」


「探してみる以外、どうしようもないでしょうが。まず第一、私達は今回帝国に来たのは、誘拐されたルナと犯人のアデルを探しに来たんだから。ルーグナー殿たってのお願いよ?」


 騎士と神父の足音が、帝都へと近づいていた。

 

【設定】

Q:なぜこの世界に、別のお話の紅城と神威がいるの?

A:複雑なあれやこれやを、あれこれして……


Q:二人ってどのくらい強いの?

A:某冒険バトル物語と同じく、すごく弱体化が入っていて、元いた世界の殆どの”エネルギー”が使えないため困ってる。


Q:二人の出番あるの?

A:もしもなかったらここに出してない。まず、この物語においても二人は重要。


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