《四章 残る謎》
【妖界】が崩れ、現世に戻った私たちは、悪魔の契約者である男の身柄を確保し、一息ついていた。
「これにて一件落着……とは言えないな」
ルーグナーの言う通りだ。さっきの悪魔は霧を操ってくるような力は使ってこなかったし、多分これはカルディアの事件とは別物だろう。
だが、全く関係ないとは言い切れない。
「ねぇ、あなた。カルディアって場所知ってる?」
私は壁に寄りかかりながら、地面に倒れている男に聞いてみた。
「僕が、答える、理由は、あるの、かい?」
知らない、とは言わないのね。その反応からするに、多分こいつも関係者ってことだろう。
それと、男は息が荒くなっている。てっきり怪我かと思ったが、目立った外傷はない。致命傷に見えたルーグナーの一撃も、どうやらあれは悪魔にだけ効果があるようだ。しかし、体に根付いた悪魔への攻撃が直接痛みとして返ってくると、たしかルーグナーから聞いたことがある。
「私たちに負けたんだから、言いなさいよ。それと、あなたの目的についても」
「……」
男は何も言わない。
ここでこいつが全て話してくれたら楽なんだけど、まぁ、言うわけ無いわよね。
口を割らないと思っていたルナに、男が口を開いた。
「……どうしても聞きたいって、言うのなら、一つ条件がある」
てっきり何も言わないかと思ったが、男が私達に取引を持ちかけてきた。
「何が望み?」
「僕を逃がして、くれるなら、教えてやっても、いい」
取引を受けるべきか、否か。
今ここでこいつから色々聞いておけば。この後の対策も楽になるかもしれない。だが、そうなると、こいつはまた自由になってしまう。
その選択はないわね。
「悪魔と契約したやつを逃がすわけないだろ。それに、こいつは何も話さない。諦めろ、ルナ」
ルーグナーは私と同じ考えだったようだ。犯罪者を野放しにしていいわけがない。
何も聞けないと諦めかけたその時、男が口を開いた。
「話すさ。だって、僕は雇われの身だ。組織について、忠誠心が、あるわけじゃない」
なるほど、こいつはあくまで依頼を受けてやっただけ。元凶はその組織ってや────
「────組織ってなに?」
私は男に聞いた。組織というものについて、私は今まで聞いたことがない。
「…………なるほど?」
驚いた顔でこちらを眺めた後、何かに納得した男。しまった、知らないことを知られてしまった。
ルーグナーも組織という単語に引っかかり、男に問い詰め始めた。
「おい、答えろ。組織とは何だ?」
「そんなことも、知らないのか、お前たちは。悪いが、契約は守らせて……ゥ゙グッ」
ルーグナーに胸ぐらを掴まれていた男が突然苦しみ始めた。
「おい、どうした!!」
ルーグナーの問いかけに男は答えない。あまりにも急な出来事に、私たちを騙す演技ではないかとも思った。
「グホッ……あいつら、俺に!」
しかし、私の目には、男が嘘をついたり、何かを演じているようには見えなかった。
何とか助けようと近寄った私は、男と目が合った。
「ルナ、狙いはお前だ」
あぁ、そうなのね。
そう……救えないのね。ごめんなさい。せめて苦しまずに、そして安らかに眠りなさい。
私は男の手を握った。
「おい、ルナが狙いだと?何故だ!答えろ!」
鬼気迫った表情で口早に男を問い詰めるルーグナーの肩に私は手を置く。
「ルーグナー、もう聞いても無駄よ。その人、もう死んでる」
男はすでに死んでいた。さっきの慌てた様子、多分組織に口封じされたのだろう。
私にとっては、こいつは敵だったわよ?でも、組織にとってこいつは仲間だったんじゃないの?
「────なんでこんなことできんのよ」
「クソッ」
「……とりあえず、列車のスタッフに状況を説明しましょう。それと、その人のことも」
「あぁ、そうだな。だが、心配じゃないのか?さっきの言葉」
「心配よ?でも、それを気にしすぎていても意味がない。だって、この後まだ悪魔と戦うんだし、危険には変わりないもの」
今まで散々私を悪魔に関わらせてきた男が、珍しいわね?いや、全部私から首を突っ込んだ気が……いいえ、考えるのはやめましょう。
だって、私はそれについて何も思っていない。
「今更だが、帰っても良いんだぞ?」
「そうすると思ってるの?」
「……残念ながら、全く」
事件はまだ終わっていなかった。
むしろ、ここからが本番だった。




