表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
洋館の記憶  作者: ヤン
9/29

第九話 懐かしい人

 式は順調に進んでいき、終わりの方で、教師の紹介があった。もちろん、担任のことは知っている。彼女は、それほど背は高くないが、堂々とした雰囲気を持っており、「私に任せて」と言ってくれそうな人だった。彼女が、学年主任らしい。

 

 紹介される教師を順番に見ていたが、ふと一番端に立っている教師が目に入った。そして、その瞬間、何か懐かしいような気持ちになって、戸惑った。


(いや。知らないよ、あの人)


 心の中で言ってみたものの、知っているという感じは消えない。自分の中で何が起きているのか、わからなかった。その人は、六組の担任で理科担当。桜内(さくらうち)俊也(としや)という名前だった。まだ、二十代半ばくらいだろうか。その名前を聞いても、全然ぴんとこない。それなのに、知っているという感じは、相変わらず私の中にあった。


 式が終わり教室に戻った後、説明をいろいろと受けてから解散になった。悠花(ゆか)は、祖母のそばに行く私を見て、さすがに空気を読んだのか、「また明日ね」と言って手を振った後、教室を一人で出て行った。家族は来ていなかったらしい。


 祖母と並んで歩いて帰る道で、祖母は、「良さそうな学校ね。安心したわ」と微笑んだ。私は頷き、


「そうだね」

「高校生活、楽しんでね」

「はい」


 楽しい時間を過ごしたい。それは、もちろんだ。それなのに、さっきの人の存在が気になる。あの人と私は、一体いつ会ったのだろう。全く記憶がないのに、これはどういうことだろう、と気にかかった。楽しむどころではない。


 翌日から早速授業が始まった。そして、三時間目が、例の人だった。科目は、生物。彼は、教室に入ってくるなり、


「おっはよー」


 テンション高く、言い放った。私は、「え」と言いそうになった。昨日の入学式では、ただ名前と担当する科目を紹介されただけで、何も話さなかった。まさか、こんな感じの人とは、とびっくりしていた。


「これから一年間、よろしくねー。桜内俊也でっす」


 ぱっと見の印象とかけ離れた、すごくノリが軽い人だ。昨日の気持ちも忘れ、いきなり嫌悪感を抱いた。


「はーい。じゃあね、今日十二日だから、十二番さん。『はじめに』を読んでください」


 十二番さんが読み始めた。この先生、大丈夫なんだろうか。本当にそう思った。が、意外とわかりやすく教えてくれる人だった。生物にそんなに関心があったわけではなかったが、一年間頑張れそうな気がしてきた。変なノリの人だけど、そこは目を瞑ろう、と思った。


 午前中で授業は終了。教科書を鞄にしまって立ち上がった時、悠花に声を掛けられた。


(かおる)ちゃん。生物の、桜内先生さ、変だよね。びっくりしちゃった」

「変……ていうか、なんか独特の雰囲気を持ってる人って言うのかな。よくわかんないけど。ま、授業はわかりやすかったからいいか、って思ってたとこ」

「面白い先生だよね。私ね、ああいう人、嫌いじゃないよ」

「あ、そう」


 どうでもいいことのように、そっけない返事をした。悠花は、すでに私に対して免疫が出来ているのか、たいして気にした様子もなく、笑っていた。


「薫ちゃん。途中まで一緒に帰ろう」

「え? 何で?」

「何でって、友達だから」

「意味がわからない。っていうか、私たち、友達?」

「そこ? えっと、友達でしょう。私、そう思ってるからね」


 にっこりと微笑む。私は、顔を背けて、


「行こう」


 つい、声を掛けてしまった。悠花は、私の背中に飛びついてきた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ