第二十六話 よっちゃん、かく語りき
夕食の時間になった。相変わらず、最低限の言葉のやり取りしかない。皆、その時は笑顔になるが、その一瞬後には真顔になっている。今まで何故気付かなかったのだろう。それが不思議だ。
食事が終わる頃、私は三人をぐるりと見てから、
「あの……、みんなに話があります」
「何よ、薫。改まって」
母が私を見ながら言う。ここからが大事なところだ。さっき思いついたのは、よっちゃんが言ってくれないなら、よっちゃんに似ていると言われる私がよっちゃんになりきって言おう、ということだった。少しも疑われないように演技する必要があり、失敗は出来ない。そう考えると、緊張せずにはいられなかった。
「ここに来てから、私、よっちゃんの気配を感じてたんだ。それで、時々よっちゃんの声を聞くようになった。それで……」
そこまで言った時、思いもかけず彼女が私の中にやってきた。自分の意思ではない言葉が放たれた。
「父さん、母さん、お姉ちゃん。私は、あんな最期を選んだけど、いつも三人から愛情をもらって、幸せだったよ。
私は、父さんと母さんが観劇に出かけて帰りが遅くなるってわかってたから、あの日を選んだの。すぐに見つかったら、命が助かっちゃうかもしれないでしょ。それじゃ、困るから。
庭のあの大きな木の根元で私が薬を飲んだのは、あの木が大好きだったから。お姉ちゃんは家を早く出たから、私、話し相手が欲しくてね。あの木に話してたの。あの木は、私のこと、何でも知ってるの。他の人には言えない秘密を、あの木に話したわ。だから、私は最期まで幸せだったのよ。だって私、微笑んでたでしょ? そういうことなのよ。
だからね、みんな。哀しみに縛られてないで、幸せに生きてほしいの。私は、まだ私が小さかった頃の、笑い声が絶えなかったあの時みたいになってほしいの。
それから、薫ちゃん。あの人にも同じように伝えてほしいの。あの人は、今、自分を傷つけて生きているけど、私はそんなこと望んでない。私は、あの人に幸せに生きてほしいって、ずっと思ってる。伝えてね、薫ちゃん」
その言葉を最後に、彼女は私から消えていった。祖父母と母は、驚きの表情をしたまま、何も言わなかった。私は、そんな彼らを見回し、「だそうです」と言った。私のその言葉に、母が、はっとしたような顔をした後、
「薫。よっちゃんが言ってた、あの人って誰? 何で、あなたが知ってるの?」
真剣な表情で訊いてくる。
「えっと……よっちゃんが教えてくれたから」
答えになっていなかったかもしれないが、母は納得したのか、それ以上訊いてこなかった。祖母は、両手で顔を覆うと、
「よっちゃん……ごめんね……ごめんね……」
何度も何度もそう言って、最後には泣き出してしまった。祖父も俯き、目元を指で拭っていた。母は、そんな祖父母の姿を見ながら、唇を噛んでいた。




