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洋館の記憶  作者: ヤン
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第十六話 挨拶

「へー。すごいね。こんな家があったんだ」


 芽衣子(めえこ)が、本当に驚いたような顔をして言った。すると、悠花(ゆか)が、自分の手柄ででもあるかのように得意そうに、「そうでしょ。すごいの」と言った。


 私は、はーっと息を吐き出してから、門を開けた。庭に何となく目をやると、木のそばに誰かがいた。胸がドキッとしたが、よく見ると母がゆるいワンピースを着て立っているだけだった。いちいち驚かせる人だ、と思った。


 玄関を開けると、「ただいま」と言った。祖母が出て来て、


(かおる)ちゃん。お帰り。それから、二人とも、よく来てくれたわね。制服姿の子がこの家に来るなんて十年ぶりだから、何だかウキウキしちゃって」


 十年ぶり。つまり、よっちゃんが亡くなった年ということか。


「おばあちゃん。左が皆川(みながわ)さん。右が楠瀬(くすのせ)さん」

「お邪魔します」


 二人が声を合わせて祖母に挨拶する。祖母は笑顔で、中にいざなった。祖母について歩き出した悠花に声を掛けた。


「悠花。ケーキ」


 悠花は振り向くと、「あ、そうだった」と言い、私にケーキを渡した。そのまま台所に持って行く。遅れて祖母が台所に来て、


「良さそうな子たちね」


 私は曖昧に笑むと、


「悪くはないと思うよ」

「安心したわ。薫ちゃん、ここに来たばっかりだから、大丈夫かしらって思ってて」

「ありがとう。私は大丈夫。それより、母さんかな」

桐江(きりえ)ね。ま、仕方ないわよね。急には良くならないでしょう」


 話しながら、準備をした。


 居間に行くと、悠花は部屋を見回していた。芽衣子は、そんな悠花を面白そうに見ていた。


「はい。どうぞ」


 悠花は、声を掛けられて、初めて私がいたことに気が付いたようだ。驚いた顔をして私を見た後、


「薫ちゃん。いつの間に。ああ。でも、本当にすごいわ、このお部屋。私、こういう所に来たことなくって、全部珍しくって」

「私も、最初はそうだった。もう慣れてきたけど」

「薫、お嬢様なんだね」


 芽衣子が言った。私はすぐに首を振って、


「違う。この前まで、狭いアパートで暮らしてたんだから」


 答えながらケーキやお茶を配ると、悠花の目が輝いた。そして、私を見ると、


「食べていい?」

「どうぞ」

「じゃ、いただきまーす」


 ものすごく嬉しそうな顔をしている。そして、「おいしい」と何度も言っていた。


 お茶が終わると、私は、


「おばあちゃん。ちょっと、この人たちをあちこち連れてってもいいかな」

「いいわよ。ま、個人の部屋は、薫ちゃんの部屋だけにしておいてくれれば」

「それはもちろん」


 二人とともに、家の中を歩き回った。そして、私の部屋に辿り着いた。私は、いつもの通り、「お邪魔します」と声を掛けてから部屋に入った。それを聞いた二人も、「お邪魔します」と言って入ってきた。中に入るとすぐに悠花が訊いた。


「お邪魔します?」

「ああ。なんとなく。この部屋、私の叔母さんが使ってた部屋だから」

「そうなんだ。叔母さんは今は?」

「死んだ」


 二人が驚いたような顔をした。それはそうだろう。


 軽く説明しようとしたその時、壁のそばに置いた鞄が、勝手に倒れた。鞄を起こすと、またパタンと倒れた。私は溜息をつくと、


「ね。こういうことだよ」

「薫。こういうことって、何?」


 芽衣子が、鞄を見つめながら言う。私は頷き、


「こういうこと。時々、彼女は私に何か訴えてくるんだ。でも、今のはきっと、『こんにちは』って挨拶してくれたんじゃないかな」


 鞄は、倒したままにしておくことにした。

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