【Treasure7】 5.(3)
「じゃ、俺ら、そろそろ行きますんで」
そう言って、警部の前を通り過ぎようとした俺に、
「そうか。いいなあ学生は気ままで。羨ましいよ」
警部が大げさにぼやいた。
「そうっすか」
ちょっと立ち止まって、笑って相槌をうつ俺。
その間に、俺に続くミーコが、警部の広い背中に近づく。
まもなく俺が警部に背を向け歩き出すと、後ろのミーコが、
「いいでしょ、旅行。楽しんできまーす」
すれ違いざま、至近距離から警部を見上げ、満面の笑みで手を振った。
「……おお」
思わず頬を緩める警部の前を、
「……失礼します」
最後に翠が、優雅に会釈して通り過ぎる。
かくして、俺らは無事に、そして存分に、因縁の警部に別れを告げ、チェックインカウンターに向かったのだった。
三人を見送った田崎警部は、一通り他のフロアのパトロールも終えたところで、部下たちの待つ詰所に戻った。
「しかし、春休みの海外旅行か。いやあ、羨ましいもんだな。若いっていうのは」
さっき四階で会った顔見知りの学生たちを思い出し、しみじみとつぶやきながら、警部がなにげなく後ろを向いて窓に目をやる。
抜けるような青空を見上げるその後ろ姿を、
「あー! 警部!」
突然、部下の一人がすっとんきょうな声をあげて指差した。
「なんだ、騒々しい」
眉をひそめた警部のまわりに、
「警部! 背中に!」
「なんだこれは!」
口々に言いながら、他の部下たちも続々と集まってくる。
「背中?」
不思議そうに身体をひねって、なんとか自分の背中を見ようとする警部。
そこに、
「ちょっと警部ー。なんすか、こんなの付けちゃってー」
常日頃からいまひとつ緊張感に欠ける若い部下が近寄ると、よれよれのトレンチコートの背中から、遠慮なくなにかをはがした。
「……これは」
部下の手にした、バラの模様が型押しされた白いカードを目にして、田崎警部の顔色も変わる。
一昨年の秋からこれまで、およそ一年半の間、何度も見てきた怪盗ブルーのメッセージカード。
おそらくブルーは、空港を行き交う無数の人々の中に紛れていたのだろう。
衆人環視の中で、いつのまにやらこんなものを背中に貼りつけられていたとは。
慌ててカードを裏返した警部たちの目の前に、見慣れた濃い青のインクで書かれた、ブルーからのメッセージが現れた。
――「お見送り、ありがとうございます。またお会いする日まで。愛を込めて。 ――怪盗ブルー」
【 怪盗ブルーより愛を込めて・了 】
°˖✧★☆★お読みいただき、ありがとうございました!
恒星たちのお話におつきあいくださった、画面の前のあなたにも。
怪盗ブルー(と作者)より、大きな愛を込めて★☆★✧˖°




