ボクシングとの出会い
毎週水曜日と土曜日にアップします。
作者的には自分で書いていて泣いてしまうような物語だと思っています。
文字総数334000文字で完結迄書き終わっているので、良ければご一読ください。
第7話辺りから本編と言った感じになると思います。
「本当にやらすんですか会長?」
「やるに決まってるじゃねぇ~か!なぁ少年! こんなとこまで来たんだ!何か腹に溜まったもんがあるに決まってんじゃねぇ~か! なぁ~少年!そうだろう!?」
そう言われて考え込んでしまった。
『ボクは・・・何でこんなところに来たんだっけ・・・腹に溜まったもの?』
「子供だって男だ!男だったら喧嘩で負けりゃ~腹も立つ!なぁ少年!」
「そうだな会長!おりゃ~負けた事がねえけど負けたら腸煮えくり返るだろうな」
『男だったら・・・そうか・・・ボクは蔑まれたから悔しいのかと思ったけど・・・負けた事が悔しかったのか・・・』
「ホレ!あの子の顔を見れば分かるだろう」
さっきまでのポヤァ~ッとしている龍徳の目ではない。
キリっと純一を指す様に見つめている。
4分2ラウンドだけと始まったスパーリング。
ボクシングのボの字も知らない龍徳がグローブのハンデがあろうが勝てる訳がない。
だが・・・
「ふむ・・・意外とシッカリしているな・・・。」
「ああ。俺も驚いた。もっとヒョロっとしているイメージだったんだけどな」
勝俣会長と真嶋の蓋値がそう口に出す。
「そうですね。腹筋も普通の小学生の割にはシッカリしていますから何かスポーツでもやっているんでしょう。」
「そうだな。体感も悪くない。肩も強そうだ。偶にいいパンチを撃ちやがる。」
「時間が無かったから力を抜いて当たる瞬間に握り込めとだけ教えたんだけどな。」
「どうやら純一の奴から見て盗んでいるようだな。」
「ええ。シロートの癖に偶に良いジャブを撃ちますね。」
「リストが思ったより強いんだろう。」
「大したもんだ。それに・・・根性もありそうだな。」
「ああ。純一のボディをあんだけ喰らってまだ立ってやがる。」
相手のグローブが大き過ぎるから立っていられただけだ。
それと相手より2歳も年上だ!と言う意地が龍徳を奮い立たせていた。
最初は、見え見えのテレフォンパンチ。
それを掻い潜られて逆にパンチを貰う。
ガードを固めれば脇腹に。
だが、顔面を殴られるより腹の方が痛くない
ただそれだけの理由だ。
水泳を初めて3年目。
今では、Aクラスを卒業し特別コースのSクラスの5級へと昇級している龍徳の腹筋は見事なシックスパックなのだ。
教師からさえも何も認めて貰えない龍徳の体育の通信簿は、“3“だ。要するに普通と評価されていた。
しかも得意な夏のプールで、その成績。
だが、今まで“2”であった成績が“3”になった事で龍徳は喜んでいた。
足は未だに遅いが、水泳のお陰で体力と持久力さらに肩の力はかなりの物となっていたのだが、何せ記録が良くても偶然と片付けられてしまい周りから馬鹿にされ続けるのだから今の自分の実力など良く分からない。
未だ勉強も付いていけない為、“2”が増えたもののアヒルの体操は変わらない。
ただ、水泳だけは大会で良い記録を出していた。
今では200mメドレーの選手でもある。
当然だが、バタフライは全身運動。
運動神経が良い程度の子供が扱える泳ぎ方ではないのだ。
それに加え一人で遊ぶ壁当て
今では至近距離から全力で投げたイレギュラーする球に追いつきキャッチする事が出来る程の俊敏性と動体視力に優れているのだが、本人は気付いていない。
実際には一人の少女だけが龍徳の凄さを知っていたのだが、周りが騒がない事に声を上げる事はなかったようだ。
動体視力もそうだが、リストが強いのは、釣りの副産物であった。
今とは違い昔のへら釣り用の竿は“竹”で出来ており兎に角、重かった。
そこに大きな魚がかかれば、普通の子供では引き上げる事が難しい事は、大人になってから知る事となった。
しかも長尺と言われる長い竿を8時間も振り続ける龍徳の握力と手首の力はかなりのものとなっていた。
遠くに投げるウキは僅か1㎜程の細さで、10m先の波間に一瞬だけ吸い込まれる様に沈む為、釣る為には、集中力と一瞬の動体視力、さらに瞬発力が必要なのだ。
慣れない殴り合いだった為、最初はボコボコにされていたが、人の真似をし続ける龍徳の癖が、良い方に働く。
『構えは・・・こう・・・パンチは・・・こう・・・足の使い方は・・・』
4分の間に凄まじい集中力で吸収していく。
結果的にはボロボロだったが、短時間で自分が成長した実感と満足感。
『はぁはぁはぁ・・・なんだろう・・・ドキドキする・・・。』
興奮している龍徳とは裏腹に純一の顔はイラついている。
「ほぅ・・・アイツもあんな顔が出来る歳になったのか。」
「いい刺激になりそうですね。」
その後、どうやって帰ったか龍徳は覚えていない。
兎に角、キツネにつままれたような感じであった。
当面は「無料で良いよ」っと言ってはもらったものの龍徳としてはボクシングをしたいとは思っていない。
だが、確実に龍徳の何かが歯車がかみ合ったように変わっていった。
それから1週間が過ぎた頃、友達のシノタンに殴られる事件があった。
虐めはするものの友達だと思っていたのに・・・
この出来事は龍徳の心を悲しませた。
正直、怖くもないし痛くはなかった。
強がりではなく先日の純一のパンチの方が痛かった。
躱そうと思えば躱せると思える程、分かり易いパンチ。
だから、当たる瞬間少しだけ首をひねった。
実際、龍徳の顔は血も出ていなければ腫れもしなかった。
ただ、友達の去り際のセリフ。
「別に神さんの事、友達だと思ってねぇし!」
いくらポヤァ~ッとしている龍徳でも、この言葉には傷付いた。
ちょうど同じタイミングで、吹奏楽の部室にあったはずのトランペットが5つ盗まれる事件があった。
偶々、海岸近くにある大きな公園で友達たちと遊んでいた時
草むらの中に5つのトランペットがケースごと置いてあったのを発見した。
だが、そんな偶然があるのか?
口には出さないが、教師や警察官の目が“お前が盗んだのか?”っと言っているような気がした。
この盗まれた5つのトランペットの中の一つは龍徳の物だったにも拘わらず。
決して軽くはないトランペットを学校から4㎞程離れた公園の茂みの中に5台も持って行ける訳もないのに・・・
この出来事も龍徳を苦しめた。
本当であればトランペットを見つけた事で感謝される立場なのに・・・
ダメダメな龍徳が、見つけるなんて本当に出来るのか?そんな目だ。
実は、龍徳が6歳の頃から同じ様な事が良く起きていた。
例えば小1の時に某飲食店で行われた似顔絵コンテスト。
大好きな父を2日間かけて書き上げた。
何枚も何十枚も書いた中の最高の出来。
それを提出した時の事
「ダメだよ僕!これは大人が書いたのかな?何にしても自分で書いた物じゃないと受付できないから持って帰ってね。」
そう言われたのだ。
いくら自分で描いたと伝えても大人たちの反応は冷たかった。
大好きなお父さんに褒めて貰いたかっただけなのに・・・何で、そんな事を大人達が言うのが理解出来ない。
小2から小5までの夏休みの工作に至っては
「神山!夏休みの宿題は自分でやらんとダメだぞ!」
確かに夏休みギリギリに片づけはしたが、ちゃんと自分ですべてやった
だが、担任の言い分は
「どこかで買ってきた物を出したら直ぐバレるに決まっているだろう!」
であった。
毎年、手先が器用な父に手解きしては貰うが、全部自分の力だけで作り上げた。
自分に出来ることを丁寧に・・・上手に出来ると喜ぶ父親の顔が見たかったから満足のいくまで作ったのだ。それを全否定されるのは納得がいかない。
だが、どんなに説明しようが受理して貰えず、提出しないと成績に響くと言われ手を抜いた物を変わりに出す事になる。
当然評価は最悪だ。
「本気でやればやる程、認めてくれないなら手を抜いた方が良いのかも・・・」
他にもスポーツテストや運動テストなどもそうだ。
遠投で学年トップと同じ距離が出ればマグレと言われ手抜きをすれば納得して貰える。
走り幅跳びで学年トップの距離が出ても偶然。
懸垂に至っては30回を超えても“0”と記入され報告される。
限界まで腕を酷使してからのやり直し・・・
休憩なしで乳酸が溜まった腕では一回さえも上げる事が出来なかった。
だから龍徳はやる気が無くなっていたのだ。
本気でやればやる程、周りが認めない。
小さな頃からそう思ったから本気になる事はしなくなった。
習い事でも何でそんな意味のないやり方をするのか理解出来ない。
そう考えてしまいポヤァ~ッとしている龍徳がいたに過ぎない。
目立ちさえしなければ、みんな嫌な顔をしないから・・・そう思っていたのだ。
勉強も同じだ、皆がノートを写す中、先生の授業の説明は止まる事がない。
先生の話を聞いてノートを写すなどどちらも中途半端な気がして龍徳は納得がいかなかったのだ。
ノートなど取らないで教科書を見ながら先生の話だけを聞いていた方が余程、理解出来るのに怒られるから黒板に書かれた文字を必死に書き写していただけなのだ。
実際、自分の覚えやすい様に勉強した時だけは点数が良かったが、ノートを取らない事に執拗に先生に怒られた事で、嫌々ノートを取り続けた。
何をしていても“こうした方が面白いのに”とか“こうした方が効率的なのに”と常に考えている。その為、ボケ~っとしてしまい考えている間は人の話が耳に届かなかったのだ。
長年溜め込んだストレスが龍徳の心を蝕む。
『イライラする時があったら走ると良いぞ!』
とはボクシングジムの真嶋の言葉。
日中走っている姿を見られただけで、何を言われるか分かったものじゃない。
今の時代は分からないが、当時の小学生は常に自分より劣った存在を見つけて自分の方が優れていると言い聞かせたいのだ。
誰からも馬鹿にされている龍徳が必死にマラソンをする姿など目撃されたら翌日には馬鹿にされる事は間違いない。
だから、夜中にこそっと起きては家を飛び出し海まで走る事が日課になっていった。
子供の頃の遊びの一つで団地のべレンダや雨よけを使って昇り降りをしていた。
これは、当時はやった“クレイジークレイマー”と言うビル登りのゲームの影響である。
今の時代で言えば命綱を付けないボルダリングを毎日行っている様なものだ。
5階建ての団地と言っても通気性を維持するために、1階まで1.5m程高くなっている為、15メートル程の高さを昇り降りしているのだ。
今思えば、恐ろしい事この上ない遊びを毎日握力が無くなり身の危険を感じるまで遊んでいたのだから信じられない。
なので当然の如く、家を出る時は、家族にバレない様にベランダから降りて行く。
神山家は父の昌男以外は早寝早起き。
深夜1時など誰も起きる訳がない。
実際、数年間にわたり一度もバレた事がなかった。
夜中の海は、色々な意味で怖い。
光が差さない夜は海に吸い込まれそうな気がした。
金曜日や土曜日だと暴走族が屯っている事も怖かった。
何度も走っている内にそう言った輩がいないルートが分かり常にその道を走る様になった。
今では、水泳の遠泳で3㎞を簡単に泳げる龍徳は、体力には自信がある。
そんな龍徳が肩で息をする程、全力疾走。
真嶋に言われたように全力で走ると嫌な事を思い出さなくて良かった。
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