筋肉は科学だ_その3
筋肉は科学です。ただダンベル上げるだけと思っているアナタにこそ読んでほしい筋肉ってなんだシリーズ。本日もやっていきましょう。
前回は筋トレに行くなら今しかない! という謎理論と、筋肉は収縮だけで、骨や関節と重要な関係があるんだよ、という話をしました。いくつかの収縮の紹介もしたので、今回はさらに踏み込んで、より筋トレになるような収縮の仕方と、筋肉がどのように力を発揮しているのかをご紹介したいと思います。
さて、前回書いた『筋肉の力は収縮のみの1方向』という内容ですが、確かにこれは正解なんですけど、実際には筋肉は縮んで伸びてという運動をしてますね。しかも、自らそう動くのではなく"そう動かざるを得ない"という状態に陥ることもあります。例えば『発揮できる力より重量が重い』とかですね。これ、実はとても大きなトレーニング効果を生み出しているんですよ。
筋肉の『収縮』には2パターンあります。すなわち、筋肉が本来の動きをしてくれる"短縮性収縮"。そして、伸ばされつつも筋肉は収縮しようと力を出している"伸張性収縮"です。
伸ばされつつも収縮している。それはいったいどういうことでしょうか?
筋肉は収縮することで力を発揮し、関節を曲げ様々な運動を行うことが出来ます。相手に1撃ぶちかましたり、重いダンベルを持ったり、バットをうまくあやつってボールにミートしたりと、その用途はたくさんありますね。で、こうやって縮んだ筋肉は前回紹介した『拮抗筋』の存在によって再度引き伸ばされ、元の状態に戻るわけです。筋肉には"伸びる"という機能はないわけですからね。
ですがちょっとまってください。なにも筋肉は『曲げる』だけが脳というわけじゃありません。もうひとつの重要な役割として『運動にブレーキをかける』という機能があります。例えば走っている最中に突然スピードを0にすることはできませんよね? 太ももで踏ん張って小股になり、数歩のスパンを得てやっと停止するわけです。
足の運動、特にジャンプなどは着地の瞬間に非常に強力な力がかかります。どのくらいの力かというと、ざっと体重の5~10倍ほど。一般的な成人男性なら少なくとも300kg以上の負荷が両足にかかるというわけです。
300kgの負荷を受けつつも、わたしたちはこれまでジャンプした時1度たりとも「あ、あ、あああしがあああああ!!!!!」なんて経験しませんでしたよね? それは、足がのしかかるパワーに対して『ブレーキをかけながら軟着陸』しているから。
この300kgの力に耐えるための筋肉の使い方こそ、伸張性収縮なのです。実は、この伸張性収縮時は『使われる筋繊維の数が減る』ということがわかっています――いやちょっとまってくれと、使われる筋繊維が少なくなるならジャンプからの着地で強い力を発揮できないだろ、わたしはその時思いました。しかし、伸張性収縮時は、逆に『1本1本の筋繊維が、曲げる時よりも強い力を発揮する』ということも書かれていました。
ダンベルカールを例にしましょう。ダンベルを持って腕をダラリと下げ手のひらを前方に、そのまま肘関節を動かないよう、その先だけを持ち上げるという運動です。文章で説明するよりも、ダンベルカールで動画検索したほうが速いでしょう。ちょっと見てください。で、実践してみてください。
持ち上げる時は『曲げる・収縮』ですから短縮性収縮です。逆に、ダンベルを元の位置に下ろす時は『伸びつつも力を発揮する・伸張』の状態なので伸張性収縮です。まさか、腕の力を一気に抜くわけにもいかないですよね。ケガの元なのでそういうことはやらないでください。
下ろす時、筋肉は"収縮しつつも、下ろすためにうまく力をセーブしている"状態にあります。これは中枢神経がコントロールし、「どうせ下ろすんなら使う筋肉間引いちゃって良いよね。あ、キミたちは必死に頑張ってな!」と筋肉に命令を出します。任された少ない筋肉は、おそらく文句を言いながらもしっかり仕事をこなしてくれるでしょう。間引く量が多すぎると筋肉は重量を支えきれずズドンと落としてしまう。この丁度良い塩梅を中枢神経が調節してくれるのですね。
足の筋肉は、常に体重を支えるという動作をしているので非常に屈強な筋肉を形成しています。脳が使う筋肉をうまく調整しブレーキをかけてくれることによって、人は300kg以上の負荷に耐えられるというわけです。バレーボールなど、常にジャンプ運動の必要性があるスポーツを嗜んでいる方々は、この知識を覚えておいて損はないと思います。ついでに言うと、この仕組みをうまく利用したトレーニングを行えば、さらに1歩進んだ筋肉を作ることも可能なのです。
伸張性収縮時は使う筋肉を間引き、少ない筋肉に非常に強い力を出させる、ということをこれまでに紹介しました。これはつまり『ブレーキの動きはより強い筋トレになる』ことを示唆しています。これを効率よく実現するためのトレーニングは非常にシンプル。ただ『下げる動作をゆっくりやる』だけです。腕立て伏せの場合、立てるまでを短縮性収縮、肘を曲げて身体を地面に近づけるまでを伸張性収縮で行います。ですから、肘をゆっくりと曲げていけば良い伸張性収縮ができるわけです。
プロの方の中には、これを利用して自分が本来持ち上げられる以上の負荷で筋トレする場合もあります。下ろす時、1本1本の筋肉が曲げる時より強い力を発揮するということは、例えばバーベル上げなんかは、自分の限界が100kgならとりあえず115kgのバーベルを用意して『上げる時はトレーナーに協力してもらい、下げる時は自力でゆっくり下げる』という無茶もできるってことです。まあプロがやるヤツなのでみなさんは真似しないでください。
ただし、このトレーニングには問題もつきまといます。これは言うなれば、みんなで重い荷物を運ぶ時に大体の人はサボって、残り数人だけで苦しみもがきながら限界を超えて持ち続けている状況です。いくらリミッターが外れているとはいえ、そんな無茶をさせればすぐに筋繊維的な限界がきてしまいます。いちおう、筋繊維が疲労すると神経が使う筋繊維をローテーションするんじゃないか? という研究がありますがまだハッキリとわかっていないので、このトレーニングはヤリすぎると筋肉に能力以上の力を発揮させ続けてしまい危険になると言えるでしょう。まだ疲れてないけど3セットやったから終わり、など『やめ時』をしっかり見極める必要がります。
まだジムに行ってない人も、これからジムに通おうと思っている人も、健康状態が気になり始めたアナタならとくに!! 筋トレというのは大きな意味をもちます。キツいのやだとか、めんどくさいなんてこと言わずに、アナタ自身の健康のため! 健やかな未来を信じてジムの扉を叩いてみませんか?
でもムキムキになるのが怖い? 安心してください、なれないから。




