健康長寿は適度なストレスから
不老長寿は人類の永遠の夢ではありますが、少なくとも近年の研究では限りなく『健康寿命=寿命』を達成できそうな材料が揃ってきました。本日は老化研究に関する著作から引用してお送りします。
『デビッド・A・シンクレア』という方が『マシュー・ラプラント』氏の力を借りて出版したすばらしい1冊があります。『LIFE SPAN 老いなき世界』という題名のこの本は、老化を研究する著者が2019年までにまとめた様々な成果をまとめ上げたもので、人びとがこれからの未来に向けて大きな進化を遂げるのではないかという可能性を思わせてくれます。本日はそんな珠玉の1冊に記されたなかで私が重要だと感じたものをピックアップし、簡潔にまとめて書いていこうと思います。
著者の『デビッド・A・シンクレア』氏は世界的に有名な生物学者です。現在、遺伝学の教授として教鞭をとり、ハーバード大学医学部の老化生物学センターにて老化に関する研究をしています。1969年にオーストラリアで誕生し、シドニーのニューサウスウェールズ大学にて理学博士を取得。また1995年に分子遺伝学の博士号を取得しています。後にアメリカに渡り本格的に老化研究をはじめ、ハーバード大学医学部にて『ポール・F・グレン老化の生物学的メカニズム研究所』の所長となります。後々の活躍はとても筆舌尽くしがたいほどのもので、これは現在彼が世界的に有名な科学者であり、起業家であり、2014年のタイム誌で行われた『世界で最も影響力のある100人』に選ばれたことを考慮して貰えれば察することができるでしょう。
彼の老化研究は、実に491ページにも及ぶ本文と、専門用語や関連人物の解説などを含めた98ページもの内容に集約されています。内容もまた濃いものですが、そのなかでも私がとくに重要だと感じたことをいくつか紹介しましょう。
まず人間が老化する原因というのは『様々な要因の複合』とされています。例えば『DNAの損傷』、これは遺伝子情報を転写するメッセンジャーRNAがうまくコピーできなくなるのだと思われます。ゲノムが不安定になることは様々な問題にも影響しそうですね。『テロメアが短くなる』、遺伝子のコピ-を繰り返すとその端っこがどんどん短くなっていきます。やがてすべてなくなった場合、DNAは転写をやめてしまいます。『老化細胞の増加』、細胞は分裂できる回数が決まっていると言われます。細胞が増殖できなくなると老化細胞と呼ばれるようになるのですが、実はその後も死ぬことなく代謝活性を続けることがわかっています。この状態のままだと炎症性の物質を周囲に撒き散らしさらに被害を拡大させることになります。ほかにも『タンパク質の働きが悪くなる』であったり『ミトコンドリアの機能が衰える』、『幹細胞が使いつくされる』など様々な要因がありますが、そのなかで老化研究の第一人者が目をつけたのは、遺伝子の『スイッチ』を切り替える役目をもつ『エピゲノム』の存在でした。
DNAというのは、いわば身体を作るための『地図』です。そこには絶対的に普遍の地図が描かれているので『デジタル情報』と捉えても良いかも知れません。普段これらをコピーするわけですから、当然のことながら地図が原因でコピーミスが起きるなんてことはありえないでしょう。もちろん、DNAも強力な放射線などで日々損傷を受けていますが、それでも絶対的な地図であることにはかわらないのです。
しかし、それらをコピーするために働く物質は違います。これらは、どのような状態のときにどうコピーするか? という課題に対してDNAのようなハッキリとした形を持ちません。例えば、DNAの情報をコピーするメッセンジャーRNAは、DNAの巻き付きが『緩んだ』スキに転写行為を行います。この『緩み』を生み出すための明確な条件は確かにあります。しかしそれはある物質がある物質を除去した時のみある遺伝子をコピーできる、のように条件を揃えるための段階がいくつもあり、いろいろな操作や条件があることから『アナログ』的とも言えます。
エピゲノムは、この『アナログ』を調節するための存在です。そして、これらの働きが不十分になることは、先程説明した老化の原因として考えられる要因のそれらの『さらに上部』にある原因なのです。
エピゲノムは『どのDNA情報をコピーするか』という選択に関係します。この考え方は、人間が人間になるために、サルがサルになるために、犬が、鳥が、そのほか多くの生物がその形になるために必要なことです。生物の細胞のひとつひとつには、その身体『すべて』のデータが入っています。指先にだって足を作る遺伝子がありますし、適当な皮膚片にさえ、たとえば頭蓋骨や内臓を形作る情報が詰め込まれています。もしこれらを『素直に受け取り作り出そうとした場合』どうなると思いますか? ――指先にある足を作る遺伝子がコピーされ、指先から足が生まれることになるでしょう。皮膚片から頭蓋骨や様々な内臓が生まれるかもしれません。そんなのイヤですよね? エピゲノムには、こういったことが怒らないよう『どのDNA情報をコピーするか』といった機能が備わっているのです。
エピゲノムの損傷は、いわば『DVDの表面についたキズ』と考えてくれれば良いでしょう。DNAに当たるのは、DVDの奥に埋め込まれている情報であり、表面にキズがついたからといってこの『DNA情報』自体は決して損傷はしてません。しかし、これを実際に機械に入れてみたらどうなるのか? レーザー光線は表面のちょっとしたキズに乱反射を起こし、内部のデータを読み込みにくくなる。結果として、読み取った情報が『ほんの少しだけ』おかしくなり、例えば音楽が飛び飛びになってしまったり、映像が乱れてしまったりする。ちょっとした楽しみで聞いていた音楽が飛び飛びだったときは「あーマジかよ」といった気持ちになるかもしれないし。映像が乱れていても気にしない人はいるかもしれない。
では、この現象が自分の身体で起こっているとしたら? ちょっとした『ミス』が身体の中で起こってしまったら? ――それこそが『老化』のそもそもの正体だと著者は言います。
ではこのようなことにならないためにはいったいどうしたら良いのでしょうか? それに対しては『サーチュイン』、『NAD(ニコチンアミド,アデニン,ジヌクレオチド)』といったキーワードや『メトホルミン』、『ラパマイシン』などという植物由来の分子の紹介もしたいところですが、今回は簡潔にまとめたいところですので、ひとまずは『わたしたちがすぐできる身近なことは?』といったスタンスで書いてみましょう。
ひとつは『食生活の改善』です。言うまでもなく悪いモノは食べたらダメだというのはわかるかと思いますが、実は『長寿』を目的とするのであれば、そもそも『お肉』自体の摂取を控えるよう進言されています。牛、豚などはもちろん、キントレスキーさん御用達の鶏肉、健康食として名高い魚までも控えるよう著書では述べられています。ではいったい何を食べればよいのか? ――野菜です。健康的長寿という意味合いにおいては、ベジタリアンさん方はわりといい線いってたのかもしれません。それと玄米などの『全粒穀物』なども良いとされています。
それと大切なことがもうひとつ。決してお腹いっぱい食べないでください。常に『ヤバくならない程度の軽い飢餓』状態でいると、体内の『生き残りスイッチ』がオンになり、体内にある役に立たないタンパク質を分解して再利用しようとする『オートファジー』という状態になります。そうすると、要は体内の余計なゴミを掃除してくれるわけですから、結果的には環境がよくなるわけです。食に関する注意点はだいたいこのような感じでしょう。
ふたつめは『運動』です。運動のすばらしさについては、たとえば『ジョン・レイティ』氏著作の『脳を鍛えるには運動しか無い!』という本を読んで頂くとイヤというほど分かると思いますが、運動は長寿に関してもとても良いものだということが判明しています。健康という観点から見ても、運動は血液の循環をスムーズにさせ、心肺機能を鍛え、健康な身体を作る元になってくれます。それだけじゃなく、運動は細胞単位にまで働きかけて若返りの効果まで与えてくれるという。これはもうやるっきゃないね!
運動と食事。これに気をつけるのは健康に良いとされてきましたが、寿命的にもすばらしい効果を生み出すことが判明しました。しかし、健康寿命の観点から言えばさらにもうひとつテクニックが存在します。
『寒さ』に耐えることが苦手だという方はいらっしゃいますか? もし、寒さに耐えることに自信があるというのであれば、これからの寒空に肌身をさらしてみてください。人間を含める恒温動物には、余分なエネルギーを使わず体温を保てる環境温度の範囲である『熱的中性圏』というものをそれぞれもっています。これをひとたび外れると、たとえば呼吸のペースが変化したり、血流が変化したりします。さらに寒さにさらされ腕が震えたりするタイミングこそチャンスです。難しいことは省きますが、寒さに耐えているまさにこの瞬間、体内のミトコンドリアがエネルギーを生産できずそのまま熱を生み出すとう働きをするのです。この効果が身体のサバイバル回路となり、アナタの健康寿命を伸ばしてくれるでしょう。
暑さにおいても同じです。著書ではサウナに週7日入っている人は週1日の人よりも健康的で長生きだという調査結果が出ています。今まで書いてきた全てのテクニックに言えることですが、健康寿命を伸ばすためには『ほどよいストレス』というものがカギとなってきます。このストレスというのは人間関係がアレだコレだというわけじゃなくて、運動することで生まれる身体への負担とか、暑さ寒さにさらされる身体への負担という意味です。毒にならないような適度なストレスを、業界用語では『ホルミシス』なんて呼ばれていますが、常に満足している身体はだらけてしまって機能不全に陥ってしまうのですねぇ。
さて、どうでしょうか? これならできそうと思ったテクニックはありますか? それとも、600ページ近くの大ボリュームである『LIFE SPAN 老いなき世界』に興味をもっていただけましたか? そんなアナタはすぐにでも書店に走り出しましょう。人気の本ですからたぶんメインの棚に置いてあるはずですよ。
みなさんの健康と長寿を祈って、本日はこのへんでありがとうございました。
そりゃあだれだってウルヴァリンになりたいでしょ。カッコイイし。しかしマグニート、てめーは近づくんじゃねえ。




