野球のルール アピールプレイ編
せんせー! ○○くんがちゃんとやってくれませーん!! ――野球にもあります。ちょっとだんスィー
野球というスポーツにおいて、審判員は強烈な権力をもちます。まあ、試合を円滑に進める義務を負い、競技場の判断をし、試合前の準備を一任され、両者に対して決して贔屓することなく公平に扱うよう徹底的に訓練された、試合の全てを取り仕切る立場の人たちであるので納得できる部分もありますが、しかしそれでも納得できなかったり堪えきれない思いというのはあるかと思います。
しかし、抗議は許されません。たとえ誰であってもです。選手はもちろん監督でさえ抗議する權利はなく、プロフェッショナルリーグであれば試合後にそれ用の書類を作成し提出するのみが許される行為です。なので試合中に抗議の姿勢を見せたり文句を言う選手がいようものなら即刻退場を食らっても仕方ないことなのだということを肝に銘じておきましょう。以前にも書きましたが、必要であれば審判はチームに説明をします。主に監督が出向いて説明を受け、その説明にルール上誤りがあれば監督は『それを指摘して訂正させる權利』を持ちます。つまり『ルールこそ全て』です。ただ審判のジャッジは最終的なものという言葉もルールにはあります。ですから『審判がアウトと言ったらアウト。しかしルール上セーフならば監督はそれを進言し訂正させる』という流れになります。ただし審判が『私にはそう見えた。私がルールだ』と言えばもう監督も引き下がるしかないでしょうね。
しかし、安心してください。ちゃんと選手たちにも審判へモノを言う權利が残されています。それはルールで保証されているので、せっかく数少ない機会を与えられた手前、このチャンスにどんどん審判にアピールしちゃってください。
ということで、本日は選手らに与えられた『アピールの權利』について書いていきましょう。
野球において守備の『アピール』ができる(あるいは、しなければならない)プレーはいくつかあります。主に走者が関係するものですが、ひとつに『リタッチ』の義務違反があります。リタッチとはフライをノーバウンドで捕球された際に、元の塁に戻らなければならないルールですね。おそらく、だいたいの人が『フォースの状態の逆バージョン』みたいなイメージでいるかもしれませんが、ルール的処理としてはまったくの別モノです。リタッチ義務違反をアウトにするために守備が送球する様は、それ自体が『違反をアピールしている』と見なされています。じゃなきゃ守備側だって必死に投げないですからね。
次に『ベースの空過』が上げられるでしょう。ベースを踏み忘れたことをアピールしてアウトにしたい場合は、まず空過したベースにボールを持って触れ、対象のランナーが誰だったかを指摘します。認められればそのランナーのアウトが決まり、得点していた場合はそれが無効になります。攻撃側のランナーは、ホームベースに到達しても、ベンチに戻る(走塁放棄と見なされる)前にホームに戻り、また空過したベースまで3、2、1塁と戻ることで有効となります。しかし空過したランナーの後ろにいたランナーがホームに到達した瞬間そのチャンスがなくなってしまうのでご注意ください。もうひとつ注意があって、『タイム中』にふたつ塁を進めた場合、ひとつめの塁を空過した後も踏み直すことはできません。守備側にその現場を見られたら死亡確定ですので重ねてご注意ください。例えばホームランで4つの安全進塁権を与えられた場合ですね。このときに2塁ベースを空過して3塁ベースに到達したらもう踏み直すことはできません。ホームベースを空過した場合も同じことですが、ちゃんと『だれ』が空過しなかったかを覚えておきましょう。審判に伝えるとすれば、たとえば「あの、セカンドランナーだったあの人が……」的なニュアンスでいいと思います。
続いてのアピールプレイは『1塁のオーバーラン・オーバースライド』に対する処理です。いわゆる駆け抜けと呼ばれるプレイですが、これは『すぐ1塁に戻る・セカンドに進塁する意志を見せない』のふたつの条件を満たす必要があります。もし悪送球に反応してヒザを折ったものならすかさず守備側はランナーにタッチしてアピールしましょう。すぐ戻らずぐずぐずしていた場合も、試しにタッチしてアピールしてみてください。もしかすると審判が「アウト」を宣言してくれるかもしれません。攻撃側の注意としては、駆け抜けはラインの内側外側どちらでも良いです。ただヒザを折る程度でも進塁の意志を見せた、と見なされる危険があるため、悪送球に対するリアクションは最低限にしてください。ちなみにこの時サードにランナーがいて生還していた時、たとえ打者走者が1塁を空過していたとしても『1塁へ到達したとみなされる』とあります。つまり『1点は有効』ということです。まあ、両者痛み分け、みたいな感じですね。
アピールするタイミングは基本的に『次のプレイをする前』です。ベースを空過したランナーは、そのプレイが終わったあとに投手が投手板に触れ投球できる姿勢を作ったときにチャンスを失います。ただ守備側もそのまま投手に投球されるとアピールのチャンスを失ってしまいますので、きちんとルールを理解してプレイしましょう。アピールしたい事があるならば、ひとまずそれまでのプレーを断ち切って投手にボールを返します。その後、ボールデッドである場合は球審が『プレイ』をかけますので、そのタイミングでアピールのためのプレイを行ってください。プロでもグダグダになるヤツなのでどうか慎重に……。
ここでひとつ、ルールブックにもあった問題をシンプルな形にして出題してみましょう。例えば『1アウト。ランナー1塁』。バッターが大飛球を放ち、走者は抜けると確信してゴーサイン。しかし守備が好捕。リタッチの義務が生じました。このとき走者はすでに3塁手前まで走っており、ランナーコーチの戻れのサインで戻ることにしました。しかし送球はすでに内野まで達しており、走者はセカンドに滑り込むも守備側のほうが早くセカンドベースにタッチしました。
アウトでしょうか?
――答えはアウトではありません。リタッチの義務とはあくまでも『元の塁に戻る』義務です。セカンドはただの通過点でしかなく、ランナーは2塁を経由して1塁へ戻る必要があるだけで、べつに2塁ベースでの鬼ごっこの必要はありません。守備側は『元の塁に戻ってないよ!』というアピールをするために、ランナーが元々いた1塁へ送球するか、ランナーに直接タッチする必要があります。
もし、この時ランナーが『急いで戻りたいから2塁ベースは無視して1塁へ戻った』なんてことがあったら、守備側は『リタッチの義務を果たさなかった1塁へのタッチ』、『セカンドベースを空過した2塁へのタッチ』、『走者への直接タッチ』と色とりどりでよりどりみどりな選択肢が待ち受けています。舌なめずりして選んでくださいな。
今回は選手に残された物申す(まあ審判に対してじゃないけど)權利をご紹介しました。まあルールブックの盲点なんて言われ方がありますけど、当時はいざ知らず現在は盲点でもなんでもなくふつうにルールに則った記述として存在します。ルールは年々進化していき、新しい時代にもマッチしていきます。もしかしたら、近い将来これらのアピールプレイも刷新されて「え、こんなことまでアピールできちゃうの!?」みたいな野球が誕生するかもしれませんねぇ。
クリスマスはぼっちでした(なんのアピールだよ)!!