"速さ"に関する音楽記号
ながーい音楽の歴史のなかで、世の音楽家はたくさんの記号を開発し、後の時代音楽の道で食って行こうとする人々を混乱の渦に陥れるのでした。
ひとことに『楽譜』といっても、日本なら日本の、世界に目を向ければ様々な『楽譜』が存在します。ただね、みなさんが楽譜と耳にしてイメージするのは、五線を引いてオタマジャクシを並べるあの楽譜だと思います。っということで、今回はその楽譜に関するあれこれをご紹介しましょう。
詳しくは以前までに書いた『つれづれグサッ』の中にあると思うのですが、その前にかるーく歴史をおさらいしましょう。楽譜が現在の形に至るまでけっこうな紆余曲折がありましたのでね。
世界最古の楽譜は紀元前1400年ごろのものとされています。生産、果樹に関する神様へのうたとされてますが――調べてみたら動画があったわ↓↓
YouTubeチャンネル、アウェイドン 3D:投稿動画より
ttps://youtu.be/SClBWi8bwjw
例によって先頭に『h』の文字をよろしく。で、紀元前6世紀ごろの古代ギリシャでは、もう現代っぽい楽譜はできてたんです。ただ、その後ヨーロッパ中でドッタンバッタン大騒ぎがありまして、その間に『音楽を楽譜に残す』という文化が廃れてっちゃったのね。昔の音楽は口伝的なアレだったのです。
それが、9世紀ごろになってローマ帝国が「キリスト教を公認の宗教にしたぞ! さて、キリスト教の偉大さを広めるためにはどうすればいいか――せや! だれでも歌えるうたを作ればええやん!」
的な感じで『ネウマ譜』なるものが作られます。ローマ教皇が定めた通りに唄う必要がある『グレゴリオ聖歌』は、最古級の楽譜付き音楽なわけですね。ってことで、西洋の音楽は宗教と当時の王族貴族がつよーく影響しています。音楽家は彼らのよって雇われ作曲したり、演奏したりしてたからね。そっから紙やら印刷技術やらが進化したおかげで、楽譜に様々な『書き方』が可能になり、現在に似たイロイロな音符、休符などが誕生することになります。印刷技術が確立した15世紀、その後様々な音楽家が群雄割拠した、クラシックでオーケストラな時代。あれやこれやの楽曲が発表されるにつれ、楽譜の原型はおおよそ完成したと言って良いでしょう。
しかーし、西洋楽譜はここからが本番です。19世紀にはいって『著作権』という概念が登場しました。これまで作曲家が生み出した曲はそのパトロン――つまり、王族貴族たちの所有物ということになっていたのですが、著作権で『作曲者のものだよ』という保証がついたことで、作曲家が『単なる"メモ書き"ではなく"してほしい演奏法"を指示したい!』と思うようになりました。
だって自分の曲なんだもん。
ってことで、作曲家はより自分の思い通りの曲を求め、様々な注釈や記号を開発していきました。その結果、同じような意味でもしっかりテンポが定められていたり、演奏者の主観に委ねられたりとまあワケワカメな状態になっていったんです。わたしは演奏家ではありませんが、きっと演奏家はそう思ってるよ、たぶん、おそらく、きっと。
楽譜は基本的に『左 → 右』へ演奏します。これはさすがに変えられません。が、世の作曲家はそれに対し様々な注文をつけるようになりました。
・奏法
・速度
・強弱
・発想 etc...
ぜんぶ紹介すると頭がフットーしそーになるので、今回は『速度』に関する話をしていきましょう。
演奏速度を変化させる。言ってみりゃシンプルな注文ですが、最も基本的な速度記号は『メトロノーム記号』ですね。以下のような表記が、曲の先頭に記されています。
音符=90 or M.M.=90
基本的に、音符部分は『4分音符』で表記されています。そうすっと『1分間に4分音符を90回打つ速度だよ』という指定が可能になります。ドラムとか打楽器とか、テンポを任される演奏家さんは、メトロノームを常にカチカチ鳴らし、それに合わせて叩き続けるという苦行を毎日こなしているはずです。
M.M.ってのは『メルツェルのメトロノームで~』っていう意味ですが、メトロノームを開発したのがドイツ人の『ヨハン・ネポムク・メルツェル[Johann Nepomuk Maelzel]』なので、この記号は言うなれば「メルツェルのメトロノームじゃなきゃイヤなんだからね!」っていうデレ記号なのかもしれない。
で、この他にも様々な速度記号があるんだけど、個人的に「メトロノーム記号だけでよくね?」と思うのだがそうはいかないのが音楽家のみなさん。わたしの手元にある『齋藤純一郎』氏監修『早引き 音楽記号・用語辞典』には30種類以上の記号が紹介されてます。曰く「メトロノームは"指揮者"に成り得ない」とのこと。なので、これらはあくまで『記号』として認識し、演奏の際は指揮者か、そうでなければ自らの感性のもと演奏したほうが良さそうですね。
細かく紹介するのは良しといて、まずは速度記号を列挙してみましょう。下ほど速くなるイメージです。記号にイタリア語表記が多いのは、クラシック音楽と呼ばれる17~19世紀にかけてイタリアの音楽や作曲家が大活躍してたからです。個人的にはオーストリアはどうなんだと思うけど、まあそういうことで受け止めてください。
・Lentissimo
・Largissimo
・Adagissimo
――メチャ遅いの壁――
・Lento
・Largo
・Adagio
――遅いの壁――
・Larghetto
・Adagietto
・Andante
・Andantino
――ちょい遅の壁――
・Moderato 『中くらいの速さ』
――ちょい速の壁――
・Allegretto
――速いの壁――
・Allegro
・Vivace
・Presto
――メチャ速いの壁――
・Allegrissimo
・Vivacissimo
・Prestissimo
遅いとか速いってどのくらいのテンポなの? ――それは『アナタ次第』です。これらは曲の『全体的な速さ』として、メトロノーム記号と同じように曲の先頭に付きます。上記の『~issimo』ほか『molto 〇〇』や『assai 〇〇』という記号がありますが、これは日本語で『極めて』的な意味で、記号としては言葉通りの解釈をしてください。極めて速く、極めて遅く、です。
ほか、曲中にテンポを変化させる記号もあります。
:rallentando:
『だんだん遅く(ゆるやかに)』という意味です。たとえば曲の最後をしずーかに締めたい、そんな時は重宝しますね。有名なのは『ショパン:ノクターン op.9-2』だそうです。楽譜上では簡略化のため『rall.』と表記されます。
:stringendo:
『だんだん速く』という意味ですが、この記号を指定された場合、作曲家から「切羽詰まった感じでよろしく」と注文を受けた感じになります。なので、実際の演奏では緊張感を出すため『速く + 強く』的なニュアンスで演奏されます。『モンティ:チャールダーシュ』のラストが良い例とされています。実際聴いてみると「あ、急いでるわ」って感じになります。
:tempo ad libitum:
もしくは『tempo a piacere』。どちらも『自由な速度で』という意味です。よく『アドリブ』というワードが使われてますが、アドリブはこの記号の『ad lib』が語源になっているのですね。っていうかad libitum自体が『自由に演奏しとけ』的な意味になります。即興でアドリブを効かせるのは難しいので上級者向けの記号とも言えます。つまり、作曲者は「自由に演奏していいよ(ニッコリ」と優しい笑顔を向けといて、その実ムチャ振りしてるんですね。
ここまで『速度』に関する記号を紹介してきました。プロの演奏家たちは、楽譜に記された指示を守り、指揮者と呼吸を合わせ、自らの感性で楽器を操るという超絶技巧をなさっております。そんなバケモノ(褒め言葉)たちが集まったオーケストラだもの、そりゃあもうアレよ(語彙力)。ぜひとも、一度はプロの演奏を鑑賞しにコンサートへ足を運んでみてください。アナタの耳、きっと幸せになりますよ?
アナタのミュージックライフに幸多からんことを。
スピーカー越しでは得られない感動、あると思います。




