筋肉が成長する仕組み
フィットネス、フィジーク、ボディビル――理想とする筋肉の形は違えど、すべてのトレーニーはこの仕組みを理解しているのです。
世の中には、筋肉を魅せるためだけに鍛えている方がいらっしゃいます。趣味、仕事、いかなる理由であれ、彼らは日々筋肉のために努力しています。そんな人を見て、あなたはどのような想像をするでしょう。
毎日ジムに通いつめ、重いダンベルを鼻息荒く持ち上げる様。
毎日暴飲暴食、食えるだけ食って、それらすべてを筋肉に集中させる。
もう日常すべて筋肉。
まあ、そのようなイメージをお持ちでしょう。しかし待ってください。そんなイメージのままでは、アナタはトレーニーを勘違いしたまま日常生活を送ることになってしまいます。そんな不幸なことはありませんよね?
想像できないかもしれませんが、よく鍛えられた筋肉ほど、きちんと『休み』をとってるんです。食事だって暴飲暴食なんてことはせず、むしろ1度の食事量は少なかったりします。それもこれもすべて『筋肉の成長』のため。きちんと休み食事量を調節しないと、筋肉ってば成長してくれないんですよ。
ウソだと思いますか? ――っということで、今回は筋肉の成長に関するお話をしていきましょう。
筋肉がでっかく成長することを『筋肥大』といいます。近年、筋肥大に関する研究が進んでおりまして、筋肥大のメカニズムに関しては2つのことが確認されています。
① 筋繊維再生
② たんぱく質代謝
『①』に関して、これは『筋繊維が壊れた、傷ついた時に再生する仕組み』です。筋トレってのは筋肉を酷使し疲労させる行為でありまして、それによって損傷を受けた筋繊維を修復する作用が高まり、よって筋肥大を促すことができるのです。
『②』に関して、これは『筋繊維の中で、たんぱく質が合成や分解をする仕組み』です。筋繊維をより細かく見ていくと、そこには『アクチン・ミオシン』という、糸のような細長いたんぱく質があります。こいつらを収縮させるために別のたんぱく質が必要なのですが、筋トレをすることでそれらの量を増やすことができます。
いずれにしても、筋トレは筋肥大に欠かせない要素なのですね。あ、ちなみに「筋収縮に関わるたんぱく質についても教えて!」っていう方、これ以上深掘りすると情報過多になっちゃうので申し訳ないが『筋収縮 トロポニン』あたりでググってみてください。もしくは『筋収縮 調節タンパク』とかでもいいんじゃないかな。
で、ここからが重要な話。筋肥大のメカニズムとしては上記の通りなんですが、だからといって「よっしゃ! 今日から毎日筋トレすんべ!」とか息巻いちゃった場合、筋肉によろしくない影響が生まれてしまいます。
前提として、筋肥大には『休息』が必要になります。以前、オーバートレーニングというワードが筋肉界隈で流行しましたが、結論を言えば『オーバートレーニングはダメ』です。これを書くと「有名YouTberの〇〇はオーバートレーニングしまくってもムキムキだけど?」という反論がありそうですね。っということで、よりわかりやすい結論を書きましょう。
・アナタの"身体"にとってのオーバートレーニングはダメ
人ってのは十人十色なんです。それぞれが異なる遺伝子をもってますし、指紋は刑事事件の証拠になるレベルで千差万別です。身長体重、アレルギー、その他モロモロあわせて、まったく同じ人ってのは存在しません。遺伝子が同じ一卵性双生児であっても、環境や人間関係の違いでどんどん性格が変わっていきますよね?
それと同じく、どのくらいでオーバートレーニングになるのか? も人により異なります。なので、有名YouTberのあの方は、オーバートレーニングであってオーバートレーニングでないのです。あのレベルの人や遺伝子をもつ人は希少だと思うので、決して「ワイもあのくらいになってやるぜ!」とか無謀なチャレンジしないようにね。初心者の方はまずジムに行って、トレーナーさんに教わりつつプレイしてください。
ムリしすぎてオーバートレーニングになると、筋肉は合成より分解のほうが上回ってしまい、身体の調子を落とすことにも繋がります。筋トレしないと不安になってムリ! っという方は、一週間の中で総負荷量を決めて、部位ごとにトレーニングすると良いでしょう。
総負荷量ってのは『回数×セット数×重量』で表せる数のことですね。80キロのバーベル挙げを10回3セットの総負荷量は2400。ある研究では、週3でも週6でも、一週間ごとの総負荷量を同じにすれば、筋肥大効果も同じになるという結果が出ています。ってことで、週2~3回しかジムに行けなくても、総負荷量に着目すれば(少なくとも筋肥大に関しては)筋トレの意味はあるということになります。通える回数が少なくとも、そこは理論でカバーですよトレーニーさん!
筋トレをすれば筋繊維の修復が促進され、たんぱく質の合成も促される。イイことずくめなのですが、筋トレ以外にもなんか方法はないでしょうか?
さきほど、筋トレするとたんぱく質合成が高まると書きましたが、これは「タンパク質合成を促進するぜ!」というスイッチを入れてくれるからです。で、そのスイッチを入れるカギになるのは『mTOR』という物質。ちょっと閑話にはいりますよ。
mTOR。マンマリアン・ターゲット・オブ・ラパマイシン。日本語意訳すると『哺乳類の細胞にある、ラパマイシンによって発現させられにくくなるたんぱく質』って感じでしょうか。つまり、ラパマイシンが諸悪の根源です。まあラパマイシン自体は長寿に関連するとされるのですが、それは別のお話ということでわんわん。
ラパマイシンによって発現しにくくなる『mTOR』は、筋トレによって発現しやすくなるたんぱく質でもあります。ちょっと深掘りすると、筋トレするとmTORがリン酸化されるんです。たんぱく質にリン酸がくっつくと活性化され、周囲の化学反応も誘発してくれます。で、mTORが活性化するとたんぱく質の合成というか、DNAがメキメキと働いてくれるようになるので、最近の科学者は「筋トレとmTORの関連性がカギじゃね?」という思想のもと、様々な研究を行うようになりました――これはつまりこういうことです。
mTORをリン酸化させる方法がわかれば、筋トレしなくても筋肥大できるんじゃね?
冗談です、少なくとも現代科学の世界では。ですが、もしかしたら近い未来、筋トレせずとも筋肥大できちゃう素晴らしい機器が開発されるかもしれません。とはいえ、現状やはり筋トレが最も効率よく筋肉を成長させる手段になります。ひとつ、筋トレ界隈じゃ知らぬ人はいない『石井直方』氏の研究室が行った実験を紹介しましょう。
ネズミの動物実験です。エキセントリック・トレーニングという『イスにゆっくり座る・荷物をゆっくり下ろす』的な動作を行わせ、その時の状態を観察しました。すると、ネズミのmTORのリン酸化が向上し、たんぱく質の合成が高まったことが確認できました。
逆に、ネズミが力を入れている時、こちらからギュっと過剰に引っ張ると、逆にリン酸化が下降し、たんぱく質の分解が進んでしまう結果がでたのです。おなじエキセントリック運動でも、ゆっくりやるか、一気にやるかでここまで差が出てしまうんですね。難しい話はよして、結論だけ書きましょうか。
・エキセントリック動作はスロートレーニングでやろう
スクワットなどの場合、ゆっくりしゃがんて一気にジャンプ! 的な動作が良いかもしれませんんね。日常動作では、たとえば『階段を降りる』時の動作をゆっくりにしてみると良いでしょう。懸垂ができないという方も、ジャンプでトップの位置に持っていき、降りるときはゆっくり行うと効果が高そうです。
筋トレは科学です。ただただ根性だ気合だつってダンベル挙げるだけってのはもったいない。筋肉を成長させたいなら、筋肥大させたいならうまく理論を交え、より効率的に成長させていきましょう。
アナタの筋トレライフに幸多からんことを。
自重でも充分いけますよ。




