脳は成長し続ける
「人は考える葦である」 ンッン~ 名言だな これは
脳細胞が増えることはない。以前まで常識だったこれは、今やもはや時代遅れの概念となりつつあります。運動により分泌される『脳由来神経栄養因子(BDNF)』が海馬にてニューロン新生を促してることが発見されましたし、ニューロンやグリア細胞の元となる幹細胞を移植することで、新たにニューロンが生み出されることもわかっています。山中伸弥教授がつくり出した『ips細胞』なども再生医療の現場で着目されていますね。
脳は変化し続けられる器官なのです。今回は、そんな脳みその"一生"、気になりませんか?
:生まれる前:
胎児時期において、脳はかなり早い段階で形成されます。おおよそ妊娠2~3ヶ月程度でニューロン組織が作られはじめ、頭部と胴体がハッキリわかるようになります。心音も確認できちゃうんですよ? それから身体の各部位が作られていき、人間の形になっていきます。
5~6ヶ月ほどになると、脳が脳としての形を作っていきます。脳にシワができ前頭葉などの部位がハッキリ見え始め、脳を保護する髪の毛も生まれます。ニューロンの軸索などがあちこちに伸びていき、脳内ネットワークがぎゅんぎゅん開発されていく段階ですね。
7~8ヶ月にもなればついに脳波まで出てきます。すでに聴力など、刺激を脳に伝える機能が出来上がってます。おそらく妊娠中のお母さんは、この時期からお医者さんに「お子さんに"声"を聞かせてあげてください」なんて言うかもしれません。運動機能の発達でイロイロ動き回るのもこの時期からですね。
おおよそ脳としての機能が完成し、なんとお腹の中の赤ちゃんは睡眠もできるようになります。ここまできたら、あとは生まれるまでのカウントダウンを待つだけですね。お母さんファイト!
:新生児:
オギャーと生まれた赤ちゃん。この時すでに、神経細胞の数は大人と遜色ないレベルに達しています。構造レベルでは、すでに大人と同レベルの脳を所持しているのです。
ですが、赤ちゃんはまだ何も学習していない純真無垢な状態――ここからが脳みそちゃんの真骨頂なのです。
この状態の脳、言うなれば『空き部屋がたくさんある巨大建造物』です。生まれた赤ちゃんは『五感』を通し世界と対面し、様々な情報をインプットしていきます。この時起こるのが、急激なシナプス形成からのネットワーク構築です。脳が急激に重くなるのはこのネットワークが伸びていくからです。
脳細胞の数は千数百億あります。それらが互いに結びついてルートをつくり、ルートに応じた知識を学習。脳という巨大建造物に、たくさんの廊下や階段、道をつくり、空き部屋の中にたくさんの情報を放り込んでいくのです。生まれてから8ヶ月目までの間、脳はひたすらシナプスを形成し、空き部屋にどんどん情報を突っ込みます。なので、赤ん坊を寝かせてあげてる間にも、たとえばオモチャを天井から吊るして観察させたり、音楽などを聞かせて脳に刺激を与えていきましょう。
シナプス形成は急激に進んでいきますが、8ヶ月をピークにこんどは『シナプスの刈り込み』が行われていきます。いわば、使わないシナプスをどんどん除去して整理するわけですね。
シナプス生成と刈り込みは3歳前後をピークに、刈り込みは10歳程度まで続きます。で、この3歳くらいまでを感受性期なんて呼んだりしまして、学習能力が非常に高い時期とされていますね。たとえば、鳥のヒナが卵から孵った時はじめて見た対象を「ママ!」と認定するアレも、この感受性期に関わってきます。いわゆる『ローレンツ刷り込み』ですが、この場合は生誕後24時間の間、刷り込み機能(感受性期)が継続し、それ移行は刷り込み機能が働かなくなります。つまり、刷り込みにかかわる学習能力が刈り取られていくのです。
人間の場合、ここで学習した経験が後々の脳機能に関わるとされています。生まれて数ヶ月の間、赤ちゃんの脳は五感、運動機能など、ある能力を獲得するための『感受性』が増しており、良い刺激を与えれば与えるほど学習していってくれます。だからこそ、一時期子どもの頃からそろばんやピアノを習わせることが流行ったんですね。
赤ちゃんのうちからたくさんの経験――つまり、イロイロなモノを見たり、聞いたり、触れたり、身体を動かしたりして脳に刺激を与え、それらに関する情報を学習していくことで、それらに関する機能が発達していきます。赤ちゃんのころから動物園に向かわせたりして何の意味があるんだ? と思われガチですが、赤ちゃんは覚えてなくても、その経験をしっかり脳にインプットしています。この時期は、記憶ではなく脳の土台を完成させる時期だと思ってください。
:成人まで:
感受性期が過ぎ、神経ネットワークの完成に至る時期です。シナプスの刈り込みは継続されますが、それでもネットワークは構築され続けます。わたしたちは学校で新しい知識を学び、運動し、家族や友だちと会話し、テレビやインターネットなどを活用し、本当に様々な知識を取り入れていきます。
ここで重要なのが『睡眠』です。睡眠時、脳は『デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)』に入り、学習した知識を脳にインプットしてくれます。これは人生を通して継続する情報処理ですが、子ども時代はより柔軟な可塑性があるぶん効率が良さそうですね。
子どもは大人と比べ、睡眠時間が長い傾向にあります。あ、決して毎日お勉強するから、知識のインプットのために脳が睡眠を欲してるとかそういうワケじゃないのでご注意ください。人間がそういう生き物だってだけです。ただまあ、きちんと睡眠時間を確保できれば脳にも良いので、テストで良い成績を残したいのなら、しっかりと寝るのが大事だよね。
脳が大きく変化しつつも、成人(ある種の"完成"と言い換えて良い)へ至る時期でもあります。つまり、今まで取り入れた知識を活用する時期です。急激なシナプス形成による『何でも暗記学習できちゃう期』は過ぎ去ったので、あとは能動的な学習、理論的に考え納得するための学習が必要になってきます。
脳の土台を形成する新生児期に対し、成人に至るまでの時期は土台に水を満たす時期って感じですかね。
:成人以降:
脳のネットワーク形成は完了しましたが、脳には可塑性があるためまだまだ新たな知識を学習したり、物事の捕らえ方を刷新したり、性格を変えたりすることが可能です。基本的な学習は成人までの項目で書いた通りですが、大人は様々な経験からすばやく問題解決へ導く『結晶性知能』が鋭くなっていきます。いわゆる『おばあちゃんの知恵袋』ってヤツですよ。
新たな学習をしたい場合、基本は成人までで解説したことと同じです。たっぷり運動し、新たな知識を取り入れ、そしてゆっくり眠る。イロイロな知識を自己流でカスタマイズすることは、いわゆる『多様性』に通じるものがあります。たとえば『三度目の正直』の意味を他人に説明する時、アナタだったらどうするでしょうか?
ある人は「2浪して、やっと東大に受かることだよ」と説明するかもしれませんし、ある人は「2打席連続三振して、3打席目にやっとヒットを放った」と説明するかもしれません。ある知識をどう捉えるのか? これだけでも人それぞれの脳を覗き込むことができるのです。この時期は言わば、器や水をカスタマイズできる時期と言えるのではないでしょうか?
成人まで、そして成人以降も、脳細胞の数は年々減り続けています。しかし、ご安心ください。減るといっても年間1万程度でしかなく、千数百億ある脳細胞の数と比較すればささやかなもの。しかも、前述したとおり、脳細胞は運動などの要因で新しく生み出すことが可能になっています。年だからとあきらめず、新しい知識に挑戦してみてください。アナタの脳は、そのがんばりに答えてくれるはずです。
老後でも脳は変化し続けます。たしかに、視覚や聴覚、俊敏性などは若者に軍配が上がりますが、これまで学習してきた知識と新しい知識(情報)を照らし合わせ、適切な判断を行い、問題解決へ導く能力は高齢者になっても伸ばすことが可能です。年をとると脳が衰える? そんなのはもはや過去の概念でしかないのです。
アナタが挑戦したいことはなんですか? 新たに学習したいことはなんですか? ――脳はアナタの欲望に応えてくれます。伸び盛りだからこそ、成人したからこそ、そして年齢を重ねたからこそ、新しい挑戦が必要なのです。
アナタの脳に幸あれ。
昔の人は、脳を『単なる排熱器官』と考えてたんだって。




