犬の知性 ~賢いorおバカなんて、人間が勝手に決めつけただけなのよ~
犬の"賢さ"ってなんだろね?
1万年以上も昔から、人は犬と暮らし、良い関係を築いてきました。狩りのお供、家畜の護衛、荷車を運ぶ力仕事、あるいは飼い主の心を癒やすコンパニオン・ドッグ。現代の犬は盲導犬に警察犬など、もはや人類にとって必要不可欠な地位を確立しています。
犬は人の表情や言葉、動きなどから飼い主の気持ちを感じ取り、人の意志を汲んだ行動をとってくれます。犬が『お手』をしてくれた時はとても嬉しいものですが、これってスゴいことだと思いませんか?
犬ってどのくらい頭がいいんだろう? 現代科学はこのナゾも解き明かそうと試み、いくつかの有用なデータが得られています。なかでも有名なのは『ボーダー・コリー』ですね。全犬種の中で最も頭が良いとされていますが――果たして本当にそうなのでしょうか?
ってことで、今回は『犬の知能』について書いていこうと思います。
「ボーダー・コリーがいちばんアタマがいい!」 ――犬好きでなくても、なんかこんな話を聞いたことがあるんじゃないでしょうか? ほかにも「ハスキーはバカだ」とか「アフガン・ハウンドは言う事を聞かない」とか……いろいろありますね。
なんでそう言われるようになったのか? 考えられるのは、1994年に出版された『スタンレー・コレン』氏の著書『犬の知性(The Intelligence of Dogs)』です。日本語版はまた別の題名になっているので、興味がある方は各自でググってみてください。
これには、ある仮説にもとづき『犬の知性』を研究。実験で得られた結果をランキングという形で記した内容があります。本の内容を、概念だけでも理解すれば上記のような結論にはならないのですが、受け取る側が大きな勘違いをした結果、人間は犬の知性を勝手に決めつけてしまったと言えるでしょう。わたしが個人的に調べて限り、上のような考えの根拠として『カナダ:ブリティッシュ・コロンビア大学』の研究がよく挙げられている印象ですが、その研究こそ著書に記されていた実験なのです。
ってことで、まずは行われた実験について書いてきますか。
まず、スタンレー・コレン氏はブリティッシュ・コロンビア大学の教授をしています。今は知らんけど、当時は大学で研究をしていたのです。で、彼は『犬の知性』について、3つの指標を定義しました。
① 本能的な知性
命令されなくても実行する行動
ポインティング、物を咥えて持ってくる行動など
② 適応的な知性
自ら問題を解決するための能力
エサをもらうため芸をする、柵の向こうのエサを手に入れるなど
③ 働くことと服従の知性
人間から学ぶ犬の能力
人の行動を観察し、人が望んだ行動をとることなど
①は、犬と共に暮らしている方ならわかるでしょう。犬が犬だからこそする行動ですね。②は、犬が自力で試行錯誤する行為から把握できます。③は、犬が人間という異種族とどうコミュニケーションをとるか? っていう問題が絡んできますね。
コレン氏は、上記のうち『③』に目をつけました。つまり『いかに人間の意志を理解し、受け入れ、命令どおりに行動できるか?』って指標を、全犬種で調べてみたわけです。
手法として、彼はアメリカ及びカナダの『ケネルクラブ』の服従裁判官に協力を呼びかけ、犬種ごとに『新たなコマンドを理解し、それを実行するまでの時間』などを計測して犬種ごとのランク付けを行ったわけです。
服従裁判官ってのは、犬が人間にしっかり従ってるか判断する人です。たとえば『ドッグショー』とかありますよね? その時に、犬が人間とうまく連携できてるか? 命令通り、問題なく行動できているか? 的な点を評価する審判員みたいな役割を果たします。
で、上記の実験内容を目安として、調査した全79種のわんわんをランク付け、そのトップ10は以下のようになりました。
① ボーダー・コリー
② プードル
③ ジャーマン・シェパード
④ ゴールデン・レトリーバー
⑤ ドーベルマン
⑥ シェットランド・シープドッグ
⑦ ラブラドール・レトリーバー
⑧ パピヨン
⑨ ロットワイラー
⑩ オーストラリアン・キャトル・ドッグ
ボーダー・コリーが第一位に輝いていますね。実験によると、ここで紹介されたわんこは『新しい命令を5回未満で学習し、命令を出すとすぐ従った』とされています。見慣れない犬種が多いと思いますが、これらはアメリカとカナダで行われた実験だということをご理解ください。日本犬では『狆・秋田犬』がランクインしています。アタマが悪いとウワサ(?)の『アフガンハウンド・シベリアン・ハスキー』もこのランキングに乗っています。順に紹介しましょう。
45位:シベリアン・ハスキー
54位:秋田犬
62位:狆
79位:アフガン・ハウンド
アフガン・ハウンドは最下位になっていますね。他の日本犬が同じ実験を受けていた場合、どういう結果になっていたのでしょう。それとも、実は実験済みでランク外だった、なんてオチがあるのか……。さて、上記の実験を『犬のアタマの良さ』として受け入れるというのなら、ボーダー・コリーが賢く、アフガン・ハウンドはおバカだという理論はまあスジが通りますね。しかし、ちょっとまってください。
コレン氏が行った実験は、あくまで『人間の意志を理解し、それに従い行動するか?』の指標です。それを『犬の知性のすべて』と表現するのは、はたして真理と言えるのでしょうか?
アフガン・ハウンドに対し、果たして「服従しないから知能が低い」と言えるのでしょうか?
そもそも知性とはなんでしょう? 人間の知性を測る指標として『知能指数(IQ)』がありますね。じゃあ、IQテストはひとつの問題なのでしょうか? 違いますよね? たとえば『空間把握能力』を測ったり、単純計算能力だったり文章問題だったり認知能力や思考能力やら――それに、たった一度のテストを受けただけで「あなたの知能はこんなんです」と言われて、アナタは納得できるでしょうか?
上記ランキングは、あくまで犬の知性を測るいち指標に過ぎません。それに、同じボーダー・コリーでも様々な性格があり、こっちは得意でもあっちは苦手っていう個体もいるんです。そもそも、知性は人間と同じで訓練によって鍛えることができます。ボーダー・コリーだから賢い、シベリアン・ハスキーだからおバカ……そんなの人間が勝手に決めつけてるだけなのよ。
ある実験を紹介しましょう。イギリスの心理学者『ロザリンド・アーデン』『マーク・ジェームズ・アダムス』両氏が行いました。
ボーダー・コリーを68匹集め、犬が苦手とする『ちょっと迂回すればゲットできるエサを手に入れる』というテストをしたところ、速い犬では3秒ほどでゲッチュでき、遅い犬では2分ほどもかかったという結果があります。
犬の知性は犬それぞれです。飼い主であるアナタが、わんこの性格や能力、傾向をしっかり把握し、それに見合った訓練を行ってあげましょう。そして、うまくいったらおもいきり褒めてあげるのだポッター。
犬は人間と付き合っていく決断をしました。それから1万年以上もたり、犬は人間の表情を読み取り、それに合わせた行動をするという能力を得ました。そんな健気なわんこたちに対し、わたしたち人間がしてあげられることはなんでしょう? わたしも真っ黒な『ラブラドール・レトリーバー』とくらしていますが、たまにそんなことを考えています。
まだ結論は見えてないけど、少なくとも、この子が生きているうちは、大事に育ててあげたいと思っています。いつか虹の橋を渡る時まで、日々楽しく過ごしていきたいなぁ。
アナタには、そんなかわいい四本脚の家族はいますか?
そういや、おまえ口もとがだいぶ白くなってきたなぁ。




