筋肉は科学だ_おまけ
筋肉って素晴らしい! 筋トレは最高だ! そして筋肉とは科学なんだ! ということを紹介する話です。そして、オリンピックの舞台で輝かしい功績を残したあの人のお話も紹介します。
さて、昨日を最後に筋肉的な話を終結させようと思ってたのですが、不意におもしろい本と出会ってしまったのでここからアディショナルタイム開始といきましょう。ということで、本日はおなじみ『石井直方』氏著作『筋肉の科学』に加え、あのハンマー投げで凄まじいパワーを発揮しアテネオリンピック(2004)では金メダル、全盛期を過ぎたとさんざん言われたロンドンオリンピック(2012)でも銅メダルに輝くなど活躍を見せた『室伏広治』氏著作の『ゾーンの入り方』を参考に、著者がやっていたトレーニングも紹介していきたいと思います。
室伏広治氏は現在でも東京医科歯科大学の教授として働いている他、スポーツ庁長官として活躍しておられますね。イロイロと問題のある東京オリンピックですが、どのような形でも、多くの方が納得するオリンピックになってもらいたいです。
さて、トレーニングについての大まかな説明は前回までにおさらいできたかと思います。筋力増強には『メカニカルストレス・酸素環境・代謝環境・ホルモンや成長因子・筋繊維の損傷と再生』の5大要素があると。筋トレする上ではその目的に沿ったメニューが必要になると、筋トレをするには難しい年頃である子どもや、リハビリ中の方、ご高齢の方でもスロートレーニングなどによって速筋を鍛えることが可能だと書きました。全身のバランスも必要で、片方だけに偏った筋力は結局力のすべてを発揮することが出来ないなど、様々な問題もあります。
筋トレは努力の方向を間違えると平気で裏切りますし、ウソをつきます。腕相撲で勝ちたいのにひたすらスクワットをしていたら勝利をつかめないというのはみなさんでも容易に想像がつくでしょう。まあ、下半身の安定は必須ですが、メインとするべきトレーニングはそこではないはずです。スポーツにだって優先すべき筋力があり、それに見合ったトレーニングが必要なのです。
トレーニングをすると『その動き』を脳が覚えます。ですので、スポーツをする方は筋トレをした後かならずスポーツで必要な動きをして感触を確かめると良いでしょう。その結果違和感を覚えたならばトレーニングのメニューを変えてみたり、はたまた続けてみて違和感の正体を見極めるも良いでしょう。なんにしてもトレーニングはやってみてそこから考えるという試行錯誤が必要になると思います。例えば、長距離走者は短距離走者よりレッグ・エクステンション(ボールを蹴り上げるような動き)がうまいです。これは長く走るために必要最低限の動きをする長距離走者のほうが『その動きに必要な筋肉だけを動かす』という動作に長けているためです。しかし、短距離走者はいかに短い時間で最大限のパワーを生み出すかのトレーニングをしているので、ふとももの"大腿四頭筋"を収縮させる時、同時に"ハムストリングス"も収縮する動きが加わっているのです。結果として、両者が収縮しあい力が相殺されレッグ・エクステンションの動きが難しくなってしまうのですね。
さて、筋肉の科学的なお話はこのくらいにしましょう。ここからは、室伏広治氏がこれらの事実をもとに開発した『よりハンマー投げに特化した効率的なトレーニング』について書いていこうと思います。
彼は若かれし頃から、同じくオリンピアンだった父の手ほどきを受けてハンマー投げの選手として活躍していました。本格的に着手したのは高校生のころだったようですが、それでも高校生時国内では敵なしの成績をおさめ、高校3年時、92年の世界ジュニアでは65メートル78センチを投げて入賞。中京大学入学中に日本記録を樹立しアジア大会では2位。さらに1995年の日本選手権では69メートル72センチを投げて優勝を果たしました。
とはいえこの記録は世界とくらべればまだまだで、世界陸上では67メートルを投げたとしても35位という結果に終わってしまいます。アジア人の体格で(とはいえ彼はハーフで190センチ台ですが)世界と渡り歩くにはどうすればよいのか? 彼は考えました。
みなさんも、テレビでの彼の活躍を見ているなかで、バーベルに重りのようなものをぶら下げてトレーニングしている姿を見たことがあるかと思います。あれは彼オリジナルのトレーニングで、室伏広治氏は『ハンマロビクス』と名付けています。以前までに書いた通り、筋トレは『その筋肉のみを、同じ動きで鍛える』ものです。神経がその動きに慣れさらに筋力の増強を測る、たしかに効率的なトレーニングなのですが、スポーツにおいて同じ動きを同じだけするということはそうそうないでしょう。野球でも、同じゴロを処理するにしたって微調整はどうしてもつきまといます。そういった問題に対する彼なりの答えが、このハンマロビクスだったのでしょう。
バーベルにぶらぶらと動く重りを載せることによって、たちまち鉄の棒は『不規則的な重心の変化をもたらすお荷物』と化します。これが『単純な反復運動からの解放・不規則な動きの実現・同じ動きに身体を慣れさせない・重量の感覚を常に身体で感じる運動・即興的に対応する意識』を生み出してくれます。器具を用いたトレーニングをしつつも自重トレーニングのような筋トレが行えるという、なんともいいとこ取りなトレーニングですね。
彼は『体性感覚』というものを重要視していました。これは脳が感じる『重さ』や『重心』など、バランスを保ったり効率的に動いたりするのに必要な感覚の総称で、これが鋭いと、次にするべき動きがわかるという意味で、俗に言う『運動神経が良い』ということにつながっていきます。
これは普段の生活でもトレーニング可能です。著書で紹介されているいくつかを書いてみましょう。
『新聞紙エクササイズ』
――広げた1毎の新聞紙を手に掴みます。そのままクシャクシャになるまで握り込んでいきましょう。このとき、決してもう片方の手を使うとか、肘を曲げてやりやすいようにするとかしないでください。身体の前方に腕を伸ばして、手から先だけで新聞紙を握ります。そこから手や指の感覚だけで新聞紙を握り込んでいくのです。時間をかけても良いので最後まで。手の中にすべてすっぽり収まるまでしっかり丸めていきます。指の1本1本の感覚を頼りに、次はどう握り込んだら良いのかを身体で感じながらやっていきましょう。
慣れたら両手に1枚ずつ新聞紙を握って、両腕を前に出して同時に握り込んでいきます。それぞれの指が新聞紙を握っていくさまを身体で感じていくのです。見た目以上に筋肉が張ると思うので頑張ってください。ファイトですよ!
『紙風船を潰さずに潰す』
――矛盾した表現ですが、この筋トレを表すにはこの字面がふさわしいでしょう。100円ショップで販売されているような紙風船をふくらませ、それを潰さないように握るのです。しかし、その腕には万感のパワーを込めましょう。
わからないと思うのでまずはウォーミングアップから。サッカーボールをまず持って両側から潰そうとしましょう。圧力をかける腕にはかなりの力が入ると思います。胸の前で両腕で持ち、両肘は外に張って、90度くらいの角度で左右からギュッと潰します。これで予行演習は終わりです。
続いて、同じおとを紙風船でも行いましょう。しかし、紙風船は決して潰してはいけません。力が入った状態のまま、しかし紙風船は潰さずに、万力のようにその空間に力を込めましょう。
これはいうなれば『全力パントマイム』ですかね。壁がないのに壁があるとか、風を受けながらも走っている形を保つとか、あれを本気でやろうとすると凄まじい筋力の張りが必要です。もっとマニアックな話をすると、漫画『修羅の門』に出てくる片山右京の技『菩薩掌』の腕の張りみたいなもので――わからないですか、そうですか。
これは、アテネオリンピックでの金メダル。ロンドンオリンピックでの銅メダルを手中に修めた彼がしたことのほんの一部分でしかありません。そもそも本のタイトルが表す通し、彼のトレーニングの本質としては『ゾーンの入る』ことがあります。体性感覚を鍛えるのは、自らの状態を把握し、心身全てを己でコントロールできる状態へもっていく為の手段だったということでしょう。世界で活躍するアスリートの一端を感じることができれば幸いです。
もしこの本に興味がおありでしたらすぐにでも書店へ向かうことをオススメします。世界の第一線で戦ってきた彼の葛藤と、父であり、コーチでもあった室伏重信氏がいかに彼を育てていったかなども記述されており、世の中のお父さんにも必携の1冊ではないでしょうか?
ここで紹介した知識が、アナタの今後の健康増進に役立てば幸い。
ハンマー投げって難しいんですよ。リリースの瞬間って正直カンでやるしかないわけで、わたしはもう窓を割っちゃいましたね、うん。




