第二話
「さっ、こっからは塔まで歩きだ。はぐれず着いてこいよ」
国見司はそう言って初めての景色に圧倒される俺たちの前に出て進んで行った。
俺達は慌ててついて行った。
すげえな。
今までテレビなんかでは見てが実際に見るとやはり違う。
おお。露店も多いし、人も多い。世界中から人が来てるからか人種も多種多様だ。それに顔が何故か知らないが整っている奴らが多い。
義手をつけている者や明らかに戦闘帰りの血塗れの者までいる。
早くシャワーを浴びたいのだろう。本人も嫌そうな顔だ。
そして二十分ほど歩くと、また建物の中へ入った。
どうやらここも探索者協会らしい。最初からこっちに転移すれば———
「お前たち、もしかして最初からこっちに転移すれば良いんじゃないかと思ってるんじゃないか?」
ギクッ
何故わかった。心が読めるのかこいつ。
「毎度毎度言われるからな。聞かれる前に答えてやる。
理由は二つ。お前たちの様な新人を一度街を歩かせることで街の雰囲気を見せること。
そして二つ目は防衛の為だ。
魔物が万が一外に出てきた際に転移門を抑えられたら助けを呼ぶにも時間がかかる。
それに、魔物の中にも頭がいい奴ってのは居るんだよ。それこそ人間並みのがな。奴らが転移門を使い世界へ広がったらまた昔の地獄に戻っちまう。
そもそも異能ってのは魔物も持ってる力だ。俺たちだって知らない未知の異能が存在する。だから、門を離して設置してるんだよ。わかったか?」
「はい」
俺以外にも返事をしたり頷いたりしている奴がいた。
やっぱり思うことは同じだな。
「はい国見さん!質問いいですか?」
と赤毛の女の子が国見に質問を投げかけた。
「おう。なんだ」
「その人間並みに頭がいい魔物が居るんだとしたらとっくに攻めてきてるんじゃないんですか?」
確かに。魔物ってのは素の状態でも人間より遥かに上だ。その上人間並み知性を持った存在なら、攻めてきてもおかしくない。
「いいとこに目をつけたな。嬢ちゃん名前は?」
ニヤっと笑って女の子へと返した。
「はい。私、御川明音って言います。それで答えは?」
「ああ。御川の疑問はもっともだ。実際過去にはそういう魔物が境界から出てきて大量の死傷者を出したこともある。まぁ最後には倒したけどな」
国見さんが言っているのはおそらく15年ほど前に四大異常の一つ〈奈落の大穴〉から出てきた人型の魔物の事だろう。人型といっても本当に型だけだが。
その頃はまだ子供だったがよく覚えてる。
百人近くの死亡者とそれ以上の負傷者を出し、最初期の英雄の1人〈剣聖〉柳田総司が打ち倒したことで終結した。
「まぁ、襲って来ない理由ってのはあいつら高位の魔物が俺たちのことを知らないかららしい」
知らない?実際に外に出てきた魔物がいるのに?
国見さんの話によると外に出た魔物は元々境界内で発見されていたらしい。
討伐予定だったのが外に出てきて戦闘になったと。
それと実は昔他にも高位の魔物が境界内で居たらしくそいつが人間を見て驚き、何処かに報告する様ないい様だった為隙をついて即座に倒したらしいが。
「まっ、そんな訳だからあんまり気にするな。それにアイツらは知能はあるが知性は低い。だから倒せたって部分もある」
いや、あんまり違いわかんないんだけど…
「質問は他にないか?…じゃ次はいよいよ境界だ。お前らにはそれぞれ武器を渡す。自分に合ったものを選びな」
国見がどこかへ合図をすると係りの人がカートを押して持ってきた。カートには剣、短剣、槍、弓、斧、拳銃などなど様々な武器が置いてあった。
て言うか銃って魔物には効かないんじゃ…
係りの人から説明が入った。
「貴方方にはこれらの武器からご自身に合うものを選んでいただきます。これらの武器は全て探索者協会所属の者が異能を用いて作成しておりますので皆様の様な新人でも魔物に傷をつけることができます」
「そう言うこった。好きなの選びな」
皆一斉に群がった。
自分の武器を選ぶ。日常生活では決して経験することのない体験の一つだ。
これから戦うんだと探索者になるんだと改めて認識する者も多い。
さてさて、どれを選ぼうか。
ここは王道の剣か?いや距離を稼げる槍か?
破壊力のありそうな斧もいいな。
よし斧だ。
「ふっ—て、重!本当に片手で扱えるのか?」
他にも剣や槍を試したがどれもやはり重い。
初心者用だから持てるレベルだが。
でも、思えば当然のことだ。
俺はつい先日までニートだったんだ。そりゃ太らない様に多少の運動はしていたが、それだけだ。
筋トレなんてしていない。
…やっぱりここは安心と信頼の拳銃で行こう。
正直、剣やら何やらは扱う自信がないからな。持てないし
だが拳銃ならなんとかなるだろ。距離も稼げるし威力も十分。
実際に撃ったことはないが、FPSなら自信がある。
「よし。全員武器を選んだな」
各々が自分に合う武器を選んだ。しかし今はまだ武器に持たれている感じだ。
「お前らがこれからいく場所は境界の中でも弱い魔物が多い初心者向けの場所だ。だが油断はするな。絶対に強い魔物が出ない保証なんてないんだからな」
その一言に俺たちは息を飲んだ。
「よし。いくぞ!」
俺たちは〈幻想の巨塔〉内部へと足を踏み入れた。
瞬間、一瞬の浮遊感に襲われる。
塔の内部に踏み入れた先には不思議なことに空が広がり、大地には草原が広がっている。遠くには森の様なものまで見えている。
「…は?空?」
大空が広がり、雲があり太陽が照らしていた。
他のみんなもそう思ったのか口々に疑問を呈している。
「おいお前ら何してる。こっちに来い」
慌てて国見の元へ行った。
「まぁ、お前たちの気持ちもわかるけどな。確かに境界内に空があるのは不思議だろう。だが、境界ってのはそう言う場所だ。さっきまで火山だったのに次の瞬間には極寒の雪山へと変わる。ここじゃ世間の常識は通用しない。覚えとけ」
確かに、ネットや何やらでちょっとは調べてたけど、やっぱ実物を見ないと信じられないな。
「さっ、お前らぼーっとするな。魔物のお出ましだぞ。ありゃあグラスウルフだな」
国見の言う通り、少し遠くから黒い影の様なものが近づいてきていた。
あんな遠くのが見えるのか。経験なのか、それとも単純に視力なのか。
「あんな遠くのが見えるんですか?」
「ああ、俺ぐらいになれば視力も強化されるからな。お前らも外の連中を見て妙に顔のいいのが多いと思わなかったか?」
強化って異能だけじゃないんだ…
それと顔に関しては確かに俺も不思議に思っていた。俺がニートしている間に顔面平均が上がったのかもと。
「俺たち探索者はな魔物を倒すたびに少しずつ強化されるんだ。その強化は様々だが、大体が本人の望んだ道を辿る」
なるほどアイツらは顔面に全振りしたのか。
「まぁ、身体を強化すれば自然と体付きや顔が引き締まる。だから強い奴ほど良い理想的な身体をしてるんだ。弱くて顔がいい奴は顔面に全振りしたアホだな」
確かに言われてみれば国見さんも顔はいい。イケメンってより野生み溢れる感じで一部にはモテる感じだ。
こういうのが不自然じゃない身体強化の延長で手に入れる顔面ということか。
「そら来るぞ。構えろ」
グラスウルフの群れがすぐそこにまで迫っていた。
皆は少し怯える様に腰が引けていたが、参加者の一人が前に出て槍をグラスウルフに突き刺した。
長身の男だ。
ソイツは顔からは緊張や怯えは見えない。
まるでなんて事のない簡単な作業をしている様な感じだ。
うまく急所をついたのか、その一撃でグラスウルフは絶命した。
すげぇな。なんだアイツ?
なんかすげぇ主人公感溢れるミステリアスなイケメンだ。
その後も他のウルフの元へと進んでいた。
「アイツに続くぞ」
「ええ」
「負けてたまるか」
「俺だって探索者だ」
「固有異能をゲットするんだから」
他の参加者も男に続く様にウルフに次々と攻撃を加え始めた。
ええ?急にテンション上がりすぎじゃない?
いやまぁ、俺も戦うけど。
狙いを定めて…撃つ!
バァン!
「…結構反動あるんだな。しかも外したし」
その後も銃を撃ち続けたが一発命中した以外は全て外れた。
しかも当たった一発もそれでグラスウルフを倒すことは出来なかった。
そこから約三十分後、グラスウルフ達を倒し切った。
「お疲れさん。もうお前らには異能が宿ってるはずだ。それとスロットもな」
やっと異能か。それにしてもスロット?
「自分の中に何か感じるはずだ。ソイツが異能だ。固有異能を獲得した運のいい奴はいるか?」
集中すると確かに今まで感じた事のない力を自分の中で感じる。
本能的に理解した。これが俺の異能だ。
そのまま集中すると異能の名前と能力の詳細が出てきた。
俺が獲得した異能は二つだ。しかも一つは固有異能だった。
それと…これがスロットか?なんか枠が七個あって、既に一つ埋まってるけど
「はい。固有異能がありました」
俺の他にも二人ほど手を挙げていた。さっきのイケメンと御川明音と名乗った女の子だ。
「ほう。三人もいるのか。運がいいな」
そうなのか?
「お前らに異能の説明をしてやる。まず異能ってのは二種類ある。固有異能と普通の異能だ。
固有異能はその名の通りソイツしか持っていない異能。他のはどんなに強力でも獲得できるチャンスがあるものだ。
最初の異能獲得で大体ひとり一、二個は獲得できてるはずだ。
それとスロットだが、こいつは異能を持てる最大数みたいなものだ。確か平均は五枠だな。ちなみに獲得した異能は変更できないから注意しろ」
俺のスロットが七枠なのは多いのか。それはラッキーだ。
「それと参考までに教えといてやる。現在確認されている最大スロット数は十だ。それ以上の奴はいるか?…まぁいないとは思うが」
だよな。今回は俺の七枠が最大かもな。
「はい」
すると一人手を挙げたものがいた。あのイケメンだ。
「…マジか」
国見さんも驚いた様で驚愕の声が漏れていた。
「何個あったんだ?いや言いたくないならいいが」
確かにスロット数はほぼ戦闘力に直結するからな。教えるのはリスクだ。
出来れば嘘であってほしいなと思う。本当にそうならますます主人公だ。
「俺のスロット数は——十二枠でした」
今度こそ国見は言葉を失った。
いや、国見だけではない。この場にいた全員が失っていた。
マジかよ。三つも多いってなんだよ。
「うそ。私だって八枠だったのに…」
と、嘆いていると横からそんな声が聞こえてきた。
御川明音だ。
あのイケメンだけじゃなく、他にも俺より多い奴がいた。
なんだよ。平均は五枠だろ。七枠だって十分多いはずだろ。
しばしの沈黙。
「…そうか、十二枠。お前の名前を聞いていいか?」
呆気に取られていた国見が口を開いた。
「俺は…神代器です」
なんだろう。この敗北感。
名前までかっこいいじゃねぇかこの野郎。
ビービービー!!
突然耳障りな音が鳴る。国見の腰のあたりからだ。
国見は急いで腰につけていた連絡用の端末を確認し
「おいおい…お前ら逃げるぞ」
俺たちへ非難を促した。
参加者のほとんどは俺を含め何が起きるのか分からず顔が青ざめおびえたような表情だ。
「どうしたんですか?さっきの音。何かあったんですよね」
「私たちにも何か手伝えることはありますか?」
国見に神代と御川が声をかけていた。
すげえな主人公とヒロインじゃん。
しかし、俺は大人しく逃げよう。上級探索者があんなに慌ててたんだぞ。
なりたての下級探索者が何かできるわけないだろ。
「そうか。気持ちはありがたい。だが一緒に逃げるぞ。
どうやらここいらには現れない強い魔物が出たらしいからな」
「国見さんでもどうにもできないレベルですか?」
「まぁ詳しいことは分からないからなんとも言えないが少なくとも俺一人じゃお前たちを守りながら戦えない」
「じゃあ尚更俺がサポートを——」
「バカを言うな!お前は確かに戦闘の才能があるんだろう。固有異能もあるしスロットだって十二枠だ。だが、お前はまだ本当の戦闘ってのを知らない」
神代の顔からは分かりずらいが、悔しいのか手に持つ槍に力が入っていた。
「…分かりました。逃げましょう」
「いくぞお前ら!着いてこい。これなきゃ死ぬと思え!」
国見が前を進み、皆が続いて走っていった。
しかし、約五分後。一人集団から遅れているものがいた。
俺だ。
「ちょっ…と待って、くれ。体力が、わきばらが
いてぇ…」
だが、声は届かない。
当たり前だ。初めての境界で初めてのトラブル。
皆自分のことで精一杯で一人の人間を気にしている余裕なんてない。
そんなことができそうなのは神代と御川ぐらいだが、その二人は先頭を走っている。
そしてとうとう足が止まった。
「クソっ!アイツら体力ありすぎだろ。こちとらニートだぞ」
嘆いていても仕方がない。とりあえずどこかに隠れよう。
しかし周りを見回しても隠れそうな場所はなかった。
少し遠くに森が見えるが、森は魔物の巣窟だ。
入っただけで死んでしまうかもしれない。
「ここで、死ぬのか?いや、まだまだ死にたくなんかない」
…何かないか?今の俺にできることは?
銃はまだ何発か残ってる。それにマガジンも二つほどある。
他には…そうだ異能だってある。
俺の中にある俺だけの異能。
固有異能【我等が夢想の友情】と【銃術】だ。
こう思うと意外とあるな。
正直、固有異能の方は詳細を見てもよく分からないが通常の異能【銃術】はわかる。
この異能を獲得した瞬間銃への理解が進んだからな。次は外す事も少なくなるはずだ。
そう若干楽観的な思考で考えていると、そんな浅はかな考えが吹き飛ぶほどの圧が押しかかる。
—いる。
俺の後ろに、いる。
後ろを振り向けば殺される。
そう思いながらも、しかし
顔を向けずにはいられなかった。
振り返った先には
緑色の肌に筋骨隆々の身体。赤黒い血がこびり付いたボロボロの剣を持つゴブリンだった。
俺は声が出せなかった。
ゴ、ゴブリン⁉︎本当に?コイツが?
俺だって動画で見たことがある。ゴブリン、それに進化先のホブゴブリンだってこんなに体格は良くなかったはずだ。
俺は怯えて声も出せず後ずさるしか無かった。
なんだ?一体なんなだよコイツは⁉︎
なんで俺がこんなことになってるんだ。
こいうのは普通、あの神代や御川みたいな主人公達の役回りだろ⁉︎
俺が後ずさると同時に目の前のゴブリンもどきも一歩前へ出た。
俺は恐怖に耐えきれずあろうことか銃を撃つのではなく投げつけてしまった。
しかし、先程の走りで体力はすでに切れており恐怖も相まってちょうど俺とゴブリンもどきの中央に落ちた。
当てる事すらもできなかった。
ゴブリンもどきはそんな俺を見て少し笑った気がした。
ゴブリンもどきは俺の元へ歩み続けた。
本当に、死ぬのか。せっかく固有異能まで獲得して、スロットだって平均よりも多かったのに。
俺が思わず目を瞑ると。
ザッ……ザッ……
と俺の少し後ろから足音が聞こえた。
助けがきたのか?
少し目を開けるとそこにいたのは、
金髪の長い髪をした男だった。
そいつは俺の銃を拾い構え
的確にゴブリンもどきの急所を撃ち抜いていた。
ゴブリンもどきは怯み膝をついた。
「やぁ!久しぶりだねコタロー」
その男は金髪に長い髪、ジャケットを着こなす長身細身の美形の男。
「お前は…アル、ト?」
ありえるはずが無かった。アルトとは昔、俺が見えていた空想の産物。ただのイマジナリーフレンドなのだから
「ひどいなぁ。僕の、親友の顔を忘れたのかい?」
その空想の産物に過ぎないものが5年ぶりに現れた。




