第4話 要因
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……すぅ……はぁ……分かった。とにかく、結論は全部を聞いた後だ。もう一度だけ言うけど、オブラートに包んだ言い方はしないで」
「は、はい……」
「それで……避妊は……するわけないか。そんなことをする男が」
俺は言葉選びを慎重に考えながら、次の質問を投げかけた。
希美の発する言葉の全てにイライラしてしまう。
「う、うん……。かれこれ、もう30回以上は膣内に……」
「はっ!? さっきセックスしたのは8回ってっ!」
「ごめんなさいッ、言い方が足りなかった。一度会うたびに、何度も何度もされて……」
「平均で3、4回はされたってことかよ……」
こくりと頷く希美。
俺は再び目眩と頭痛がしてきた。どんだけ絶倫なんだよ……。
だがまだだ。
希美をたたき出すのはまだ早い。
落ち着け……落ち着け……落ち着け
荒ぶる心の高波を必死になって押さえ込み、深呼吸と脱力を繰り返して何度も心を落ち着かせる。
「俺は一度だってしなかったのに……結婚して、子供を作るまではって、約束したのに……」
結婚するまでは二人の時間を大切にしよう。
そういってコンドームは必ず着用していた。
これまで幾度となく生挿入の誘惑に駆られた事もあったし、希美から許されて誘われた事もあった。
だが、下手に実行して万が一を考えると、それはできずにいた。
「希美に誘われても、俺は避妊を怠ったことはなかった。まさかそれが不満だったの?」
「違いますッ! 私の事を思ってくれるアッ君の言葉、本当に嬉しかった……ごめんなさい……っ、ごめん、なさい……」
こめかみにズキズキとした痛みが走る。血管が切れそうになる感覚を初めて味わい、俺は何度も深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻す。
考えてみれば、相手は無遠慮に生挿入をしたのであって、俺のしたこととの因果関係はない。
この点で希美を責めるのは筋違いだろう。
「ふぅ……ふぅ……はぁ……わかった。妊娠は?」
「最初にレイプされた後、すぐに病院にいってピルを処方してもらったから……してません。今朝も確かめたけど、してなかったです」
「病気の検査はした?」
「……混乱してて……そのうち浮かれてしまって……」
ギリッと奥歯を噛み締めた。つまり希美は、その時点でそいつとの関係を受け入れてしまったことになる。
すぐにでも検査にいかないと。
だがまだ聞きたい事は終わっていない。
しかし、なんでそれだけの行動力はあるのに、俺に相談するという一番最初にするべき判断をしなかったのか……。
ピルの処方に性病検査。それだけの行動をする判断力があるのに俺には隠し通した。
本当に自分の事しか考えていないという彼女の言葉が信憑性を帯びてくる。
「そうか……分かった。次の質問だ。そいつの何が良かったの?」
「え……」
素っ頓狂な声を上げる希美に苛立ち、語気を荒げてしまう。
「そいつとッ! ハートマークを乱舞させるようなメールをするくらい、何が良かったんだってことだよ!!」
机に拳を叩き付け、わざわざ言葉にしないと分かろうともしない頭の鈍さに苛立ちが募った。
「楽しかったんだろっ!!? 会うのが楽しみで仕方なかったんだろッ!!? わざわざ記念日の次の日に会いたくなるくらいっ、そいつと会うのが待ち遠しかったんだろっ! どうなんだよっ! ああっ!?」
言葉にすればするほど自分が惨めだった。
俺が一生懸命働いている間、こいつはレイプ魔とのセックスを楽しんでいたのかと思うと、激しい憎しみが内臓を焦がすような痛みを生じさせる。
「それは……、自分を、守る為……です。従順にしていれ……違うッ! ごめんなさい、これは言い訳です。……本当は、その……、ッ……」
希美は非常に言いにくそうにどもる。
聞きたくない。絶対に聞きたくないであろう言葉が出てくるのが予想できた。
「あの人とのセックスを、楽しみにしてしまっていました。子宮の奥に直接出される感覚が、気持ちよすぎて」
希美は自己弁護をしようとしたが、すぐに言い直した。
「そう、か……他には?」
「その……アレが、凄く……」
「大きかったのか」
「最初は、凄く怖くて、無理やり捩じ込まれて、痛かった……痛くて痛くて……やめてって何度言っても、やめてくれなくて……でも、段々気持ちよくなってきて……いつの間にか、自分から求めてました……身体の奥の方に、あんなに気持ち良い場所があるなんて知らなくて……。もっと、もっと味わいたいって、思ってしまいました……」
最低だ……。自己防衛の為に従うふりをしていたと聞かされた方が、何億倍もマシな事実だった。
真実の方が、より残酷であることもある。
生の膣内射精の快感に狂ったというのか……。つまり、俺のが短いから……。あいつじゃなきゃその快楽が得られないから。
そんな馬鹿な話があるのか……。
「身体の快楽だけで自分から抱かれに行きたくなったってこと?」
「半分は、そうです……。もう半分は、最初に言い訳しようとした……自己防衛の為。そうでもしないと、辛くて、現実を受け入れられなくて……気持ち良くなることで苦痛から逃げてた。こんな事で感じてしまう自分が嫌で、アッ君に合わせる顔がなかった」
矛盾している。だが、彼女にとってはどっちも真実なのだろう。
恐怖で従うしかなかったというのは、希美のような引っ込み思案で気弱な女性の性格を考えれば、一定数予想はできるか……。
「つまり、子宮の奥に感じる快感が忘れられなかったのが半分と、自分を守る為に従順になっていたと……」
でも理解なんかしたくない。だって彼女の中では、優先順位が入れ替わるまで俺に相談すらしなかった。
俺は全く信用されてないってことじゃないか。
「そう、です……相談する勇気もなくて、段々汚れた考えをする自分が嫌になっていった……。もう戻れないところまで汚れてしまったから……アッ君に顔を合わせるのも、辛かった……」
「それこそ、俺に相談するべきことだろ……なんでそこに流されてるんだよ」
馬鹿野郎が……その言葉が喉まで出かかってグッと堪える。
「はい、その通りでした……っ、馬鹿で、ごめんなさい」
「他に理由は、ある?」
「自分でも、考えがまとまらないけど……大きいのは、そのくらい……ごめんなさい」
「まあ、自分の感情を全部言語化しろってのが無茶だよね」
「でも、心がアッ君を裏切っていたのは事実です」
ギリリと奥歯が鳴る。実際に俺よりも間男を優先させる心理状態になっていた事は事実だから、その悔しさを言語で表現するのは困難だった。
「私が愛してるのは、アッ君だけ……その筈だった。でも、私の心は、あの人に傾いていました……。酷いことをした人なのに……。私のこと、いつもいつも肉便器って馬鹿にして、最低の人。それなのに……」
「……」
「それなのに、快楽を待ち望んでいる自分がいて……あの快楽を与えられるのはあの人だけだから……最初は切り分けて考えていた筈なのに、いつの間にか、あの人が与える快楽の好きが、あの人自身への好きのような気がしてきて、グチャグチャになって分からなくなって……」
「……」
「私はアッ君が好きな筈なのに、その気持ちは消えてない筈なのに……段々自分の中であの人が大きくなっていく……自分で自分を制御することができなくて、どっちが本当の自分か……もう分からなかった……」
言っている事がかなり混乱している。考えがまとまっていないのだろう。
しどろもどろになりながら理由を述べるが、言い訳を並べているのではなく、伝えたい言葉が上手く言語化できないみたいだ。
ストックホルム症候群に近い状態、とも解釈できるのかもしれない。
正確に言うと、あれは長い時間を犯人と過ごすことで相手に好意を持ってしまうことを言うらしいが、ダメ男に嵌まりやすい女の特徴とも言える。
自分をレイプして、脅して、尊厳を踏みにじるような言動を繰り返す史上最低のクソ野郎と、何度も身体を重ねて快楽を与えられ、快感と暴力による飴と鞭で飼い慣らされてしまったのかもしれない。
希美の心は、その男に壊されてしまったんだ。
※後書き※
強姦の被害に遭い、心を壊されてしまった希美。
裏切りは、彼女の本心から来るものなのか?
次回の展開をお待ちください。
気に入ってくださったら下部にある☆☆☆☆☆をポチッと押して黒く変えてもらえると嬉しいです
ブックマークと応援メッセージもいただけたら励みになります。




