第18話 勝利への布石
「希美、大丈夫か……?」
「うん。これからだよね。戦いはこれから」
「ああ。これで奴の自白は録音できた。勝負はこれからだ」
奴に聞こえないように希美を励ます。
話し合いの場に突然現われた弁護士に、強姦魔は初めて明確に焦りを見せる。
ここで奴を追い詰める為の下準備の経緯を話しておこう。
幸い俺達は人に恵まれていた。
警察が当てにならないと知った俺は、このことをもっとも信頼のおける会社の上司に相談した。
そして直ぐに信頼できる筋の人間を紹介され、その人のツテで浮気や性的な被害に強い業界の大ベテラン弁護士を紹介してもらった。
その弁護士のアドバイスに従ってまずは探偵を雇い、強姦魔の身辺を徹底的に調査した。
雇った探偵からはヤツの被害にあった女性関係が次々と明らかになり、俺はその人達に連絡を取ることに成功している。
ほとんどは強姦からの脅迫。そう言った行為を繰り返している事が発覚し、被害に遭った女性は泣き寝入りするしかなかった。
どうやら出来るだけ意志の弱そうな女性をターゲットにしていたらしい。
そのクセ自分が犯罪行為を行った証拠をネット上に残してしまっているのだから、それに気が付かないほど今まで上手く行っていたのだろう。
調べていくと、希美を強姦したクズ野郎は隣町にあるかなり大きな企業のエリートであることが分かった。
社会的地位のあるやり手であり、その立場は中々崩すことは難しい。
俺みたいな新人サラリーマンには立場で勝てる相手じゃなかった。
そこからは再び俺たちの苦悩の日々が始まることになった。
地元の悪い仲間と度々出かけては女を食い漁るような遊びを繰り返していたような男だ。一筋縄ではいかない。
最初は人を食ったような顔でこちらを挑発するような態度を崩さなかったクズ男。
だが、本物のヤクザとも渡り合ってきたという歴戦連勝の猛者である弁護士の先生にはまるで歯が立たないのだった。
「まったく何のことかわかりませんねぇ。俺は彼女と同意の上で行為したに過ぎないんですよ? 彼氏がいたことは知ってましたけど、結婚前でしょ? 法律的には罰則はないはずだ」
まるで自分がやっていることは微塵も悪い事ではないとでも言わんばかりに態度が悪い。
「では自分がやったことを認めるんだね」
「認めるも何も、お互い同意の上での行為だって言ってるんですよ」
「しかし彼らの動画の内容はそういう風にはまったく見えなかったが?」
「単なるプレイですよぉ。彼女はそういう風に乱暴に扱った方が興奮する性癖なんですって。恥ずかしいこと言わせないでくださいな。彼氏も知らなかった希美の性癖を開発してあげたんだから、感謝してほしいくらいだ」
続く俺達への侮辱の言葉は、人格を破壊するような酷い発言のオンパレードだった。
「僕は一度としてああしろこうしろなんて言ったことはありませんねぇ。すべて彼女が自分の判断で選んだことですよ~」
ニヤニヤしながらこちらを挑発するような態度を取る男を、俺達2人は目を逸らさずに睨み付けた。
だが、俺達は戦いの全てを弁護士の先生に任せ、高みの見物をするだけでよかった。
「なるほど。反省の色なし……と。では仕方ありませんね」
「あ?」
「まずはこちらの書類をご覧下さい」
「なにこれ……。……は? え? は?」
それを見た強姦魔の顔が明確に引きつった。
そう、こいつには明確な弱点ともいうべき弁慶の泣き所があった。
それはヤツが婿養子であり、地元の名士の家柄のお嬢様と結婚しているということだった。
奥さんの実家に真実がバレることは、ヤツにとっても都合が悪い筈と踏んだ弁護士の作戦で、まずはそのカードを切った。
「それからこちら……。こんなのもありますね」
その実家は代々続く由緒ある家柄で、とてもこんなスキャンダラスな男を婿に迎えるとは思えない。
表向きの顔は非常に良かったのか、あるいは奥さんがよほど惚れ込んでのことなのか。
それは分からないが、家庭での立場は典型的な良識旦那であるらしかった。
奥さんが金持ちだから、逆玉を狙ったとかそういうのかもしれない。
この姿からは想像できんな。だが、表での立場が清涼であればあるほど、裏の顔を知られることは弱点となる。
こちらが掴んでいる証拠を少しずつチラ見せし、それを実家と会社に内容証明で送る準備があると匂わせたところ、みるみる顔が青ざめていった。
「くっ……」
これまで何度も上手く行っていたからだろう。
奴は自分の身に火の粉が降りかかることなど微塵も想像できていないらしかった。
いや、正確には修羅場は何度もくぐっている筈だ。
だがここまで徹底した地固めを行なって来る奴はいなかったのかもしれない。
調べた限りでは、実際に奴に脅迫された女性との痴態がネットにアップされていることはなかった。
その代わり、この男ではない別の集団による性的暴行の様子が裏ビデオとして出回っている。
そうして実際に脅す役と、実行役を分けることによって、デジタルタトゥーを残さないように立ち回ってきたと思われる。
実際にネットにアップされていた動画は、顔がばれないようにマスクをかぶった上でモザイクをかけてあったりと、徹底した隠蔽工作が為されていた。
それこそ身体的特徴を細かく分析でもしない限りは、その人物をハッキリと特定するのは難しいだろうというのが、探偵の見解だったのだ。
つまり本格的に警察が動かなければ足が付く可能性は低いだろうということらしい。
そして女性達に徹底した脅しをかけることによって警察に訴え出るものは今までいなかった。
それでも心に傷を持ち、この野郎を殺したいほど憎んでいる女性達は数多く存在した。
そういった人達から少しずつ証言と証拠を集め、こいつを糾弾するための材料を集めたのだ。
それに、希美に送った動画はこいつの顔がハッキリと映っているし、声もバッチリ入っている。
ベテラン弁護士の先生に追い詰められて、唇を震わせて冷や汗をしたたらせる奴の百面相は痛快のひと言だった。
奴はとうとう白旗を揚げ、脅迫のネタにしていた動画を全て認めた。
「あ~~、はいはい。では謝罪します~。どうも申し訳ございませーん。慰謝料をお支払いしますので~、どうか許していただけないでしょうかー」
謝罪も全く心がこもっておらず、単に開き直っただけだ。
「もう俺の負けでいいですよ。はいはい、すみませんでしたーっ。はいっ、じゃあこれで話は終わり! 金はちゃんと払いますからもういいでしょ?」
無理やり襲って関係を持ったことを認めさせ、慰謝料を払った上で今後一切関わらないという書面に捺印させた。
それに加えて刑事事件にしない代わりに相応の慰謝料を払うことを約束させ、我が身可愛さからすぐにその金はヤツの財産から振り込まれることとなった。
それから動画のネタは全て削除し、ネットにアップすればすぐに刑事告訴する手筈も整っていることも告げてある。
証拠としての動画映像は全て保管してあるので、奴の手元から消えることが重要だ。
「くそがっ! 覚えてやがれっ! このままじゃ済ませねぇからなっ!」
「そういう発言は控えた方がいいよ君。自分の立場は分かっているのかね?」
「チィッ!」
悔し紛れに事務所のドアを蹴り飛ばしながら立ち去っていく男の後ろ姿に溜飲を下げた。
「ドアの修理費は後で請求しておきましょう」
事務所から男がいなくなり、緊張の解けた希美はソファの背もたれに力なくうなだれた。
俺もなんだかんだ緊張していたので、脱力して溜め息を漏らす。
「これで終わりで、いいのかな……? あの人はお金を払っただけ。なんの社会的制裁も受けないなんて……。ごめん、私も同じ穴のムジナなのに」
「希美、それは言いっこなしだって約束しただろ」
「う、うん。そうだね、ごめんなさい」
調べていくうちに、希美を罠に填めたのは、あの日の女子会を主催した友人の一人であることが発覚している。
希美も加害者ではあるが、そもそもがこの女が我が身可愛さに希美を売り渡した事が、今回の悲劇の始まりだった。
つまりどういうことかというと、その女は自分が解放されるために希美を売ったのだ。
希美は怒っていた。自分も加害者だから何もいう資格はない。だけど許しがたい事だと。
だから罪の清算として、【これから実行する計画】に全面的に協力することを約束させている。
彼女はこれから長い時間をその計画のために身を粉にしなければならない。
恐らくとてつもなく苦しむ筈だ。初めは被害者であるとはいえ、俺達の関係をぐちゃぐちゃにする原因を作った以上、無条件で謝罪を受け入れる訳にはいかない。
そしてその計画とは――――
「先生、大丈夫でしょうか?」
「なーに。心配要りませんよお二人さん。彼の地獄はここからが本番です」
弁護士の先生はニカッと歯を見せるほど笑い、隣の部屋で待機していた誰かを呼び寄せた。
俺達はその人物の話を聞いて、野郎が既に人生を詰んでいることを確信したのだった。
※後書き※
次回から大反撃開始!
事件はクライマックス。ゴミクズ男の制裁が本格的に始まります。
ザマァパートをお楽しみに!
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次のエピソードは明日の7:30です お楽しみに!




