第16話 下劣を煮詰めたようなクズに反撃を開始する
俺達はすぐに行動を開始した。
まず警察に行って強姦の被害届を出そうとしたが、ことはそう簡単ではなかった。
幾度にも渡って希美は自分の意思で相手の元に向かっていることから、お互いの合意があった上でのことだと見なされてしまう。
仮に強姦被害で訴えたとしても、身体に相手の精液が付着していたり等の物的な証拠がないと立証は難しい。
それに加えて事情聴取や現場検証などで根掘り葉掘り警官に聞かれることになるし、事件解決から裁判の決着まで数年かかるのが当たり前だと聞かされて俺達は途方に暮れた。
「ごめんねアッ君……せっかく決心したのに」
「……大丈夫だ。警察が当てにならないなら、違う角度から攻めればいいのさ」
公的な機関が当てにならないなら、人同士の繋がりでなんとかするしか無い。
「違う角度?」
まずは一手。俺は一人の人物に連絡を取り、そこから数日かけて準備を整えた。
◇◇◇
俺達は奴を呼び出し、こんなことはもうやめて欲しいとお願いするという体を装っておく。
「こんな所に呼び出してなんのつもり? 俺、こう見えて忙しいんだわ」
「お話しした通りです。こんな関係はもうやめにしたい」
「ふーん。俺は別にそれでもいいけどねぇ。もしかしてあんたは彼氏?」
「初めまして。俺は希美の彼氏です。お願いします。望まぬ関係を強要するのはやめてください」
「ん~、何の話だろうなぁ。俺はナニもしてないよw」
俺は言葉を尽くして脅迫で希美の体を要求するようなマネはこれ以上やめてほしいと懇願した。
正確にはそういうフリをした。
初めは中々尻尾を出さなかった。
当然だ。自白すれば自分がレイプ犯だと認めることになる。
「どうすれば許してもらえますか?」
「え~、何を言ってるのかなぁ。いきなり呼び出されて訳が分からないなぁ」
それからすっとぼける強姦魔から言質を引き出す為に言語合戦を繰り広げる。
下手に出ながら弱々しく語り、時折怯えて目を逸らしてみせたりする。
根気よく根気よく……それから1時間以上にも及ぶ『強者に怯えたカップル』を装っていると、少しずつ少しずつ、野郎は俺への語尾を強くしていった。
俺は敢えて証拠映像のことを何も言わなかった。
正直、あの映像だけでも証拠能力は十分あると思う。警察が動かなかったのは、単に面倒くさいだけだったのだろう。
俺達が結婚前であることと、希美が進んで奴のところに出向いていることを盾にとられて、暗に泣き寝入りして面倒を起こすなと言われたようなものだ。
この野郎に証拠があることや、強姦被害で訴えるなどの言葉は、敢えて使わなかった。
何故か?
俺の狙いは、弱々しく自分達を演出することで、『こいつらは訴え出る度胸もない。どうとでもなる弱者』であると思わせる事だ。
「お願いします。俺達結婚するんです」
「ふーん♪」
奴の目付きが、いっそう嫌らしいモノになる。
「どうしようかなぁ。希美は自分から望んで俺の所に来てたわけだしぃ。俺達ラブラブだった訳だしねぇ。君の男としての魅力が足りなかったんじゃないのぉ? 俺は一度も強制したことはないんだけどなぁ」
脅迫の証拠もメールの文面として残っているのに。 やっぱりだ。こいつ狡猾ではあるが非常に頭が悪い。
「それは今は問題ではありません。いま話しているのは、あなたと希美との関係を解消する為に、遺恨が残っていては不安だということです」
「ふーん♪」
すると調子に乗り始めた奴は、自分のやったことをドンドン白状し始める。
こちらが弱い立場で、どんどん尻込みして弱気なフリをし始めると、俺を弱者と侮ったのかとうとう自白した。
「つまり~、君の彼女があられもない姿を晒しているところが世の中に出回っちゃったら困るわけだ? そのために俺は《《自分から抱かれにきた女》》との動画を消さなくちゃならないなんて不公平じゃない?」
「それは脅迫ですか?」
「そう聞こえる? 別にそういうことではないんだけどなぁ。君たち結婚してないんでしょ? だったらこれはタイミングの問題であって、俺が責められる謂れはないと思うけど?」
「そんなこと……」
「あれあれ~、さっきまでの強気な態度はどうしたの?」
動画をばら撒くぞと脅してくる奴の言葉に屈したフリをしていると、自分が希美をどんな風によがらせたのか嬉々として語り始めるではないか。
「お前の女良い具合だったぜwww。もう俺無しじゃ生きられないくらいなwww」
ヤツは希美を完全に肉奴隷として堕としたと思い込み、自分無しには生きられない身体になっていたはずと息巻いていた。
「……」
「……」
こちらを煽るように馬鹿にした態度で見下してきた。
だがこれも作戦のうち。こちらが打ち負かされている態度をしていると、奴は調子に乗ってどんどん挑発してきた。
そんな男を、俺たちは何の感慨も湧かないような冷めた気持ちで見ていた。
奴の挑発的で侮辱的な発言は、俺達の心をまったく動かすことはなかった。
正直言って、何の悔しさも湧いてこない。
何故? それは――
「なに? なんにも言い返せないってこと? ウケるww。お前彼女のこと愛してないだろ。何かいってみろよww」
「……」
「希美はどうなの? 俺としては彼氏のいる女を抱くのは心苦しかったんだけどさぁ。自分から抱いて欲しいって懇願してきたよね?」
「……」
「なんか言ったらぁww」
「はっ」
俺は奴に向かって鼻で笑った。
「あ? なにその態度?」
「希美。こいつの言葉を聞いてどう思った?」
俺はわざとこの男に指を差して嘲笑してみせた。
明らかに眉間に皺が寄り、不快感をあらわにする。
「大丈夫、なんの感情も湧いてきません」
「は? なにそれ?ww」
本人を目の前にして分かったことは、例え社会的地位や肉体的条件、セックスのテクニックや経験人数が豊富で、女を簡単に落とせる手練手管を持っていようと、目の前にいるのは人の道に外れた外道。
人間ではない。
希美はそんな男を心底侮蔑した顔で吐き捨てるようにこう告げた。
「この人の言っている事、もう何の感慨も湧いてこないです」
「ああ、そうだな。本当に何も感じない」
能面のように感情の籠もっていない表情は、隣で見ている俺でさえゾッとするほど冷たい。
野郎は俺達が急に態度を変えたことに、明確な不快感を示した。
さて、弱々しいふりはもう終わりだ。
次のエピソードは14:00に更新です。お楽しみに!




