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運命の神の宝石たち9

心配はしていないが、隣のシドを見る。あっけらかんとした顔で石畳の上にゴロゴロと転がっていた。時折、後ろ足で首元を掻いたり、背中を地面に擦り付けたりしている。どうも背中が痒いらしい。


「おっ、背中をかいてやるぞ。近うよれ」


わざと時代劇調の口調で呼びかけると、シドは嬉しそうに尻尾をふりふりと振りながら近づいてきた。


「ありがとうハマー。ちょうど痒かったんだ」


ふわふわな毛並みの背中を指先で優しくかいてやると、シドは気持ちよさそうに前足を伸ばし、小さく喉を鳴らした。その仕草があまりにも愛らしくて、思わず頬が緩む。


「それじゃあそろそろやりますか。シド殿」


「なんでさっきから演技してるの?」


悪乗りはこのくらいにして、そろそろ本題に戻ろうか。


ジェドは信じられないというような目で、呆然とこちらを見つめていた。口をぽかんと開け、まばたきを忘れたかのように固まっている。


「あ、あなたたちは‥‥‥あまりにも低レベル過ぎて、この魔法が効かないようですね」


ジェドの声は震えていた。混乱の中で必死に理屈をつけようとしているのが見て取れる。


「底辺の底辺には、この技が効かないということは……勉強になりました」


支離滅裂な言葉を吐きながら、ジェドは後ずさりを始めた。


「はぁ、俺の——というかシドが、このベビータイガーが、お前の神より圧倒的上位な神だと考えないの?想像力の欠如だな」


その時、珍しくシドが口を挟んできた。普段は戦闘に関してはあまり積極的でないシドが。今日はどうしたのだろう。


「ねぇ、今回はボクにやらせてよ」


シドの瞳に、いつもの人懐っこい光とは違う、どこか懐かしそうな輝きが宿っていた。


「さっきの『幽耀幻縛』だっけ。あれのおかげで、ちょっとだけ思い出しちゃった。ハマー、ここの神の力は別に取り込まなくてもいいよね」


シドの口調は相変わらず軽やかだったが、その奥に秘められた何かを感じ取った。もちろん、人の魂を無暗に利用するような、こんなゴミ神の力などいらない。


「好きにしていいよ。シド」


その言葉を聞くや否や、空気が一変した。


かわいいかわいいベビータイガーが黄金色の光に包まれた。次の瞬間、そこには金髪の美少年が立っていた。腰まで届く絹のような金髪が、見えない風に靡いている。その整った顔立ちは、まさに神々しいという言葉がふさわしかった。


今なら分かる。恐ろしいほどの魔力が、シドの周囲で静かに渦巻いているのが。空気そのものが震え、迷宮の石壁にひび割れが走り始めた。


ジェドの目が驚愕で見開かれる。その瞳に映るのは、理解を超えた畏怖だった。


「あなたは‥‥‥あなた様は!!まさか‥‥‥はか‥‥‥」


「おしゃべりはここら辺にして、消滅して」


 シドの声は、先ほどまでの愛らしさとは打って変わって、冷徹で威厳に満ちていた。


「破壊光線!!」


シドは右手を真っ直ぐジェドに向けて突き出した。その瞬間、突き出した右手から大量の黄金の魔力が奔流となって噴出し、ジェドの全身を包み込んだ。光は眩いばかりに輝き、迷宮全体を黄金色に染め上げた。


「ウビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ」


避けることも、防ぐことも不可能な絶対的な光線がジェドを満たし、その存在を根こそぎ消し去った。後には何も残らない。塵一つ、痕跡一つ残さずに。


その瞬間、それまで苦しみ悶えていたエリオスの表情が穏やかになった。荒い息遣いが落ち着き、若干ぼんやりとしてはいるものの、目の焦点はしっかりと合っている。命に別状はないだろう。


「ついでに、この迷宮も消滅させちゃおう」


シドは振り返ると、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべた。


「大した力も持ってないくせに、万物の力を騙し取るような神は碌なもんじゃないからね」


そう言ってシドは再度破壊光線を迷宮の深部に放った。轟音と共に巨大な穴が穿たれ、迷宮の奥底が抜け、外の世界が現れる。外の世界はもう夜だった。


シドは大穴に向かって両手を広げ、何かを集めるような仕草をした。やがて、双子神が蓄積していた無数の魂の力が、光の粒子となってシドの手の中に収束していく。


集め終わると、シドはその力を迷宮内に散りばめられた宝石に向けて送り込んだ。宝石たちは魔力を受け取ると、一つ、また一つと美しい光へと姿を変え、ゆっくりと天に向かって昇っていく。


無数の光は、この世のものとも思えないほど幻想的で美しかった。色とりどりに輝く光の粒が舞い踊り、やがて空の彼方へと消えていく。それは魂の解放を表す、神聖な光景だった。


「少しでも転生できる人が増えるといいね。そして今度は、幸せな暮らしができるように」


普段のシドらしくない、しみじみとした口調だった。その優しさに触れて、俺も静かに頷いた。


エリオスは何か神妙な面持ちで、昇っていく光をじっと見つめ続けていた。その横顔には、深い思索と、そして希望の光が宿っているように見えた。


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