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神庭のゴーレム7

薄暗いパブの奥で、琥珀色の液体が揺れるジョッキを持ち上げる。久しぶりの酒の味が舌に広がると同時に、胸の奥から沸き上がる熱い感情が全身を駆け抜けていく。アルコールが血管を巡り、頬が火照っていくのを感じながら、自然と口元に笑みが浮かんだ。


「おーとーこだったぁら~」


思わず口ずさんだ歌声が、煙草の煙が立ち込める酒場に響く。周囲の酔客たちも手拍子を打ち、酒場全体が陽気な雰囲気に包まれていく。この開放感、この高揚感──久しく忘れていた感覚だった。だが、ふと我に返る。今は歌に酔いしれている場合ではない。


目的を思い出し、視線を酒場の客たちに向けた。情報収集──それが今夜の真の目的だった。一人、また一人と声をかけていく。多くの者は酒に酔って要領を得ない答えしか返さないが、諦めずに続ける。そして遂に──


「あぁ、それなら見たぞ。」


薄汚れた革の服を着た中年の男が、酒臭い息を吐きながら答える。


「10日前の夜中だったかな。世界樹に向かって、白いオーラを纏った何かが飛んで行くのを見たんだ。あれは確かに人の形をしていたが──」


クラティオス。間違いない。ついに手がかりを掴んだのだ。胸の奥で勝利の鐘が鳴り響く。しかし、その瞬間──酒場の窓から見える世界樹が、突如として真紅に染まった。まるで巨大な炎の柱のように、夜空を赤く染めながら脈動している。その光景に、酒場にいた全ての者が息を呑んだ。


「もう攻略されちゃったみたいだね。早い早い……いきなり赤か。ちょっとまずいかも」


横に立つシドの声が、どこか遠くから聞こえるようだった。世界樹の変化があまりにも突然で、まだ状況を飲み込めずにいる。


「ほら、ハマー、ぼやっとしてないでデイサイド抜いて」


シドの声に現実に引き戻される。確かに、これは危険なパターンだ。パターン赤──何かで聞いたことがあるような気がするが、思い出せない。パチスロならチェリー対応だが‥‥‥使徒ではないことだけは確かだった。


そんな取り留めのない思考の中、腰の神機デイサイドに手をかける。鞘から抜く瞬間、黒い刃が月光を反射してきらりと光った。


「ギョギョッ!!!ギョギョギョーーーーーーーーー!!!!」


デイサイドから聞こえる奇怪な鳴き声に、思わず眉をひそめる。以前よりもさらに魚類系の鳴き声が強調されており、聞いているだけで不快感が込み上げてくる。まるでさかなクンの声真似を大音量で聞かされているようで、嫌悪感は時間と共に増していく一方だった。


「来るよ。打ち消して」


シドの警告と共に、世界樹から無数の火の玉が町に向かって降り注いできた。夜空を埋め尽くすほどの数に、一瞬血の気が引く。


打ち消す?この膨大な数を?どうやって?そもそもデイサイドを実戦で使うのは今回が初めてだ。これまで一度も貫いたことの無い鉾の真価を問われる時が来た。


神力を循環させようと集中するが──何かがおかしい。魔力貯蔵庫から魔力を十全に循環できない。


「シド、魔力貯蔵庫が制限されてるって、解除頼む!」


「またまたー。そんな冗談はいい……ってホントじゃん。ごめんごめん」


シドが舌をちょろりと出してみせる仕草は、ベビータイガーの愛らしさそのものだった。こんな緊急事態でも、そのおっちょこちょいぶりには思わず苦笑してしまう。まあ、今回は許してやろう。


神力が解放された瞬間、デイサイドが共鳴するように振動する。これまで感じたことのない力の流れが全身を駆け抜けていく。


「奥義、必殺究極ファイナル牙突100式!!!!」


剣を天に向かって振り上げ、一気に振り下ろす。その瞬間、デイサイドから放たれる黄金の光が夜空を切り裂いた。


「ギョギョーーーーーーーー!!!!」


デイサイドの鳴き声が、今度は歓喜に満ちて響く。黄金の光は扇状に広がり、降り注ぐ火の玉の大部分を消し去っていく。しかし、全てを防ぐことはできず、残った数十の火の玉が町の外れに向かって落下していく。


そこにいたベリオンに直撃し、巨体が炎に包まれる。皮膚が焦げる匂いが風に乗って届いてきたが、あの巨体なら致命傷にはならないだろう。案の定、ベリオンは立ち上がり、こちらを睨んできているのが分かった。まあ、今は無視するとしよう。


「誰かと思ったら下等生物ではないか」


聞き覚えのある傲慢な声が背後から響く。振り返ると、そこには予想通りの人物が立っていた。ジグル──こちらから探しに行く手間が省けた。


「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」


かつて別の世界で聞いた台詞を、わざと挑発的に投げかける。ジグルの表情が一瞬で変わるのが見て取れた。


「なっ!!!お前‥‥‥道理でその魔力量で神庭の迷宮にいた訳だ。お前も転生者だったんだな」


ジグルの瞳に驚愕と理解の色が混じり合う。そして、すぐに野心的な光を宿し始めた。


「どうだ私と共に行かぬか?この世界をひっくり返し思いのままの世界に変えようじゃないか」


典型的な中二病的発想だった。理想を語る時のジグルの表情は、まるで少年のように輝いているが、その背後にある甘さと未熟さが透けて見える。


「うーん。それの何が楽しいの?」


わざとつまらなそうに答える。


「自分の理想を追い求めることは想像以上に大変だぞ。お前はこの世界で小国だけど王子として生まれ今は王太子な訳だろ。ハンターランク2級もすごいんだろうけど、血筋と地理的要因もあるわけだし。正直言って苦労してないんだよ。こっちに何歳で転生してきたんだよ」


ジグルの顔に動揺の色が浮かぶ。図星だったようだ。


「15歳だ。それが、なんだ。関係無い。こちらの世界ですでに50年は生きている」


計算すると65歳になる。だが、彼の知識や言動を考えると、どこか辻褄が合わない部分がある。まあ、些細なことだ。


「中坊かよ。だから考えが甘ちゃんなんだな」


言葉に込められた冷たさに、ジグルの表情が硬くなる。


「こっちの世界のお前の親父は苦労しただろうな、お前が殺されないように。どうせなら早く死んだ方が良かったかもな」


「ぬかせ。ゴーレムは我の手にある。お前ごときでどうにかできる状況じゃない」


本当に甘い考えの持ち主だった。かつての自分を見ているようで、少しばかり懐かしさすら覚える。世界の中心は自分だと信じ込んでいるから、簡単に足をすくわれるのだ。目立つなら、誰よりも圧倒的な力を持つべきなのに。


その時、世界樹の色が再び変化した。今度は純白の光を放っている。


「キャバやん!!世界樹の方を何とかできない?1対2はちょっときつい!」


「ベリオンだ。それにさっきとちょっと発音が違うぞ」


巨大な体躯に似合わず、細かいことを気にする性格‥‥‥と。


「白の世界樹は殺戮の象徴。我が何とかする」


ベリオンの声に、普段とは違う緊迫感が込められていた。


「キミは本当に性格が悪いな。でも……そうじゃなくちゃ面白くないよね。」


シドの言葉に、思わず笑みがこぼれる。


「それはお互い様だろ。よろしくお願いしますよ創造神様。」


再びデイサイドに魔力を込めながら、これから始まる戦いに思いを馳せる。世界樹の白い光が夜空を照らし、新たな局面の始まりを告げていた。今度はどんな試練が待ち受けているのだろうか。だが、恐れはない。むしろ、血が騒いでいる自分に気づく。


イッツショータイム!!


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