12話 私はキミのことが…
ボツにしようかと思ってた設定だらけ
「山田 政宗です。 趣味は読書で、部活はまだ決めてません。 一年間よろしくおねがいします」
山田君への第一印象は、 嘘ばかりつく人で、 出来る限り近寄りたくないタイプの人間だった。
誰とでも仲良くなれるように努力してきた私だけど、 この人とだけは仲良くなれない。 関わりたくないと、 他人に初めて嫌悪感を抱いた。
嘘をつくのが悪いとは思わない。 自分の為、 他人の為に誰もが嘘はつく。 嘘をつけない人間だと偽る人間も居るぐらいなのだから、 簡単に人を信用出来ないけど、 それでも仲良くなりたい人達とは信頼関係も築きたいと思う。
だからこそ私は、山田 政宗君だけは絶対に信用しない。 山田君は自分以外の人間をちゃんと認識していない。 初めて目が合った時から感じていた違和感の正体を親睦会で西谷君が密かに教えてくれた。
「アイツ、 結局俺の名前一度も呼ばなかったなぁ」
「……一度も?」
「関心が無いんだろーな」
何故か西谷君はあの嘘つきの山田君を気に入っている様子で、 彼の本性にいち早く気づいていたのに悪感情を向けることは無かった。 私が山田君を苦手に思ってることを直感で察したみたいだから、 彼についてさりげなく教えてくれようとしてたのかな。
他人に関心が無い。 つまり、 そもそも相手をちゃんと見ていないから誰が誰なのか理解していないし、 理解しようともしていない。 私と真逆。 私は相手の信用を勝ち取りたいのに、 彼は相手を見てすらもないから信用も何も無い。 理解はしたけど、 それだけなら嫌悪する程でもないから納得は出来ない。 だからその日の夜山田君に電話しちゃったのかな。
「そういえば、 西谷君が明日サッカー部に顔を出すみたいでね? 」
《――誰スか》
「え」
電話の最中にクラスメイトになって親睦会に来てくれたメンバーを中心に名前を出して、 どんな反応をするか試してみたけどまるで知らぬ存ぜぬとばかりに無反応。 ……そんな中、唯一反応したのが西谷君だったけど、 それでも誰か分からないという反応。
あんなに話しかけてくれて仲良くなろうとしてくれた西谷君に失礼過ぎないかなって思ったけど、 逆かな。 そんな西谷君だったから、 無意識に反応しちゃったのかもしれない。
他人の名前が覚えられない人が存在するのは知っている。 過去のショックな出来事で精神的なことで脳に異常がある人に特に起こる特殊な症状だと思ってるけど、 山田君はそれとは少し違う。
山田君は覚えられないんじゃなくて、 覚えようとしないだけ。
他人に興味が無くてどうでもいいから。
他人を初めから信用する気がないからそもそもの関心が無い。 だから私は彼を信用出来ないと思った。
――ムカつく。
明るくて、優しくて、可愛くて、美しくて、親切で、癒しになって、魅力的で、憧れの人であるべき存在が松原 詩音。
そんな私が抱いてしまった悪感情の正体は不快から来る怒りに似た醜い感情。 どうしよくもなく彼に腹立たしい。
彼は松原 詩音に関心が無い。
私が近寄っても照れないし、 上目遣いしてさりげなく胸を強調させてみてもずっと目が合ったまま。 お父さん以外だと本当に珍しい男の子だと思ったけど、 この人は私を見てるようで見ていなかった。 その目には誰も映っていない。 現実から目を逸らしてる。 暗い闇の世界。
直視していられない残酷な世界から逃げ出そうと必死にもがいて他人との関わりを極力避けてる男の子。
「私を見て」
私を見てよ。 松原 詩音は凄いんだよ。 誰よりも愛されて、 誰にでも愛を与えるの。 今まで本当に苦しんだのかもしれない。 けど、 これからは私が居る。 私が幸せな思い出を一緒に作ってあげる。
だから頑張ろうよ。 私も頑張ってキミとも友達になって信用出来るようにするから。 嘘まみれで隠された本性を晒しても大丈夫な空間を作ってあげるから。
企画係 四名
山田 政宗
竜胆 廻
覇導 優
鷺宮 忍
……が、 頑張るから! クラスで浮いてる四人であり、 寄りにもよって四人とも全員私自身もあまり仲を深められてないような人達で集まっちゃったけどなんとか頑張るっ。 だから山田君、 授業はちゃんと受けようね?
「五時間目はちゃんと授業受けること! 約束ね」
「了解」
――本当に、 嘘つきなんだから。
堂々と約束破られたことに勿論怒ったしがっかりもした。 けどそれは他のクラスメイトから竜胆君に呼び出されて何処かに行ったから喧嘩かと思って焦ったけど、 竜胆君も何故か付いて行ってた五時間目始まるギリギリ前に戻ってきた西谷君にも喧嘩じゃないと教えてもらってる。 両方とも嘘はついてる様子もなかったけど、 西谷君の方は何か知ってそうな雰囲気だった。
そんなはずはないのに、 何故か西谷君には私の隠してる本性や感情の一部分を悟られてる気がしている。 西谷君は異常な程に勘が鋭いから気をつけてるのにあっさりと見抜かれてるようで少し苦手かもしれない。
普通に仲良くて友達だから信用していいと思うしバラされる心配なんてしてないけど、 不安になることには違いない。
「山田君、 六時間もサボる気かな〜? これはお説教しなきゃねっ」
竜胆君の時はともかく、 つい先程とはいえ学級委員になったからには松原 詩音ならクラスメイトの為を思って行動し、 時には怒ってでも注意してあげなくてはいけない。 ただ優しいだけじゃ優柔不断でいざという時に頼れない存在になってしまうから。
「あまり怒んないでやってよ松原ちゃん」
「えっ? 」
「政宗には多分、 必要な時間なんだよ」
よく分からなくて詳しく聞こうとしたけど、 西谷君はそれきり山田君の話題には触れず、 他の友達とサッカーの話で盛り上がっていた。
必要な時間って何? 一体何があったの。 ……何で西谷君はそんなに嬉しそうなの?
凄く気になったし、 元々今日は山田君の為に時間を使うつもりで一緒に帰る方法を探していた。 流石に毎日一緒に帰るつもりは無いし、 恋愛感情なんて無い。 私は松原 詩音だから周りに平等でなければならず、 偶然最初に距離を縮めようとしたのが山田君だったというだけ。
お説教ついでに、 放課後はお昼時間についてだったり彼自身についてだったり色々知れればいいと思う。
……しかし遅い。 放課後になって教室にはもう既に私だけ。 スクールバッグを置いて帰ることは無いだろうから一度教室に寄ってから帰ると思って敢えて山田君の席に座って出入口を見張っていたけど、 まさか帰っちゃったのかな。 メールしたのに既読にならないのは何でよ。 ちょっと傷ついた。
「げっ! 」
下校時間過ぎてそろそろ帰らなきゃ怒られるからって思ってた時にやっと来たとジト目で見てたら、 なんて失礼な態度! キミ、 前から思ってたけど猫かぶるならもっと上手くやりなよ。 私のようにとは言わないけどもう少しやりようはあると思うよ? でもそんな時は無表情が崩れて表情豊かになるからちゃんと人間なんだって知れて嬉しかったかな。 直ぐ無表情に戻るけど。
「随分遅かったね〜」
「こ、 こんばんは…? 」
うんうん。 まだ日没じゃないからこんにちはでもいいけどね? こんなに待たされて、 夕日が窓から差し込まれてたら勘違いするよねー。 ずっっと待ってたし連絡もしたのにねー? おかしいな、 今私ニコニコと笑顔で接してるはずなのに少し怯えてるように見えちゃうなぁなんでだろー。
「ご、 ごめんなさい」
「別にいいけどさぁー」
「いや、 えっと、 約束破ったことも待たせたこともだけど……嘘ついてごめん」
「……え? 」
ちゃんと、 目が合った。
この数時間で何が起きたの? 別人とまではいかない、 本当に微かではあるけれど、 確かに目の奥に光がある。 この人は今、 私を見てる。 ……どっちなの? 今キミは、 松原 詩音を見てるの? それとも、 私を見てるの?
「――何のことかな」
「……なんでもないです」
咄嗟に隠したけど、 バレてるよね。 西谷君の直感も侮れないけど、 やっぱりキミもなんだよね。 キミも、私と同じような目を持ってる。 以前までなら何となく分析して己の物差しで勝手に他人を測るだけで知った気になってるだけで勿体ないと思っていたのに、 今の山田君は違う。
――気を抜けば、 全部見透かされるかもしれない。 同じだ。 この人は今、 私を知ろうとしてくれている。 関心をちゃんと向けている。 山田君の中で有象無象だった衆ではなく、 私個人に興味を向けている。 私にとっては些細な一歩でも、 彼にとっては大きな一歩。
「帰ろっか」
「……あっ、 はい」
お説教されると思ってたからか、 目を丸くして驚いてるのが少し面白かった。 ……本当は私なりに頑張ってお説教するつもりだったけど、 彼はもう大丈夫だと分かってしまったから、 無駄に疲れることはしない。 間違っても、 私に関心を向けてくれたことが嬉しかったわけじゃないもん。 間違いなく西谷君と何かあったからだろうし、 私何もしてないし。 ……でも、 なんか複雑かも。
「企画係のことはさ、 私や西谷君も手伝うし、 皆の行事なんだから。 山田君達四人に全部押し付けるなんてことはしないよ」
「分かってますよ。 それでも、 僕に出来ることはやるつもりです。 ……あまり目立たない程度は」
す、 凄い前向きに考えてて感心したのに最後ので台無しだよ。 山田君らしいとは思うけど。
目立ちたくないと思うのに矛盾した行動ばかりしてるから、 昔から結構不器用で存在自体が目立つ方だったのかな。 キミ、 今問題児トリオの一人に数えられてるんだよね。 最初から素の状態だった方が目立たなかったかもなんて思うけど、 今の山田君の在り方は少し面白いから指摘はしない。
「大変だよ? 」
その在り方は。
「――松原さん程じゃないから」
「えっ」
本当に一瞬だったけど、 山田君は笑ってた。 私の名前を呼んで、 私に敬意を含んだ柔らかな目で見つめてくれた。 わ、 私に惚れちゃったのかな。 そんなことないよね。 で、 でも……なんか嬉しいから、 まあいっか。
でもさ、 最寄り駅の改札で別れた後に少しして振り返ったら駅の外に出て行ってたのはさぁ〜。
……歩き通学だったんならちゃんと言ってよぉ。
そういう所はまだ少しムカつくもんね! ぷいっ。
私の方がなんか子供みたいでムカムカしたから周りの目なんて気にしないでその後何度もキミにちょっかいかけてみることにした。 私がこんなに誰かを特別扱いのようにして接してるのは本当に初めてのことで、 自分で言うのも変だけど、 もっと喜んでいいと思うのに少し嫌な感じ出すのはいただけない。
こんなの松原 詩音らしくないって分かっていたのに、 キミの嫌がることをしてみたくなっちゃったから、 わざと部活のことを聞いてみた。 西谷君が面白がってくれれば手助けしてくれると思って二人揃ってる時に。
「えっと……ですね――」
「うんうん」
焦っていたのか「察しろよ……」みたいな顔して本性でかかってていて心の中でクスクス笑っちゃった。 私意地悪だなぁって思ったけど、 こんな私にさせた山田君が悪いんだからっ。
誰に聞いたのか、 後からお姉さんと知ったけどとても面白そうな部活を紹介してくれた。 有難いことに、 私が関わったことの無い進学クラスのとびきり優秀で美人な先輩が部長をする部活で、 直ぐに友達になれて本当に嬉しかった。
しかも先輩の妹さんは私がどうやって仲良くなろうかと困っていた鷺宮 忍ちゃん。 私より細いのに私以上の豊満な胸部をお持ちで密かに戦慄してた。 何時も猫背のせいで分かりにくいけど、 忍ちゃんが自分の魅力に気づいて最大限に生かせれば山田君でもイチコロだねっ。 ……ちょっとムカムカ。
山田君は聖奈ちゃんのようなモデルのようなすらっとした人がタイプなのか、 それとも私や忍ちゃんのような肉付きが良い方がタイプなのか……ど、 どっちでもいいけどね私には関係無いし!?
「山田君話聞いてる? 」
「勿論です」
はい嘘! なんで私こんな嘘つきの人を気にしてるんだろう。 ……でも、 第一印象の時程嫌悪感は無いし、 これくらいの軽い嘘は全然ありふれていて、 日常的で、 それを楽しんでる自分が居る。
私は、 私が嫌い。 だから松原 詩音になることにした。 誰もが認める、 松原 詩音の在り方を。
――あぁ……そっか。
周りに知って欲しくて嘘をつく私。
周りに知られたくなくて演じる彼。
同族嫌悪だったんだ。 なのに彼はあっさりと前を向き始めてる。 なのに私は何も変わっていない。 未だに過去から逃げてる。
「山田 政宗君」
キミを知りたい。 キミの在り方を否定したあげたい。 私の生き方は間違っていないんだと知らしめてやりたい。 …でも、 もし、 もしキミの在り方も正しいと分からされちゃったら――
「責任、 取ってね」
こんな私でも、 人を好きになれたりするのかなぁ。
……えへへ。
感想、 本当に嬉しかったです。
ありがとうございました!
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