第五十二話 リベンジマッチ
「伏島! 私が五本の刀をどうにかする! 残りの一本と本人は任せたっ!」
「はいっ!」
返事と同時に走りだし、危険察知の反応を硬質化した右腕で刀を往なしながら戸岐に近づく。今の俺は左腕が無い。その代わりに残された硬質化を生かすには無理矢理にでも近接戦に持ち込まないと!
「させるか!」
そんな俺を対処しようと、宙に浮かんだ六つの刃先がこちらを向く! だが、危険察知は一本分しか反応しない。なぜなら……。
「させるか? そりゃコッチの台詞だな!」
「チッ!」
先輩が薙ぎ払ったおかげで薄くなった攻撃を難なく躱し、一気に懐まで入り込む!
「喰らえ!」
「クッ!」
思いっきり振り下ろした右腕は、再び刀で防がれる。
「まだまだっ!」
前回避けられたのを反省し、溜めること無く電撃を放つ!
「アガっ!」
「よし!」
溜めがない電撃は威力こそ低いが、それでも相手の行動が痛みからか一瞬鈍る! その一瞬があれば……。
「伏島! よくやった! 後は私に任せろ!」
浮遊する刀の動きが鈍った一瞬、先輩はその内の一つを握り、戸岐のもとに突っ込む!
「この……っ!」
「わざわざ武器をくれるなんて、随分と優しいなぁ! オラオラオラオラァ!」
「舐めるなっ!」
俺と立ち位置をスイッチした先輩は、空中の五本、戸岐が持っている一本。計六本の刀を奪い取った刀で捌く。しかし、刀を得たからと言って手数が増える訳でもなく、じりじりと先輩が劣勢になっていく。
「うおっ! あっぶね!」
「ハハハハッ! 確かにお前はよく動けるな。だが、少し動ける程度でなんとか出来る程、私の攻撃は甘くないっ!」
「こんの……っ!」
空中に居るいくつかの刀が先輩の刀を挟み込み、その動きを捉える。先輩は刀を手放し、再び回避行動に移る。少しでもその助けになろうと電撃を放つが……
「クソッ!」
「お前の対応も忘れていないぞ? 伏島優!」
たった一本の刀がその電撃を受け止め、そのまま俺に向かって飛来してくる!
「クッ!」
飛来してきた刀を弾いた直後、俺の背中を突き刺すように危険感知が反応する。
「このっ!」
慌てて横に飛び退くと、俺が元居た所を通り過ぎ、そのまま地面に刀が刺さる。
「今のも避けるか……。何か攻撃を感知する種類の心力でも−−」
「おいおい! コッチの対応がだいぶお留守になってるぜ?」
「チッ!」
脳天めがけて振り下ろされた踵を刀で受けようとした戸岐。しかし足が刀に差し掛かる直前、体勢を変えた先輩が真っ赤に染まった脇腹に拳を振るう!
「グオッ!」
(入った! 伏島の能力を見極めるためにコイツの刀の内二本が伏島に使われてる。今なら攻撃の密度は薄い! 次のチャンスがいつ来るか分からない以上、ここで倒し切る!)
「オラオラオラオラオラァ!」
痛みで怯んだ一瞬の隙を見逃さず、先輩は大量の拳を叩き込む!
「終わりだっ!」
最後に手近なところにあった刀を手にし、そのまま薙ぎ払う!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
「殺さない様にしたとはいえ、筋肉は斬った。これ以上はもう動け−−」
「フッ!」
「おいおいっ! それで動けんのはおかしいだろっ!?」
油断しきった先輩の裏をかくように刀が一閃する。その予想外の攻撃には、いくら身体能力に優れていると言える先輩といえど避けきる事は出来ず。その腹部に赤い線がうっすらと滲む。
「先輩っ!」
「そんなに気にすんな。まだ全然動ける。あ〜……でも服はダメになっちまったな」
「すみません。完全に油断してました」
「そりゃ私も同じだからしょうがない。だけど……私の攻撃が通ってないってのは納得が行かねぇな」
「え?」
先輩の視線の先を追うと、確かに戸岐の体は怪我こそしているものの、刀で斬られたような傷跡はなかった。
「とりあえず、これでの攻撃は止めた方が良いな。またさっきみたいに攻撃スカされてカウンターされたら危ねぇし。ってな訳で、コイツは返してやるよ!」
「無駄だ」
戸岐に向かって放り投げられた刀。だが、それは戸岐の言葉通り、見えない何かに弾かれたように、こちらに向かって来る。
「うん。やっぱりそうだな」
「何か分かりました?」
「ああ。斬ってて思ってたんだが、アイツの能力は−−」
「話させると思うか?」
「チッ!」
寸での所で刀を回避、または刀で弾き、反撃を狙う先輩。だが、すべての刀が先輩を斬りつけているため、中々上手くは行かない。
「伏島! コイツの能力は磁力の操作だ! さっき斬りあった時、微妙に刀が引っ張られる感じがした! 最後に私が斬った時、絶対に当たるはずの間合いで当たらなかったのは、磁力を反発させて体を自動で動かしたからだ!」
「チッ!」
手の内を知られたからだろうか。戸岐は忌々しそうに舌打ちをする。
「ハハハっ! イラついてら! 図星か? ……おっと」
楽しそうに笑う先輩とは対照的に、冷静に先輩の頭部に刀を振り下ろす。先輩はその刀を器用に白刃取りの要領で防ぐ先輩。
「ああ。そうだ。だが、それが分かった所で何になる?」
「さあな。ところで、私が持っていた刀は一体どこにあると思う?」
「……まさか!」
「オッラァ!」
戸岐が驚くとよりも早く、刀を思いっきりぶん投げる。先輩が俺に刀を渡してくれてから、先輩は戸岐の背中が俺の方に向くように誘導していた。刀が先輩の元に動くように磁力が操作された瞬間、三人の位置関係が一直線上にあるなら!
「アガっ!」
「よっしゃ!」
磁力を利用して、刀を戸岐にぶっ刺す事が出来る!
「オラオラオラオラオラァ! 伏島も攻撃しろ!」
「ハイっ! 『贋神顕現《黒雷》』」
ギリギリまで取っておいた必殺技。俺の魂の総量ならそこまで問題にもならないらしいが、それでも普通よりも消耗が激しいこの技を、絶好の攻撃チャンスである今、叩き込む!
(掛かった!)
「……っ! 先輩!」
「あっ?」
何か忘れているような、そんな嫌な感覚。それを自覚し、先輩を呼びかけると同時に黒い光が俺の意思に反して曲がり、先輩の体を貫く!
「あ……が……」
苦しそうに声を漏らしながら先輩の体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「先輩!」
「ハハハハハッ! 気づかなかったのか? 私の能力はこの女が言っていた通り、磁力の操作だ! お前らが利用したように、狙った所に磁力を発生させる事で刀を移動させたり、自分に磁性を与えることで自由に移動が出来る! お前が放つ電撃は基本的に普通の稲妻と同じ性質を持つ! ならば……お前の切り札の電撃も……私の手中にあるとは思わなかったのか?」
「うるせえよ……」
「ハッハッハッハ! 能力を利用されると分かって居ても突っ込んでくるか!」
「……黙れ」
戸岐が持っている刀と鍔迫り合いしつつ、黒雷を枝分かれさせて戸岐に向かわせる。
(能力を途切れさせるな! 左手も無い今の俺じゃ圧倒的に手数が足りない! 無理にでも手数を増やせ! 利用されるなら、それ以上の数の電撃を作り出せ!)
「そんな事も出来るのか!? だが良いのか? それでは私の武器が増えるだけだぞ?」
「強がるなよ……。お前の能力、同時に多くは使えないだろ? さっきから防御が……雑になってるぞ!」
電撃の対処に意識を割かれ、薄くなった刀の壁を突き破り、そのまま硬質化した右腕を顔面に叩き込む!
「うごっ!」
「……ふぅ」
情けないうめき声を上げながら、戸岐は動かなくなる。そのすぐ側まで歩み寄り、黒い火花を指先に溜める。今回は心力で倒していない。このままだと起きた時にまた心力が使われ−−
「こんな簡単な罠に引っかかるとは。気づかなかったか? 反撃に使われた電撃の数が少なかったことに」
「なっ!」
戸岐の手の平の中で黒く光る火花。それが一直線に俺に向かってくる! 俺の体を黒雷が貫いた瞬間、足に力が入らなくなり、体が言うことを聞かなくなる。
「……随分とタフだな」
「それだけが……取り柄なモンでな」
「まぁ良い。今のお前に動けるだけの余裕も無い。大人しく死んでもらおう」
「そう大人しく死ぬと思ったか?」
「チッ!」
大量の電撃を放ち、意識をそっちに割かせる。その間に、少しでも距離を取る。
「この死にぞこないが……」
「その死にぞこないを殺すのに手間取ってるのは、どこのどいつなんだろうな?」
「…………」
苛ついたように刀をこちらに飛ばしてくるが、電撃に意識を割いている以上、避けることはそこまで難しくは無い。問題は、どうやって攻撃を通すかって所だ。相手を無力化させるのに一番向いているのは電撃だが、その主導権は簡単に相手に奪われる。だからと言って俺が殴った所で意識を奪えるかって言うと、微妙だ。本当にどうしたら……
「どうした! 動きが疎かになっているぞ!」
「チッ」
刀を腕で受け止め電撃を放とうとした瞬間−−
「なんだ?」
地面が大きく揺れだした。チャンスだ! アイツの意識が逸れた! この電撃を直接アイツに……。
「うおっ!」
当てようと思った所で、地面が更に大きく揺れ、二人の体勢が崩れる。直後、天井が落ちてくる。
「あ〜もうっ! しっつこい! 渚! さっさとアイツ殺しちゃって!」
「そう……軽々しく言うな。アイツ……かなり手強い」
「随分と嬉しい事を言ってくれるな。『心力模倣《電撃》』」
そこから落ちてくる二人と……左腕。
「ナナシ?」
「なんだ。結構落ちてきたらしいな。ちょうど良い。戻るぞ。スグル」
「うおっ!」
近づいてきたナナシが、俺の左腕とドッキングする。
「戦況はどうだ?」
「戸岐は大分弱らせたけど、先輩とサイは戦闘不能。そして、俺の能力が微妙に戸岐との相性が悪くって苦戦してる」
「……死者が出ていないなら十分か」
「それで、今落ちてきた二人は?」
「一人はこの飛行船の主、機械を操作する心力使いだ。そしてもう一人は……」
「? どうした?」
珍しく口ごもるナナシに首をかしげる。
「アイツは、魔法使いだ」
個人的な事情により、小説の執筆に時間を取れなくなってしまいました。そのため、次の投降まで一年ほど猶予をいただきたいと思います。ぜひ、ブックマーク等をして、お待ち下さい




