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第四十三話 夏祭り その一

「はぁ……」

「……」

「はぁ……」

「……」



 昼食を適当に済まし、午後二時位を超えた頃、悠香がわざとらしくため息をつく。しかし、どうせろくでもない事なのは分かりきっているので、俺はそれを華麗にスルー。



「……」

「……」

「はぁ〜〜〜!」

「……」



 悠香を無視しながらパソコンで動画を見ていると、更に一段階大きなため息。なんだコイツ? 何か用があるのなら普通に話せばいいのに。そんなことを思っていると、悠香が苛立ったように低い声で話しかけてくる。



「おい」

「どうした?」

「何無視してんだよ」

「……無視?」

「何『俺無視なんてしてませんけど〜?』みたいな顔してんの!? 絶対気づいてたでしょ!」

「はぁ……。それで? どうしたんだ?」

「うわぁ〜……。そのため息は無いわ〜。こんな可愛い幼馴染とお話出来るのにそのため息は無いわ〜」

「お前を無視しても良いんだぞ」

「はい。スミマセン」



 ……コイツのこのいい加減な性格はどうにかならないのだろうか? 思わずため息をつきながら、気を取り直して悠香に聞き直す。



「それで? どうしたんだ?」

「……お祭り行きたい」

「祭り?」

「うん……。だって今日だよ? 白犬祭」

「あ〜……今日か……」



 悠香の言葉を聞き、カレンダーを見て、納得。最近はナナシだったり、心力使いだったりに巻き込まれてたせいですっかり忘れていた。


 白犬祭。それは現在巻き起こっている白犬神伝承を元にしたお祭りだ。地元に住んでいる俺からするとあまり実感は沸かないが結構由緒正しい祭りらしく、その歴史は室町時代まで遡るらしい。今まで現れた心力使いを祀り、無事に伝承を迎えられるよう願う祭りらしい。……実際に心力使いになった今、心力使いを祀る祭りに参加するのはなんだか不思議な感じがする。



「良いぞ。いつから行く?」

「えっ! 良いの!?」



 ベッドでウジウジとしていた悠香は、俺の返事を聞くと、ガバっと起き上がり、キラキラとした表情で俺に聞き返す。



「ああ。良いぞ。っていうか何に驚いてるんだ?」

「だってスグ兄……お祭りとかそういう騒がしいところそんなに好きじゃないっていうか……嫌いなタイプじゃない? 基本スグ兄ってボッチだし」

「ぶっ飛ばすぞ」

「だってさ! スグ兄私以外にまともな友達居なかったじゃん! 最近はなんか心力関係のおかげで増えてるかもしれないけどさ!」



 なんだ。基本ボッチって。ひどい偏見にも程がある。俺にだって友達の一人や二人くらい……。まずい。響也以外に思い当たる節が無い。



「……」

「ほら見ろ〜! スグ兄やっぱりボッチなんじゃん!」

「う、うるせぇ! お前も大体そんな感じだろ! お前すぐ俺の家に遊びに来るじゃねぇか!」

「しっつれいな! 私にだって友達位居ます〜! ただまだ数ヶ月しか経ってないからそんなに仲良くなってないだけです〜!」

「あんまり変わんねぇじゃねぇか!」

「……」

「……」



 お互いに大声で言い合いした後、二人共黙りこくる。



「止めるか。この話」

「そ、そうだね……」



 何もわざわざお互いの悩みの部分を直接殴り合う必要もない。



「とにかく! 今日は一緒に祭りに行くってことで良いんだな?」

「うん! 私準備してくるから一旦帰るね!」



 バタバタと立ち上がり、自分の荷物を持って玄関へと走っていく悠香。



「バイバ〜イ! また後でね!」

「ああ」



 ドアから顔を覗かせながらそう言い、悠香は家を出ていった。そして俺の頭の中を一つの疑問が浮かぶ。



「……何時に何処集合なんだ?」







「スグ兄〜!」

「お、来た」



 あの後、悠香からの連絡で六時に駅前集合と言われ、約束通りに待っていると、俺を呼ぶ悠香の声が聞こえる。声のする方に顔を向けると、いつも顔を合わせている悠香の姿が。しかし、その服装はいつもとはまるで違った。クリーム色のおとなしい生地にところどころ染められた赤い金魚が目に眩しい。悠香の服装、それは夏祭りの定番、浴衣だった。



「ふっふ〜ん! どう? 似合ってるでしょ〜!」

「はいはい。ソーデスネ」

「う〜わっ。何その返事、う〜わっ」



 悠香はドン引きしたような表情で俺を非難してくる。



「なんだよ……。ちゃんと褒めただろ……」

「本気で言ってる? 今のが人を褒めてることになったら喧嘩中の言葉も全部褒め言葉になるよ?」

「うるせぇなぁ……。別に今更俺に褒められても嬉しくないだろ……」

「はぁ〜? そんな事言って良いんですか〜?」

「……なんだよ」

「多分そろそろ来るよ?」

「え?」



 来る? 誰が? そんなことを思っていると遠くから昨日も聞いた声が走ってきた。



「悠香ちゃ〜ん! 待って〜!」

「小清水?」

「YES! どうせだから誘ってみました〜!」

「ハァ……。ハァ……。こ、こんにちは……。伏島君」



 悠香の後を追いつこうと必死に走ってきた小清水。その服装も悠香と同じ浴衣だった。



「……」

「伏島君?」



 悠香とは違う淡い水色の生地。その中を優雅に泳ぐ人魚。しかし、俺の目を引いたのはそのどれでもなく……浴衣に強調された小清水の胸だった。えっ? デッカ! 元々デカいとは思ってたけど浴衣の帯に強調されてすげぇデカく……



「何普通に見惚れてんだ馬鹿野郎!」

「痛ぇっ!」



 悠香に思いっきり頭を叩かれ、我に返る。お、俺は何を……?



「分かりやすい位に目を奪われやがって! このエロ! スケベ! 変態!」

「う、うるせぇ!」

「ふ、二人共なんの話? 何かあったの?」



 俺と悠香が急に口喧嘩を始めたことに、困惑した様子を隠せずにいる小清水。どうやら急いでこちらまで走ってきた影響で、俺の視線には気づかなかったらしい。良かった……。



「うっそ……。この先輩鈍感すぎる……。先輩? 今スグ兄は先輩の--フガッ!」

「そ、そんなことより! 早く祭りの会場に行こうぜ? もう大分混んでくる時間だろ?」



 折角小清水が気づかなかったであろう事実を悠香が暴露しようとしていたので、慌ててその口を塞ぐ。



「? そうだね。混んじゃうとはぐれやすくなっちゃうし、少し急いじゃおっか」

「ああ! 行こう、行こう!」



 なんとか小清水の意識を祭りに向けることに成功し、なんとか胸を撫で下ろす。そして悠香にズイッと顔を近づける。



「おい。悠香? お前何暴露しようとしてるんだ?」

「そりゃスグ兄の性癖と悪行ですよ〜。このままじゃあ先輩の純潔がスグ兄に奪われちゃう」

「そんな事しねぇよ! 分かってんのか? 小清水にとって男は怖い存在なんだぞ? 折角仲良くなったと思った奴にそういう視線で見られたら嫌だろ! 頼むから黙っててくれ!」

「え〜どうしようかな〜?」



 俺が懇願すると、悠香は下卑た目で悩む素振りを見せる。クッソ! コイツ……!



「クッ!」



 俺は渋々財布の中から二人の野口さんを取り出し、悠香の手に握らせる。



「頼むっ! これで許してくれっ!」

「フムフムフム……。あ〜。私何かスグ兄の何か重大な秘密見ちゃった気がするけど忘れちゃったな〜! なんだったっけな〜」

「お前のそういう現金な所、治したほうが良いと思うぞ」

「あ〜。思い出しそうだな〜! 何を見たのか思い出しそうだな〜!」



 俺が思わず苦言を呈すと悠香は白々しくそんなことを言う。



「分かった! 分かった! もう何も言わんから忘れてくれ!」

「オッケー! それじゃあ、さっさと屋台に行こ!」



 そのまま悠香は俺の元から走っていく。……本当に現金な奴だ。



「伏島く〜ん! どうしたの〜? 早く行こうよ〜!」

「分かった〜! 今行く〜」



 楽しそうに俺のことを呼ぶ小清水。まぁ……二千円であの笑顔が守られたなら、安いものかもしれない。





「ふぅ……。大分買ったな……」

「ね。全部美味しそうだから、思わず一杯買っちゃった」

「ふっふ〜ん! 二千円もあると財布の潤いが違うね〜!」

「二千円? 何かあったの?」

「小清水先輩は気にしないでください! それよりもどっか座る場所探しましょうよ。こんなに持ってると何も食べられませんし」

「そうだね。確かこっちの方に座れる場所があったと思うんだけど……」



 小清水についていくと、チラホラと人がいる公園に到着する。



「あ、あったあった。ほら、ここならベンチもあるし、座れるでしょ?」

「そうだな……っていうかここは人少ないんだな」

「うん。ここは白犬神社からは少し遠いからガッツリお祭りを楽しみたいって人はあんまり来ないの」

「へ〜。結構詳しいんだな。もしかして毎年来てるのか?」

「そうだよ。ここのお祭りはお父さんの会社も出資してるから。ここはお父さんの仕事の成果が見える数少ない場所でもあるの」



 なんだか嬉しそうに話す小清水。その視線は、公園で楽しそうに過ごしているお祭り参加者に向けられている。



「すごいお父さんだよな。社長とか俺にはもう想像も出来ねぇや」

「うん。自慢のお父さんだよ。ノブレス・オブリージュって言うの? 何かを手に入れたらそれには責任が伴う。だけど、その責任を負うことが出来ることが俺の誇りだって。だから、その責任を疎かにしたりは絶対しないって」

「なんか……カッコいい事言ってるな」

「フフッ。お祖父さんの受け売りらしいけどね」

「あれ? 赤城グループって……」

「うん。お祖父さんが作った会社だよ。一族経営みたいな物かな?」



 まさに上級階級と言った風な家族構成だ。そんな家族の中で伝えられてる言葉……。



「なんか家訓みたい!」



 俺と同じ考えに至ったのだろう。悠香がそんなことを言う。



「そう? 悠香ちゃんの家はそういうの無い?」

「はい。せいぜい家族には嘘はつかない位?」

「フフッ。素敵な家訓だね」



 小清水の言葉に楽しそうに笑う。……コイツが結構嘘をついているって事は黙っておこう。



「まあね。そんな事はどうでも良いんですよ。今はお祭りなんですから、喋ってないでさっさと食べきっちゃいましょう!」

「あっ、そうだね。どれから食べようかな……」

「あ、先輩。それならこれ、あげますよ? プレゼントです」

「え? ありがとう!」



 そう言うと、小清水は悠香から渡されたフランクフルトを受け取る。そんな、二人のやり取りに少しの違和感。



「それで……一個だけお願いがあるんですけど……」

「?」



 やっぱりだ。悠香がなんの理由も無しに誰かに物を渡すわけが無い。そう思っていると、悠香がこちらをチラッと見て、ウィンクする。なんだ?



「これ食べながら熱くて……おっきい……。って言ってください! 出来るだけ吐息を混ぜながら、っていうか吐息重視で!」

「えっ? えっ? えっ?」

「ほらっ! 早く早く〜!」

「う、うん……。ハフッ、ハフッ!」



 買ったばかりのフランクフルトが熱かったのだろう。息を吐きながら……。



「あ、熱くて……おっきい……。これで良い?」

「スグ兄。どうっすか?」

「悠香……」

「はい!」

「よくやった。後で好きな物一つ奢ってやる!」

「やったぜオラァ!」

「えっ? えっ? えっ?」

「じゃあ先輩? 次はチョコバナナで同じ事言ってください! アタッ!」



 小清水に更に詰め寄る悠香の頭を叩く。



「ちょっと! なにすんのさ!」

「調子に乗りすぎだ。少しは加減を考えろ」

「は〜い……」

「?」

「よし、それじゃ、本格的に食べていくとするか」

「は〜い! うひょ〜! たこ焼きおいしそ〜! ほらっ! 先輩もさっさと食べましょ」

「えっ? う、うん! そうだね!」



 そうして俺たちは夏祭りの一幕を楽しんでいった。

良ければ、ブックマーク、高評価、等々よろしくおねがいします。


一応悠香の名誉のために言っておきますが、悠香は別に優からのお金が無くても、小清水に優の態度をバラすつもりはありませんでした。

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