表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/52

第四十一話 解決

次回は9月19日午後七時投稿予定です!

「……マジかよ」



 体が真っ二つに切断され、ドロドロに溶けていく剣崎たちを目にしながら思わず呟く。


 え? 何あの動き。俺があんなに苦戦した剣崎達、それも心力が強化されていた状態だ。それをあんな一瞬で……。



「ん? どうかしたか? 伏島」

「あ、いえ……なんでも無いです……」

「そうか?」


 戦々恐々としている俺の気持ちなんてつゆ知らず、大門さんは勝浦の固定が外されたおかげで動くようになった湯ノ花を担ぎ上げる。



「そんでお前は……まずは病院だな。それだけ重症だと後遺症が残りかねん。あ〜っと……」

「一ノ瀬悠香です」



 目を宙に彷徨わせながら悩む大門さん。そういえばこの二人は初対面だったなと思い、悠香の名前を伝える。



「一ノ瀬は小清水に運んでもらえ。しばらくしたら満が車を持ってくるはずだ。それで二人共連れてってもらえ。俺は先に警察署にコイツを連れてっていく」

「はい……。分かりました……」



 言いながら仰向けに倒れる。流石に今回のは疲れた……。地面の氷がひんやりと気持ちいい。



「……今はアドレナリンだかがドバドバ出ててそんなに痛くないだろうが、そのうちどんどん痛くなってくるだろうから頑張れよ」

「えっ!?」

「それじゃあな」

「ちょっ……」



 最後に恐ろしい事を言い残しながら、大門さんは走り出していた。



「えぇぇ……」



 湯ノ花に付けられた傷口を見ながら戦慄する。……これだけの傷だ。まともに痛みだしたらどれほど恐ろしいだろうか。



「スグル! 大丈夫か! 状況はどうなってる!」



 そんな事を考えていると、慌てたようなナナシの声。どうやら起きたらしい。



「もう終わったよ。それより、この傷。治してくれないか?」

「あ、ああ……。『心力模倣《治癒》』」



 瞬間、全身を淡い光が包み、痛みが引いていく。



「ふぅ……」

「伏島く〜ん! 大丈夫〜!?」

「ああ! 大丈夫だ!」



 遠くから走ってくる小清水の大声に、同じく大声で返す。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。おとととっ!」

「ここ結構滑るから気をつけてな」

「う、うん……」



 走ってきたからか既に俺よりもヨロヨロな小清水。そんな自分に恥ずかしくなったのか少し頬を赤らめながら、意識を失っている悠香の方に顔を向ける。



「そ、それよりも! 悠香ちゃんは大丈夫?」

「ああ。とりあえずって感じだけど……今は大丈夫だ」

「よ、よかった……。ごめんね? また何も出来なくって……」

「気にしないでくれ。今回はコイツも全く役に立たなかったし」




 ……今回本当にずっと寝てるだけだったな……。コイツ。



「悪かったな。役に立たなくて」

「そんな拗ねるなよ。お前がまともに戦闘に参加しないのなんて今に始まった事じゃないだろ? それにお前には戦いとは別にやって欲しい事が……」

「おーい! 伏島くーん! 大丈夫〜?」

「あ、来た。は〜い! 今行きます!」



 遠くから聞こえてきた添木父の声に返事をし、悠香を背負いながら立ち上がる。



「あれ、伏島くん。怪我は? 凍砂が病院に連れて行けって言ってたんだけど」

「もうナナシが治してくれました。ただ……この格好のまま外に出ると騒ぎになりそうなんで、家まで連れてってくれるとありがたいです……悠香も一緒に」

「ああ……」



 添木父の視線がつま先から頭のてっぺんまで動く。湯ノ花のせいで血だらけになっている俺の見た目は、今外を歩いたらそれだけで通報されかねない。



「うん、そういう事なら任せてくれて全然オッケー! 小清水さんも送ろうか?」

「あ、はい……。それじゃあ……お願いします……」

「よしっ! 決まり! それじゃあ行こうか!」

「あの……この氷はどうするんですか? 結構目立っちゃうと思うんですけど」

「あ、それは気にしないで。こっちで適当に理由でっち上げておくから」

「おお……」



 さすが国家権力……。こんな感じで目立っちゃった時は非常にありがたい。







「到着〜。それじゃ、伏島くん。今日は疲れただろうし、ゆっくり休んでね」

「はい。ありがとうございます。小清水も、また今度な」

「うん。さようなら」

「ああ。さようなら。……よいしょっと」



 別れの挨拶をすまし、車から降りる。悠香は寝たままなので、俺が背負って部屋まで連れて行く。



「ふぅ……」

「お、や〜っと帰ってきた! ……お前随分頑張ったんだな。血だらけじゃねぇか」

「え? 先輩?」



 何故か俺の家の奥から出てきた狩ノ上先輩はそんな風に呑気に感心している。……え? なんでこの人居るの?



「お前が私をおいて出てったんじゃねぇか! 帰ろうにも家の鍵開けっぱで帰るわけにもいかねぇし……」

「す、すみません……。焦ってたので……」

「まぁ別にそこまで怒ってるわけじゃねぇからいいけどよ……。じゃあな。伏島。また今度」

「はい。また今度」



 先輩を見送った後、悠香をベッドに降ろし一息つく。



「ナナシ、起きてるか?」

「もちろんだ。今日は何もしてないからな」

「だから拗ねるなって……。大事な話があるんだ。」

「どうした? 急に改まって」



 俺が真剣な声に切り替えると、ナナシは不思議そうな声を上げる。



「悠香のことだ。どうせお前もある程度の事情は伝わってるだろ?」

「そうだな」



 危険感知の心力を手に入れた時、悠香の感情や記憶が俺の中に流れ込んできた。おそらく、心力が俺の魂に刻まれたことの副作用だろう。


 なら、俺の魂を住処としているナナシにも同じ情報が伝わっているんじゃないかと思ったが、どうやらその考えは正しかったようだ。



「それで、肝心の話ってのはなんだ?」

「悠香を助けることって出来ないか? お前の心力で」



 俺は悠香の魂を通じてアイツの苦しみを知った。だから、出来るだけ早くアイツを助けてやりたい。……俺が救うって言っておきながら、ナナシに頼るのは少し情けない気もするが、背に腹は代えられない。



「出来るぞ」

「っ! 本当か!?」

「ああ。アヤネに感謝するんだな」

「……え? 小清水に? どういうことだ?」

「そのまんまの意味だ。アヤネの心力を使って悠香の記憶を消す。アヤネの心力が無かったら出来ない事だった」

「けど……小清水の心力って……魂の情報を読み取るだけじゃなかったのか?」



 本人がそんな事を言ってたし、実際人の魂を読み取ることにしか心力を……。



「あっ!」

「気がついたか? アヤネの心力はそれだけじゃない。あれはアヤネの心力の一部でしかない。もちろん、ユウカも、ナオも、リアもそれぞれが使い方に余地を持っている。お前は今回それを強く実感しただろ?」

「俺の電撃の事だな」

「そうだ。まあこの話は後でするとして……俺の『心力模倣』はその心力をコピーした時に、その心力の特質を完全に理解出来る。お前の仲間の心力の本質。俺はそれを全て理解している」

「え? ちょっと待て?」

「どうした?」

「皆の心力の本質が分かってるんだったら、なんで教えてやらないんだ? それ教えてくれればそれだけで十分戦力アップじゃないか」

「残念だが、それは出来ない」

「え? なんで?」



 今回の俺みたいな心力の進化が全員に起こればそれだけでこっちの戦力は十分にアップする。嬉しい事この上ない。



「忘れたのか? 心力の進化は暴走のきっかけだ。安易に教えることは出来ない」

「あ……」

「それに、心力の本質は出来るだけ自分の力で見つけたほうが良い。他人に自分の魂の本質を教えられると碌な事にならない」

「そ、そうなのか……」

「そんな訳で、アヤネの心力の本質は魂の情報を読み取る事が出来るという点では無い。が、この事をアヤネに言うんじゃないぞ」

「ああ。分かった」

「それじゃあ話を戻すぞ。ユウカの記憶を消すことは出来る。だが、やるのは今日の夜だ。なにせ幼少期からある記憶で、ずっとそのことに関して悩んでいたんだからな。それらを全部消すとなると時間がかかる。そして記憶を消している間にユウカに意識があると何が起こるか分からん。ユウカもそろそろ起きるだろうしな」

「ああ。ありがとうな」

「それと……最後に聞いておくことがある」

「なんだ?」



 妙に真面目なナナシの声。緊張からか思わず背筋が伸びる。



「ユウカの記憶を消すって事は、お前の母親の最後の働きが忘れられるってことだ。それでも良いのか?」

「もちろんだ」



 なんのためらいもなく、即答。



「そもそも母さんが今の悠香の状況を知ったら悲しむだろうからな。そっちの方が天国の母さんも喜ぶさ。それに……俺は覚えている。悠香の魂を通してな」



 母さんが人の命を救っていたんだ。これほど誇らしい事も早々ない。



「それもそうか。それじゃ、記憶のことは俺に任せておけ。もうすぐユウカも起きるだろうし、しっかり面倒を見てやれよ? 今日は怖いことも沢山あっただろうしな」

「ああ。分かっている」

「うーん……」

「ほら。お前の大切な人間のお目覚めだ。丁重にもてなしてやれよ?」

「うっせ」



 最後に俺をからかいながら、ナナシは消えていった。



「ううん……」

「よく眠れたか?」

「スグ兄? なんで私こんな所で……あっ」



 一瞬混乱を見せた悠香だったが、すぐに口を閉じる。どうやら今日の出来事を思い出したようだ。



「全部終わったから、帰ってきたんだ。今日は泊まってくって約束しただろ?」

「うん……」

「ほら、もう少しで晩飯にするぞ。何か食べたい物はあるか?」

「……オムライス」

「よしっ! ちょっと待ってろ。今から作って……」



 話してる途中で、悠香が俺に抱きついてきた。



「悠香?」

「……しばらくこうしてて良い?」

「……ああ」

「スグ兄……生きてる?」

「そりゃまあ……死んでたらここに居ないしな」

「うぅ……よかった〜ぁぁぁぁ! 今度はスグ兄が死んじゃうんじゃないかって……私、私……。うわぁぁぁん!」



 心底安心したような悠香の泣き声が部屋に響く。俺はそれをただ聞いているだけだった。







「あ〜美味しかった! スグ兄のご飯毎日食べに来て良い?」

「面倒くさい。っていうか毎日俺の家に来るのも面倒だろ」

「ふっ! スグ兄が私の家に来てご飯を作りに来ればいいんだよ!」

「お前ほんっと俺の負担考えないな!」

「まいいや。テレビ見よテレビー」



 俺の叱責を完全に無視し、悠香はテレビのリモコンを取る。泊まれるからか完全に上機嫌である。



「そう言えばお前、寝間着とかどうすんだ? 今日そのまま家に来たからそういうの無いだろ」

「え? スグ兄の貸してもらおうかな〜って」

「はぁ? 寝間着なんて二つも無いぞ?」

「別に寝間着なんて要らないよ? なんか適当なTシャツでもくれればそれで。スグ兄の大きさのなら多分それだけで十分」

「えぇ……。それで良いの? お前」

「他の人の前だったら嫌だけど、スグ兄の前なら良いよ。別に」

「いや良くは無いだろ……。ほんとに何も無いのか……? 無いよな……」



 俺が悠香の寝間着をなんとかしようとクローゼットを探すが、もちろん男である俺のクローゼットに悠香にちょうどいい服は無い。



「スグ兄見て!」

「え?」



 悠香の声を聞き、後ろを振り向くと、何故か寝間着を持った悠香の姿。



「……どこにあったんだ? それ」

「スグ兄が入院したことあったでしょ? その時に持ってきておいた!」

「……なんで?」

「泊まりたい時に勝手に着替えればスグ兄も諦めるかなって」

「お前……ほんっとに……!」

「ほら、出てって出てって着替えるから」

「あっ! ちょっ! おまっ!」



 俺の怒りを華麗にスルーし、悠香は俺を部屋の外へと追い出す。



「ほら、着替えてるからちょっと待ってて。あ、少しぐらいなら覗いていいからね?」

「誰が覗くかよ!」

「ちぇーっ。スグ兄の意気地なし」


 

 何故かそんな不満を漏らしながら、悠香はドアを閉じた。……え? 今の俺が間違ってた?





「くぁぁぁぁ……」

「眠いか?」



 二人でゆったりとテレビを見ていると、悠香が大きなあくび。



「うん……なんでだろ……。ご飯前結構ガッツリ寝てたと思うんだけど……」

「今日は心力いっぱい使ったからな。疲れてるんだろ」

「じゃ一緒のベッドで寝よ〜」

「却下。二人じゃ狭い」

「え〜……。一緒に寝たい〜!」

「嫌……」

「ん? どうしたの? スグ兄?」



 突然黙った俺に、悠香は不思議そうな顔をする。



「しょうがねぇな……。同じベッドじゃ狭いから、近くに布団を敷く感じで良いか?」

「何急に。どういう気の変わりよう?」

「どうせ今日は不安だから一緒に寝たかったとかだろ? 今日はいろんな事があったからな。特別に一緒に寝てやる」

「……」

「? どうした?」

「な、なんでもない! ほら、それなら、早くベッドに行こ!」

「ちょっ! 走るな! ご近所に迷惑だから!」

「は〜い!」



 返事とは裏腹に、ドタドタと足音が部屋に響く。完全に聞いてねぇ……。



「ほら〜! 早く早く〜!」

「はいはい……」



 悠香の声に誘われ、俺もベッドの所へ向かった。





「おやすみー」

「おやすみ」



 二人挨拶を交わし、電気を消す。そのまま手探りで布団の上に寝転がる。ベッドは悠香に取られた。理不尽だ。



「ねぇ? スグ兄? まだ起きてる?」

「ああ。起きてるぞ」



 布団に入り込んでからすぐ、悠香が聞いてくる。



「最後にさ、もう一度お願いしても良い?」

「……なんだ?」

「手……繋いで欲しい」

「……」

「からかってる訳じゃないよ? ただね、活を入れて欲しいなって」

「活?」

「うん。明日から頑張ろうって思えるように、今日だけは思いっきり甘えたいな〜って。ダメ?」



 甘えるような悠香の声。悠香は明日から母さんの事故に関する記憶は消える。だが、その事を知らない。そんな中でも前向きでいようという悠香の決意の表れなのだろう。そう考えたら、断ることは出来なかった。



「これで良いか?」

「うん。えへへ〜」



 自分の手を温かい物に包まれると同時に悠香がだらしない声を上げる。



「離しちゃだめだよ?」

「ああ」

「私が起きた時に手、離したら私大声で泣きわめくからね」

「分かったって」

「じゃ、今度こそおやすみ」

「ああ。おやすみ」

「……」

「……」

「スゥ……スゥ……スゥ……」



 しばらくして、悠香は静かに寝息を立て始める。その安心しきった寝顔を見て、守れて良かったと、そう強く感じた。

 

 

よろしければ高評価、ブックマーク、感想等々お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ