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第四話 心力の実験

投稿は月1程度になりそうです。

 ナナシとの協力を始めてから一週間が経った。しかしながら、まったくと言っていい程進展はない。心力使いが見つからないため、何もできないのだ。ふと疑問に思ったのことをナナシに聞いてみる。



「なあ、ナナシ。200年前はどうやって心力使いを探していたんだ?」

「200年前はもっと簡単に心力使いの噂が流れたんだ。それを元に心力使いを探していた。だから、そういう噂がないと心力使いを見つけるのはかなり難しい」



 と言われてしまった。



「つまり、どうすることできないってわけか」

「そうだ。まあ、心力を使っていないならそこまで気にしなくていい」

「? どういう意味だ?」

「……心力を使ってないなら問題はないってことだ。心力使いが他人に被害を与えるのを止めるのが俺の目的だからな」

「ああ、それもそうか」



 そういえばコイツの目的は他人に危害を加える心力使いを止めることだったな。



「……ところで、お前は今何をしているんだ?」

「これか? 今、心力の実験をしてるんだ」



 今日の予定は全部終わらせて暇だったからな。



「実験?」

「そう。 あいつの心力は電気だったろ? 電気なら色々できるんじゃないかって思って」

「例えば?」

「物を伝って電気を流せることができるんじゃないかと思ってさ、こんな感じで」



 そう言って地面に電気を流す。すると、稲妻が地面を伝う。



「おお、こんな事もできるんだな」

「テーブルランプをこれで動かそうとしても動かなかったから、多分物理的な影響は起こせないんだろうな」

「な、なるほど……」

「お前分かってないだろ」

「……」



 ナナシは俺の言葉に黙る。



「分かってないけど分かったふりしただろ」

「し、仕方ないだろ。電気がなんなのかもよく分かってないんだ」



 そうか、200年前って江戸時代か、そりゃよく分からんわけだ。



「えーっと、電気っていうのは……雷あるだろ?」

「ああ。なんとなく分かった。あれが電気か」

「そうそう。それで、簡単に言うと、その電気ってのはこういう機械を人の力を使わずに動かすのに使われたり、物を冷やしたり、まあ色々使われているんだ」

「なるほどな、心力の電気だとその機械が動かなかったのか」



 この説明で分かるのか……。意外と頭は良いのな、こいつ。



「そう。こういう機械を動かせたらかなり便利だったんだけどなー」



 それだけでも出来ることがかなり増えたんだけどな。



「まあできないことを嘆いても仕方ない。他になにか実験してるのか?」



 ナナシは少しワクワクとしたように聞いてくる。どうやら面白いらしい。正直俺もちょっと面白い



「こっちは実験してるんじゃなくて練習してるんだけど……」



 そう言いながら電撃を右手ではなく左手で放出する。しかし、先程の電撃よりも威力は弱い。



「こんな感じで右手以外からも電撃を出す練習をしてる」

「……なあ、それ、何かに使えるのか?」

「……」

「それって右手から出したほうが効果が高いよな?」

「……き、きっとそのうち役に立つさ」

「どうだかな」



 とナナシに煽られる。クッソ、できることが増えたと思ったのに。



「まあいいや。実験終了!」



 もう特に思いつくこともなかったので実験をやめて、ノートパソコンを開き動画を見始めた。






 翌朝、学校につくと親友でありクラスメイトの岩水響也(いわみずきょうや)が早速話しかけてくる。



「優〜おっはよ〜!」

「おはよう。今日はなんか機嫌がいいな」

「そうなんだよ! 昨日ね、お父さんが使うことなくなったって映画のチケットくれたんだよ」



 響也は嬉しそうに報告してくる。



「良かったじゃん」

「それなんだけどさ、今日一緒に見ない?」

「うーん……。どんな映画?」

「恋愛映画」

「なんで男と一緒に恋愛映画見なきゃいけないんだよ! 誰か女子誘え!」

「僕が女子と二人で恋愛映画見れると思う?」

「……無理だな。あんな事件起こしていたら」



 響也は高校一年のときにまさかの三股をしでかしたせいで一度女子からの信頼が地に落ちている。


 しかし人がよく、イケメンで、運動神経もいい響也はその後の生活態度を改めてなんやかんやで許されていた。


 だが流石に一緒に恋愛映画を見てくれる人はいないだろう。



「あれは本当に申し訳なかった。僕の中の『男』を抑えられなかったんだ」



 そんな事キメ顔で言われても……。



「俺を誘った理由は分かったけど恋愛映画はなぁ……」

「頼むよ〜 一緒に見てくれないと僕、一人で恋愛映画を見るなんて悲しいことするハメになるんだ! 優しかいないんだよこんな事頼めるの。なんならアイス一個奢るからさ」



 と、頭を机につけそうな勢いで頼み込んでくる。どんだけ必死なんだこいつは……。



「ハァ……。分かったよ。で、何時から?」

「ありがと〜! 助かったよ! 時間はえーっと……5時からね」



 メモ帳を取り出し時間を俺に伝えてくる。



「分かった。十分前には映画館に着くようにするよ」

「オッケー」

「響也ーちょっと手伝ってくれー」



 話し終わると響也はクラスメイトに呼ばれる。



「はいはーい。じゃあ優、今日はよろしくね」

「ああ」



 すぐさま呼ばれた方に行く響也。相変わらず忙しそうな奴だ。






「はーい、それじゃあ委員長さん号令よろしくお願いします」

「起立、気を付け、礼」

「「「ありがとうございました」」」



 号令後、帰る準備をして教室から出ると、響也が近づいてきた。



「じゃあ、今日の5時からよろしく〜」

「ああ、分かってる」

「ごめんなさい。待たせました?」



 響也と話し終わると、悠香がやってくる。



「いや。さっきまで友達と話してたし。」

「そうですか。良かったです。それじゃあ帰りましょう!」

「……」

「なんですか?」

「お前もいつもそのくらい大人しければ良いのになぁって思ってな」



 肩くらいまで伸びた茶色い髪にくりっとした瞳はまるで小動物を思わせる。本当に大人しければ可愛い奴なんだけどな。



「それ褒めているようで貶してますよね?」

「100%貶してるな。褒めたつもりは全く無い」

「いくらなんでもひどくないですか!?」

「そういえば先週モクバーガー行った時お前相当ガッツリ寝ちまってたよな? あの後どこか違和感は無いか?」



 少し歩いてから俺はそう切り出す。先週の電撃を流す心力使いとの戦闘で魂が傷ついた悠香は、結局あの日、目を覚まさなかったらしい。


 ナナシによると死なない限り魂は簡単に修復されるので問題はないらしいが魂が傷ついたっていうのは流石に心配だ。



「まだその心配してるんですか? 別にあの日以降特に何もありませんよ。まあ、あの日の記憶あんまりはっきりしてないんですけどね。優くんと一緒に帰った記憶もありますし」

「夢でも見てたんじゃないか?」



 と不思議そうな顔をする悠香を誤魔化しておく。



「あ、そういえば今日はお家に行ってもいいいですか?」

「あー、悪い。今日は予定あるから家には呼べねーわ」

「そうですか……。なら今日はここでお別れですね。それじゃあまた明日〜」

「じゃあな〜」





 家で適当に時間を潰した後映画館に行き、響也を待ちながら映画のあらすじを読んでおく。響也が言ってたとおり、普通の恋愛映画だ。


 面白そうとも、つまらなさそうとも思わないよくある宣伝が行われている。特に期待もせず見ようと思っているとナナシが


(これが今日見る映画か? よく恋愛物は見ていたが、中々設定が斬新で面白そうだな)

(え? お前恋愛物とか見るの?)

(よく見るどころか恋愛物ばっかり見てたな。だが、今までこういう設定の話は見た事がないから楽しみだ)

(へぇ〜、お前ってそういうを見るんだな)



 こいつの口調のせいか、そういうのを見るイメージがあんまり沸かない。もっと派手で動きがあるものを見てるイメージだ。



(逆にお前はそういうのを見ないのか?)

(なーんか好きになれないんだよな。恋人同士が心から通じ合うみたいな描写があるとイマイチ感情移入できなくって)



 そこまで楽しめないってだけで、別に嫌いな訳では無い。まあ、ほどほどに楽しみにしておこう。






 しばらくすると、響也からメッセージが届く。



『もう着いてる? ポップコーン売り場の前に居るんだけど』

『分かった。今行く』



 素早く返信して、ポップコーン売り場に向かうとメッセージどおり響也が待っていた。



「お、来た〜。元気だった?」

「なんで久しぶりに会ったみたいな雰囲気なんだよ。二時間くらい前まで一緒だったろ」

「優にとっては短い二時間かも知れないけど、僕にとってはとんでもなく長い二時間なんだよ。僕がどれほどこの時を持っていたか……」

「……そういえばお前のお父さんどうして恋愛映画なんて見ようとしてたんだ? 映画見る趣味でもあるのか?」

「それもあるけど確かデートじゃなかったかな? 母さんと離婚してから父さん僕のために再婚しようと必死だし。結局振られたっぽいけど」

「ああ、そういえば去年お前の親が離婚したって言ってたな」

「そうそう、おかげであのクソ親とも離れられたし、友達とも遊べるようになったし、良いこと尽くしだね! ……まあ父さんは僕の為にスゲー苦労してるっぽいけど」



 別にもう母親とか居なくても良いんだけどな、と響也は不満をブツブツと述べている。



「まあまあ、それくらいお前のことを大事に思ってるってことだろ。もう映画始まるし」

「あ、もうそんな時間か。じゃあ行こうか! 男二人で恋愛映画!」

「改めて聞くと中々虚しいな。これ」

「いいじゃん、いいじゃん。僕は楽しみだよ?これ原作は結構好評らしいし」






「いや〜意外と面白かったな!」

「主人公とヒロインがしっかり結ばれるタイプのハッピーエンドだったし、面白かったね! 僕ボロボロ泣いちゃったよ」



 そういえばこいつも途中で鼻をズビズビいわせてたな。俺はそんな事なかったが周りでも何人も泣いていたし、結構普通のことなんじゃないだろうか。



「それにしてもあそこの伏線は見事だったな。まさか主人公生まれながらの体質とヒロインの病気が重さが違うだけで、全く同じ症状なの全く気付かなかった」

「後さ、付き合った後のさ、二人の心が完全に通じ合ってる感じが良いよね!」

「あ〜……そうだ……な。俺もああいうの好きだな」

「良いよね〜心が浄化されると言うか、和むというか……ごめんちょっとトイレ行ってくる。コーラ飲みすぎた」



 そうして響也はトイレへと向かっていった。



(で、お前はいつまで泣いているんだ?)

(う、うぅ……悪い……だが、うぅ……こんな良い話見せられたら……あぁ駄目だ、思い出しただけで涙が……)



 さっきから泣いているナナシに、思わず呆れる。どうやらこいつは相当涙もろいらしい。映画の大事なシーンで声をあげて泣くもんだからいまいち集中出来なかった。



(お前いくら何でも泣きすぎじゃないか? もう映画終わってからかなり時間経ってるだろ。エンディングとか一応全部見てたし)

(逆に……ズズッ……お前は……なんで泣いていないんだ? こんないい話を見せられたら……ウウッ……普通は涙の一粒くらい流すものだろ!)



 感情が昂ぶってきたのか、鼻をすする音と共に俺に向かって声を荒げる。



(えぇ……? なんで俺が怒られてるんだ?)



 普段の冷静な態度と打って変わって情緒が不安定なナナシに困惑していると――



(……)

(ん? どうした? 急に黙り込んで。大丈夫か?)



 先程までの騒がしさが嘘のように静かになる。さっきからめちゃくちゃに泣いているかと思ったら、怒ったり、静かになったりと情緒が不安定すぎる。



(ああ、大丈夫だ。騒がしくしてすまない。どうやら魂だけの状態で感情が昂ぶりすぎると感情が抑えにくくなるみたいだ。おかげで柄にもなく号泣してしまった)

(お、おう……。そういうことだったんだな。びっくりした)



 あまりにいつもとテンションが違うからおかしくなったのかと思った。



(まあそう何度も感情が昂ぶる事もないだろうからな、問題無いと思うぞ)

(ああ。それなら良かった)



 あれが頻繁に起こると結構疲れそうだからな。精神的に。





「優〜おまたせ〜」



 ナナシとの会話に一段落つくと、丁度いいタイミングで響也が帰ってくる。



「おう、それで今6時半だけど飯どうする? これから適当に食べるか、もう解散するか」

「あ〜せっかくだしファミレスでも行こ。ここから一番近いのってサイべリア?」

「いや、ザストのほうが近いと思う」

「じゃあザストに行こう! 何食べよっかな〜」






「ふう〜美味しかった〜。外食は楽で良いね。お金かかるけど」

「まあ、今日は映画代がタダだったから別に良いんじゃないか?」

「そりゃそうだけど……ん?」

「どうした?」



 ザストで食事をした後、家に帰る途中、公園の前で響也の足が止まる。



「いや、あそこに居るの小清水さんじゃない? 誰と話してるんだろう?」

「……誰だっけ?」



 急に記憶に無い名前を言われて困惑。



「……優、クラスメイトの名前くらい覚えておこう? 同じクラスの小清水彩音(こしみずあやね)さんだよ! なんか男子が苦手だから少し気を使ってあげてって言われなかった?」

「あー! 思い出した! たしかにそんな事言われてたな」



 普段全然関わらないから忘れてた。



「そうそう。あんなにきれいでおっぱい大きいのにもったいないよね〜。こんなに離れてても大きいのが分かるよ。あれ」

「お前……。それ男が苦手な人に対して言うのはどうなんだ?」

「別に聞こえなければ問題ないでしょ。ていうか小清水さんなんか様子が変じゃない?」

「そうか?」



 響也に言われて、小清水さんの方をよく見る。確かにこんな夜遅くに誰かと話しているにしては顔が強張っている気がする。



「どうする? 声かけたほうが良いかな?」

「どうだろ、男が苦手なんだろ? こんな時間に話しかけられたら困るんじゃないか? もう辺りも暗いし」



 どうするか迷ってると、小清水さんが困ったように周りを見回す。



「ほら、これ声かけたほうが良いって。明らかに助け探してるじゃん。ほら、行くよ」

「おい! ちょっと待てって!」



 響也は俺を無視して小清水さんの方へ小走りで向かっていった。





「小清水さーん! 大丈夫?」

「ッ!」



 小清水さんは背後から突然声を掛けられた事ビクッとして、こちらを振り返る。



「あ! い、岩水さん! ハァ、ハァ、た、助けてください! わ、私、もうどうしたら良いのか……ハァ、ハァ」



 小清水さんは軽くパニックなのか、呼吸が浅く、響也との距離も近い。



「ちょ、ちょっと一旦落ち着いて。ほら、深呼吸、息吸って、吐いて」

「すうぅ……はあぁ……す、すいません。取り乱してしまって……そ、そちらの方もはじめまして。私、小清水彩音です。よろしくお願いします」



 小清水さんはうやうやしく頭を下げる。



「あ、あぁ……。まあ話すのは初めてか」

「え?」

「ハハハッ。優は小清水さんと同じ2年A組だよ」

「響也の言う通り、俺は2年A組の伏島優だ。よろしくな」

「え!? す、すいません! 私、とても失礼なことを!」



 小清水さんはすごい勢いで謝ってくる。



「ああ、大丈夫、大丈夫。俺もさっき小清水さんのこと響也から聞いたし」

「い、いえ! 私なんて地味なので覚えていなくても当然です!」

「そんな事無いよ! 小清水さんは男子の中でもかなり有名だから。覚えていない優がおかしいだけ」

「そ、そうなんですか? あ、ありがとうございます……」



 響也が色々フォローしてくれたおかげで、小清水さんもかなり落ち着いたようだ。さすが、女子の扱いを心得ている。



「それで……この人はどうしたんだ?」



 先程から気になっていた小清水さんの近くのベンチに居る女性について聞いてみる。目はどこか虚ろで、手は力なくベンチから放り出されている。


 響也も気になっていただろうが、先に小清水さんを落ち着かせることを優先したようだ。



「そ、その……私もよく分からないんですけど……この人、さっき道に倒れてて、自分で立ち上がる位の力は残っているっぽいんですけど、自分の意思で動く事ができなくなっているみたいで……それで、た……」



 急に小清水さんが話を止める。



「ん? どうしたんだ?」

「い、いえ! なんでも無いです! そ、それで、どうしたら良いんでしょうか?」

「え? そりゃ、倒れてたんだから救急に連絡すれば良いんじゃない?」

「あ、そ、それもそうですね……すいません……どちらか救急車お願いできませんか? 私、緊張で喋れなくなりそうで……」

「ああ、じゃあ俺が呼んどくよ」



 さっきの会話からして、小清水さんこういうの苦手そうだもんな。



「す、すいません……ご迷惑をお掛けして……」

「大丈夫、大丈夫。別にこれ位どうってことないって。それで……これなんて言えば良いんだ?」

「さぁ? とりあえず、症状そのまま伝えれば?」

「それもそうだな」



 まあ、体は動かせるならそこまで問題は無いだろ。



(おい、スグル)



 響也のアドバイス通り、そのまま症状を伝えようと考えてから携帯に救急の電話番号をいれると、ナナシが突然話しかけてくる。



(なんだよ、急に。今から電話するんだけど)

(その女、魂がなくなっているぞ)



 ナナシははっきりそう言い放った。

新たな事件発生!

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